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富士通研究所、指で直感的に触って操作できる次世代UIなどを公開
(2013/4/4 06:00)
ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティの実現に向けて
富士通研究所の富田達夫社長はまず、「富士通グループの発展を先進テクノロジーで支えるのが富士通研究所の役割。約1500人の研究員が所属し、既存ビジネスの成長に貢献する技術を研究する一方、中期的な観点では新ビジネスに向けた持続的イノベーションの創出、長期的には新市場・ビジネス開拓に向けた飛躍的イノベーションの研究開発に取り組んでいる」と、同社の立場を説明した。
富田社長によれば、「富士通の現事業と連携する事業戦略テーマに全体投資の約40%、少し先を見据えた全社骨太テーマに約40%、研究者の知見をもとに将来の種を捲(ま)くシーズ指向テーマに約20%を投資している。昨年度は5つの全社骨太テーマを設定していたが、そのなかから事業戦略テーマへ移行したもの、シーズ指向テーマから入ってきたものを含めて4つの領域にテーマを再編した。2013年は、『ユビキタスイノベーション』、『ソーシャルイノベーション』、『ICTイノベーション』、『ものづくり革新』に取り組む」とのこと。
また、飛躍的イノベーションに向けた戦略策定の強化として、富士通研究所内と富士通グループとの横連携、外部の研究機関との連携などを行うための組織として、ライフイノベーション研究推進室、ATO(Academic Technology Outlook)推進室、モビリティ研究推進室、オープンイノベーション推進室を設置。新市場および新ビジネスに向けた研究開発の方向を示し、開発を始動させるほか、技術情報および技術動向のアンテナ機能の強化、注力技術分野でのイノベーション強化を図っていく姿勢を強調した。
さらに、「社会の個々の課題を、パッチを当てるようにひとつひとつ解決するのではなく、それぞれの課題が組み合わさるように、社会全体の課題をシステム全体としてとらえて解決していく必要がある。竹のように柔軟で、壊れにくい社会を実現したいと考えており、富士通研究所は、そうした方向に向けて研究開発を進めている」と、全体の方向性を説明。
富士通全体としては、「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティの実現に、3年前から取り組んでいる。技術力、品質と信頼、環境配慮といった富士通の共通基盤の上で、『人が活動する場でのイノベーション実現』、『ビジネス・社会を情報装備』、『ICTによるEnd-to-Endで全体最適化』という、3つのアクションを実行していく。それに向けた研究開発の成果が出ている」とした。
このうち「人が活動する場でのイノベーション実現」では、五感や自然な動作で個人の能力をサポートする技術や、センシングによりモノの情報が共有されるネットワーク環境の構築、人とモノが社会とつながるネットワークの構築などを挙げる。
2つ目の「ビジネス・社会を情報装備」では、大量データの処理、セキュリティ基盤、データの利活用の技術が重要になるとし、予兆見地型セキュリティ基盤の構築や、多様なデータからの知識統合などの技術を挙げた。
3つ目の「End-to-Endで全体最適化」では、プロアクティブネットワークやファブリックコンピューティング、アプリCMなどの技術を取り上げ、サポート&サービス最適化、インフラの最適化および効率配備といったことに取り組むという。
そしてこれらを支える「共通な基盤」として、「ものづくりシミュレーション」「ソフトウェアものづくり」「材料・デバイス・実装」といった3つの観点から、ヒューマンセントリック・インテリジェント・ソサエティの実現に取り組むとした。
2つの新技術を披露
説明会では、新たな技術として、2つの技術について説明した。
ひとつは、リンクが張られた公開データ向けの大規模格納・検索技術。リンクが張られた400億項目におよぶ公開データ(LOD=Linked Open Data)を格納し、これに特化した高速検索技術により、数百億項目を検索。視覚的なインターフェイスで、必要なデータを直感的に検索できるようにしたという。
富士通研究所 ソフトウェアシステム研究所の原裕貴所長は、「ビッグデータにおいては、ソーシャルメディア、センサーデータに続き、第3の波としてオープンデータが注目を集めている。行政を中心に図書館や学会などの公共性の高いデータが次々と公開されており、日本でも電子情報通信学会が文献検索サービスを開始したところだ」との現状を紹介。
LODについて「企業システムと連携した新たなデータ利活用の可能性がある。今回、開発した技術はLODの構造に特化した高速分散検索技術で、従来に比べて5~10倍の高速検索が可能になる。また、さまざまな条件による絞り込み検索が可能になる検束インターフェースにより構成される」とし、「LOD活用基盤として、富士通クラウド上でグローバルに無償公開していく予定であり、LOD活用の普及に貢献したい。また、富士通のデータ利活用ビジネスとも連携し、新たなデータ複合型サービスをさまざまな分野で実現する」と述べた。
もうひとつは、指で直感的に操作可能な次世代ユーザーインターフェイス。実物を直接指で選択するだけで、データのやりとりが可能になるというもので、手指の位置や、対象物へのタッチを、2つのカメラで高速、高精度に検出する手指認識技術を採用。3次元空間を認識し、対象物の形状や手の動きにあわせて表示、操作することができる。
富士通研究所 メディア処理システム研究所の鈴木祥治所長は、「実世界とICTの座標変換技術、手指認識の安定化技術、高精度・高速指先認識技術の3つの技術によって実現したもの。具体的な用途として、机の上に置いた紙を、指で囲んで電子化し保存するといった『簡単スクラップ』、紙の旅行パンフレットをテーブルの上に置いて、欲しい情報を重畳表示し、自分独自のパンフレットを作れる『お好みパンフレット』、手書きの付せんメモをテーブルの上に置くことで電子化し、動かしたり、グルーピングする『ブレスト支援』などといった活用が可能になる。どこでも誰でも使いやすい自然な次世代のユーザーインターフェースを実現しており、PCがなくてもICTサービスを受けられる世界を実現できる」という。