ニュース

富士通、在宅医療をICTで支援するクラウドサービス「高齢者ケアクラウド」

左から富士通株式会社 ソーシャルクラウド事業開発室長の阪井洋之氏、医療法人社団鉄祐会「祐ホームクリニック」の武藤真祐理事長、富士通株式会社 執行役員常務の川妻庸男氏

 富士通株式会社は1月23日、在宅医療支えるクラウドサービス「高齢者ケアクラウド」を提供開始すると発表した。価格は在宅医療支援SaaSは月額7万円から、在宅医支援コンタクトセンターサービスは月額10万円から。5月からは在宅チームケアSaaSを提供見込みで、価格は月額7万円からを予定。2015年度までに売上累計60億円を目標とする。

 富士通株式会社 執行役員常務の川妻庸男(かわつまつねお)氏は、富士通が中長期ビジョンとして掲げている『ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティの実現』について説明。「たとえば医療の分野では、電子カルテがコンピュータメーカーにとっては一番の医療分野でのアプリケーションになる。しかし、電子カルテというものが進歩しても病気になる人が減るわけではない。そういう意味で言えば、病気にしない、あるいは健康診断の結果から病気を予測するといった、もっともっと人間寄りのシステムを作りたい」と述べ、そうした事業施策の1つとして、「高齢者ケアクラウド」の提供を開始すると述べた。

高齢者医療・介護への富士通の取り組み

 「高齢者ケアクラウド」の事業を統括する富士通株式会社 ソーシャルクラウド事業開発室長の阪井洋之氏は、超高齢化社会の現状として、「団塊の世代600万人が2012年に65歳に到達し、高齢者人口が3000万人超、総人口の24%に達し、2025年には高齢者が30%に達する。高齢独居世帯は550万人、高齢世帯は2000万世帯超に上り、高齢者の6割は自宅療養を希望しているが8割は病院で死亡している」との数字を上げた。

 また、超高齢社会の課題として、医療や介護資源が不足し、2012年に35兆円の国民医療費は2025年には52兆円へ増加すると予測されており、病院や施設で高齢者を支えることが限界へ来ている。こうした現状から国も在宅医療推進を打ち出しており、病院・病床の再編を行い「救う医療」と「支える医療」の機能分化と体制づくりが必要となっていると説明。

 高齢者向け市場の規模は、「医療」「介護」「生活産業」の3事業分野における高齢者(65歳以上)の消費市場は2012年の65兆円から高齢者人口増加を背景に2025年には100兆円規模に拡大するとの予測を上げた。

高齢者向けマーケット市場規模
富士通の高齢者ケア実証への取り組み

 富士通は、高齢化が深刻化する都市部で在宅医療に取り組む医療法人社団鉄祐会「祐ホームクリニック」の武藤真祐理事長とともに2010年から実証実験を開始。2012年7月からは総務省の在宅医療・介護情報連携推進協議会のプロジェクトで、震災を機に超高齢社会の課題が浮き彫りになった被災地においても「祐ホームクリニック」と2012年7月から実証実験に取り組んでいる。

 阪井氏は実証から見えたこととして、(1)在宅医療の提供体制整備が急務である、(2)医療・介護がチームで高齢者をケアするネットワークの構築が必要、(3)健康面に加えて、住まい・金融・法律・食・移動など生活全体を包括的に支える社会づくりが必要、の3点を上げた。

 こうした課題に対応するソリューションとして提供する「高齢者ケアクラウド」だが、病院向けから在宅医療・介護向け、地域・NPO向け、生活産業向けまで幅広いラインナップとする予定。このうち、今回発表となった在宅医療・介護向けサービスについては「往診先生」というブランド名で提供する。病院向けと地域・NPO向けはすでに提供済みで、生活産業向けは2013年に実証を行う予定だ。

高齢者ケアクラウドのコンセプト
高齢者ケアクラウドの位置づけ

在宅医療・介護サービス「往診先生」

 富士通は高齢者ケアクラウドの第一弾として、1月23日より「在宅医療支援SaaS」、「在宅支援コンタクトセンターサービス」を、5月から「在宅チームケアSaaS」の提供を開始する。いずれも在宅医療・介護向けの「往診先生」のサービスブランドで提供する。追って2013年度内に「訪問介護システム」「介護システム」を提供する予定だ。

「高齢者ケアクラウド」商品体系
「往診先生」ビジネススキーム

 「在宅医療支援SaaS」は、在宅医療現場を効率的に支援することを目的とする。機能的には、患者宅周辺の駐車場から玄関までの位置を案内表示する「Dr.ナビゲーション機能」や、他の患者宅との位置関係から最も効率的な往診予定を設定できる「スケジュール名人機能」など、緊急時にも役立つ機能を用意した。

 患者宅訪問時に、更新された患者ごとの基本情報や定期処方情報などをタブレット端末上から確認することができる「訪問シート機能」も提供。訪問した患者宅で処置の漏れがない診療をサポートする。

 サービス価格は初期費用30万円。月額利用料は5IDで7万円、追加は1IDあたり3000円(いずれも税別)。

在宅医療SaaSの利用イメージ
GPSで往診中の医師の車の位置を表示。急患の際にも最も近いところにいる医師に対応を依頼するなど効率的に往診ができる

 在宅医療・介護の現場では、高齢者の身体・認知能力の差により、医師、看護師以外にも、薬剤師、ケアマネージャー、介護士など多くの専門職種がチームを組んで高齢者を支えているが、5月から提供を開始する「在宅チームケアSaaS」では、それらの多職種間でケアに必要となる共通指標――身体状況、生活状況、スケジュール、メッセージなどをクラウド上で共有。チームのメンバーはいつどこでも最新の情報を確認できる。

 サービス価格は初期費用30万円。月額利用料は10テナントで7万円、追加は10テナントあたり3万円を予定(いずれも税別)。テナントは在宅医療施設、介護士、薬剤師、ケアマネージャーなどの事業者を指し、10テナントは10の事業者間で情報を共有できる。

在宅チームケアSaaSの利用イメージ
在宅チームケアSaaSの共通指標

 「在宅医支援コンタクトセンターサービス」は、専門のトレーニングを受けた看護師を常駐させ、夜間休日の電話受付対応を行う専用のコンタクトセンターを設置。患者や家族からの連絡や問い合わせに24時間365日対応する。

 価格は初期費用10万円、月額利用料は患者数50人で10万円を基本とし、以後患者50名追加ごとに5万円(いずれも税別)。

在宅医支援コンタクトセンターサービスのイメージ図

 在宅医療に取り組み、富士通の実証実験に協力してきた医療法人社団鉄祐会「祐ホームクリニック」の武藤真祐理事長は、導入の効果として、ミスが劇的に減ったこと、それにより患者の信頼をより得られるようになったこと、また、訪問ルートの最適化などでより多くの患者を診療することができ、また医師が患者に向き合う時間が増えてことを上げた。また、コンタクトセンターを利用することで24時間の対応が必要となる在宅医療に携わる医師や看護師の負担を軽減でき、医療チームスタッフの離職率の低減にもつながるとした。

「往診先生」導入で期待できる効果

(工藤 ひろえ)