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AWS、1/10のコストで5倍の性能を実現するマネージドRDBサービス「Aurora」を発表

クラウドはいまや“新しき標準”――「AWS re:Invent」ジャシーSVP基調講演

 米国ラスベガスで11月11日~14日の4日間に渡り開催されているAmazon Web Services(AWS)の年次プライベートカンファレンス「AWS re:Invent」。3回目の開催となった今回は世界中から1万3500名のユーザー/パートナーを集め、まぎれもなく世界最大規模のクラウドイベントの様相を呈している。

 re:Inventでは毎回、AWSの顔である2人のトップ――シニアバイスプレジデントのアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏とCTOのヴァーナー・ボーガス(Werner Vogels)氏がそれぞれキーノートスピーチを行い、新サービスを発表する。そしてそれらがクラウドのトレンドを大きく左右する存在になることはほぼ間違いない。今回のキーノートではいったい何をリリースしてくるのか――。本稿では11月12日(現地時間)に行われたジャシー氏のキーノートの内容を紹介する。

アンディ・ジャシー氏

1/10のコストで5倍のパフォーマンスを実現するAurora

 ジャシー氏は今回、全部で7つの新サービスをキーノートにおいて発表している。

・MySQL互換のマネージドRDBサービス「Amazon Aurora」
・Amazon EC2上へのコードデプロイを自動化する「AWS CodeDeploy」
・Webベースのデータワークフローサービス「Amazon Data Pipeline」
・Gitリポジトリをホストするマネージドサービス「AWS CodeCommit」
・暗号キーを保管/管理するマネージドサービス「AWS Key Management Service(KMS)」
・リソース管理/監査のマネージドサービス「AWS Config」
・利用可能なプロダクトをポータルからカタログ形式で提供する「AWS Service Catalog」

 このうち、最も注目度が高かったのが最初に発表したMySQLベースの「Amazon Aurora」だ。ジャシー氏はAuroraについて「商用データベースの1/10のコストで5倍のパフォーマンスを実現する」と表現しているが、5倍というのは「Amazon RDS for MySQL」に比較してのパフォーマンスを指している。厳密に言えば“Aurora”はデータベースエンジンの名称であり、Amazon RDSユーザーは「MySQL」を選択するとメニューからOSS版MySQLかAuroraを選ぶことができるようになる。既存のRDS for MySQLユーザーがAuroraにマイグレーションすることも可能だ。

AWSによる新しいクラウドデータベース「Amazon Aurora」
AuroraはMySQL 5.6と完全互換だがパフォーマンスは5倍

 AuroraはMySQL 5.6互換で、今後のMySQLのバージョンアップにも対応していく予定だが、5.6以前のバージョンはサポートしない。ストレージエンジンはInnoDBで、ストレージ容量はデフォルトで10GB、最大64TBまでスケールする。料金は利用したストレージ容量のみ課金され、まさしく“クラウドデータベース”と表現するにふさわしい。

 Auroraの最大の特徴はやはりそのパフォーマンスにある。1分あたり最大600万ものインサート処理と3000万件のSELECTを実行できることに加え、分散処理による書き込みの高速化が著しい。Auroraはストレージに書き込みが行われると、自動的に3つのAvailability Zone(AZ)に複製を行い、さらに各AZ内で2つのコピーを作成する。つまり合計で6本のディスクに分散して書き込みが行われるわけだが、このうち4本への書き込みが完了すると次の処理に移る。

 バックエンドにはSSDベースのストレージアレイが用意されており、10GBずつのブロックに分散して書き込みが行われる。このように書き込みの分散処理を最適化することでパフォーマンスとともに高可用性も担保している。また、フェイルオーバー先として15個のリードレプリカ(プライマリインスタンスとストレージを共有)を作成することも可能だ。

 MySQLを高速化し、信頼性や高可用性、堅牢性も担保するAuroraを“Oracleキラー”と評する向きも少なくないが、re:Inventに参加していたアナリストの一人は「"Oracleキラー"という見方もあるが、どちらかといえばAuroraはRAC(Real Application Cluster)キラー。フォールトトレラントの概念を変える可能性がある」とコメントしている。パフォーマンスに加え、3つのAZにおける同時書き込み、15個のリードレプリカなど、たしかに従来のRDBMSにおけるフォールトトレラントとは考え方を大きく異にする存在といえる。

 「この40年、データベースはモノリシックでメインフレーム時代のアーキテクチャを引きずっていた。ならばAWSが新しい時代にふさわしいリレーショナルデータベースをリデザインすべきだと気づいた。商用データベースのクオリティとオープンソースのコストを兼ね備えたデータベースを」(ジャシー氏)。

 Auroraは11月12日からプレビュー版の利用が可能になっている。価格は1時間あたりの利用で0.29ドルに設定されており、あとはストレージの使用量に応じた従量課金となる。

「顧客から求められているのは商用データベースのクオリティとオープンソースのコストを備えたRDB」だという

開発者を支援する3つのサービス

 「AWS CodeDeploy」「Amazon Data Pileline」「AWS CodeCommit」はコーディングやテスト、デプロイといったライフサイクルを速く、効率的に回すことを意識したサービスで、開発者が開発に集中することを支援する。AWSの開発はすべてDev&Opsで行われていることはよく知られているが、そのスピードをいかに速くしていくかは同社にとっても生命線といっていい。「1分間に95回、年間5000万にも上るデプロイを速く回す」(ジャシー氏)ために立ち上げたプロジェクト“Apollo”がベースになっており、AWSの開発における知見が詰め込まれたサービス群といえるだろう。

 鍵管理の「AWS KMS」は一言で言えば“暗号鍵の管理にもセキュリティ&ガバナンスを”というイメージに近い。AWSはことあるごとに「セキュリティはわれわれのトッププライオリティ」とメッセージを出しているが、その自信は「セキュリティやガバナンスを強化したいからAWSを選ぶ顧客が増えている」(ジャシー氏)という発言にも表れている。

 そしてKMSは、エンタープライズのセキュリティに対するニーズをさらに深く掘り下げたサービスということができる。マネージドサービスとして暗号鍵を管理するKMSはクラウドだけでなくオンプレミスのサービスやアプリケーションも対象となる。ディスクやメモリといった物理デバイス上で鍵を管理するのではなく、鍵の生成から暗号化、そして鍵の管理までをクラウドで一括で行うというこのサービスは「顧客からの強い要望から生まれた」(ジャシー氏)ものであり、もっと言えば、そうした要望が出るほどにAWSのエンタープライズにおけるセキュリティアプローチが認められたことの現れでもある。

クラウドだけでなくオンプレミスの暗号鍵も一括で管理できるマネージドサービス「Amazon KMS」

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 「re:Inventはカンファレンスはテクノロジカンファレンスでもマーケティングカンファレンスでもない。エデュケーションカンファレンスだ」とジャシー氏はキーノートの冒頭でこう強調している。

 ユーザーやパートナーがAWSとともにクラウドの可能性を学び合うための機会、それがre:Inventだという。「今回の発表の内容をあなたの会社に持ち帰り、組織を、そしてあなたの顧客を変えるのに役立ててほしい」とジャシー氏。ここで発表された新サービスは、2年前の「Amazon Redshift」や昨年の「Amazon Kinesis」のように強い衝撃を与えるようなものではない。

 だがここ数年におけるクラウドの広がりだけでなく深さを感じさせる内容だということもできる。AWSを使い込むようになればなるほど、顧客からはさまざまな要求が出てくる。その要求に応えていくことでAWSも成長していく。「コンペティター(競合)にはフォーカスしない。われわれがフォーカスするのはカスタマーのみ」とはジャシー氏に限らず、AWSのトップが必ず口にするフレーズだ。

 だがそれは別に口先だけのことではない。今回リリースされたサービスを見る限り、AWSは本当に顧客の要望に応えていくので精一杯なのかもしれない。

五味 明子