日立、クラウド、スマート、ビッグデータの3点を重点事業に

情報・通信システム事業で2015年度に2兆3000億円目指す


 株式会社日立製作所(以下、日立)は14日、アナリストおよび報道関係者を対象にしたHitachi IR Day 2012を開催。そのなかで、情報・通信システム事業における取り組みについて、同社情報・通信システムグループ長兼情報・通信システム社社長の岩田眞二郎執行役専務が説明した。

 

2015年度の売上高2兆3000億円が目標

情報・通信システムグループ長兼情報・通信システム社社長の岩田眞二郎執行役専務

 岩田執行役専務は、「社会インフラシステム分野での事業拡大により、グローバルメジャープレーヤーを目指す」と宣言。「2012年度以降は、高信頼クラウド事業、スマート情報事業、ビッグデータ利活用事業に注力し、システムソリューション事業、プラットフォームの売り上げ拡大を目指す」とし、2015年度には、売上高2兆3000億円を目標に掲げたほか、サービス売上高比率を65%に、海外売上高比率を35%にまで高める方針を示した。また、営業利益では2015年度に1850億円、営業利益率8.0%以上を計画。2011年度実績の1071億円、営業利益率5.8%を、さらに拡大させる考えを示した。

 「将来的には2けたの営業利益率を目指したい。数年前から営業利益率を2%引き上げるためのコスト削減などへの取り組みを行ってきたが、Hitachi Smart Transformation Projectの取り組みを通じて、8%以上のところに引き上げていくことになる。今後、国内市場の成長はないと考えているが、国内でのシェア挽回(ばんかい)と、新分野での展開を強化する。成長そのものはグローバル市場に求めていくことになる」などとした。

 前年比6.8%増となった、2011年度における情報・通信システム事業の売上高1兆7642億円の構成比については、ハードウェアが30%、ソフトウェアが10%、サービスが60%となっていること、また、国内事業が75%、海外が25%になっていることを示し、国内では金融分野向けが30%、公共が20%、産業・流通が20%、社会インフラが30%になったことを示す。一方、国内のサービスや海外のストレージソリューション、コンサルティングなどが増加したことを増収要因と位置づけたほか、通信ネットワークなどのハードウェアの収益性改善などによって増益になったとした。

 「昨年のこの時期に、1兆7000億円の売上高を目指すとしたが、その数字を上回った。だが、営業利益は掲げた数字には届かなかった。この背景には、円高の影響、タイの洪水被害、導入したシステムの一部で不良が発生したことなどがある。中期的な計画に対しては、オントラックで進んでいると認識している」とした。


情報・通信システム事業の売上高構成売上高推移と見通し営業利益推移と見通し

 

今後の注力分野はクラウド、スマート、ビッグデータ

今後の注力分野としては、「高信頼クラウド事業」「スマート情報事業」「ビッグデータ利活用事業」の3つを掲げる

 今後の注力分野として掲げた「高信頼クラウド事業」、「スマート情報事業」、「ビッグデータ利活用事業」については、それぞれ次のように説明した。

 高信頼クラウド事業では、「ミッションクリティカルな業務や社会インフラ対応の高信頼クラウドを目指す」とし、2012年度の売上高見通しを2000億円、2015年度の売上高計画を5000億円とした。

 「クラウドはバズワードになっているが、昨年度から、普通のシステムとして導入されるようになってきた」とし、東京スカイツリーや森ビルでのエネルギーの見える化への取り組み、日本たばこ産業、法政大学などでのプライベートクラウド構築、国土交通省やぐるなびへのサービス提供基盤などの実績をあげながら、製造、流通、教育、行政、交通、金融、健康・医療、水、エネルギーなどのさまざまな業種、業態、用途での適用から、大規模システム、基幹システムへの適用拡大を図る姿勢をみせた。

 また、グローバル市場での事業強化では、日立データシステムズのストレージソリューションとの組み合わせ、日本マイクロソフトのAzureを活用した日系企業の海外進出を支援する事業基盤の提供、中国・大連の日創信息技術によるデータセンターや、北大方正集団による中国向けクラウドサービスの提供などにより、アジア地域での事業拡大においての協業も図っていく。

 さらに、カンパニー連携による最適なソリューション提供とその強化にも取り組むとした。


2015年度の事業目標高信頼クラウド事業戦略

 スマート情報事業戦略では、社会インフラ向け情報・通信システム事業の開拓と新事業開拓の推進、拡大を目指し、2015年度には1000億円の売上高を目指すとした。

 ここでは、社会インフラを担う顧客向けの情報、制御、インフラを組み合わせた提案型事業、人員強化による「社会インフラ事業の深耕」、米ハワイで行っている離島型スマートグリッドをはじめとした国内外のスマートシティ実証実験のビジネス展開や、中国・広州や大連、英国の鉄道車両保守などの実案件への取り組みなどにより、「実証実験を通じた実績・ノウハウの構築と実案件への展開」、都市管理クラウドや需要家エネルギー管理クラウド、保守メンテナンスクラウド、スマート・ビジネス・イノベーションラボによるビッグデータ分析・モデル化サービスのほか、EAM(資産管理)、GIS(地図情報管理)、MDM(メタデータ管理)基盤整備などの「コアとなるソリューションの開発・整備および展開拡大」の3点をあげた。

 情報・通信システム社では、グループ会社をまたがった動きなどに対応するために、社会インフラ対応専任組織を2012年4月に設置。これにより、社会インフラ事業分野で事業拡大を図る考えも示した。

 「社会インフラにおいて、情報・通信システムは『神経』となるもの。だが、グループやカンパニーをまたがって推進することができない反省があった。いまは、社会インフラ対応専任組織は、企画部門のなかに設置しているが、これを近い段階でライン側に移行させて、より積極的な展開をしていきたい」とした。


スマート情報事業戦略

 一方、ビッグデータ利活用事業は、2015年度に1500億円の売上高を目指すことを示しながら、顧客やビジネスパートナーとの協創の推進、ビッグデータの利活用に関するサービスの提供開始、ビッグデータ利活用を支えるプラットフォーム製品、技術の開発の3点を重点的な取り組みにあげた。

 ビッグデータ分析による顧客のビジネス価値創出の支援に向けては、2012年6月からデータ・アナリティクス・マイスターサービスを提供したほか、データ・アナリティクス・マイスターを200人体制に拡大。さらに、製品、技術面では、2012年4月から開始したHitachi Unified Storageのグローバル展開や、東京大学と共同開発した超高速データベースエンジンを生かしたプラットフォーム製品を2012年5月から投入したことなどを示し、「ビッグデータは、データを収集、保管し、それを使えるようにして、ビジネスに展開していくという、多くのステップを踏むことになる。日立では、それを上流から対応できる体制を作った。ビッグデータは、スマート、クラウドといった領域にもかかわるものであり、私自身も期待している領域である」と語った。


ビッグデータ利活用事業

 

グループ連結経営による事業強化と効率向上、グローバル事業の強化へ

システムソリューション事業の強化点

 システムソリューション事業の観点では、グループ連結経営による事業強化と効率向上、日立コンサルティングを中心としたグローバル事業の強化をあげた。

 日本国内向けには、ビッグアカウント対応、基盤SI事業の確実な遂行や先進分野や新規分野での事業創出などの「攻めの営業」を展開。グローバル展開では、継続的なM&Aの実施によるコンサルティング事業の拡大、中国および東南アジア地域などでのクロスボーダーITサービスの提供を推進するなどとした。

 この分野では、2012年4月に環境専門会社のプリジムの買収、2012年5月のマレーシアの金融ITソリューション企業であるeBworxの買収のほか、2011年10月には日立システムズの発足、2012年3月のERP事業の再編などの改革に取り組んでおり、これらによってシステムソリューション事業の強化および経営効率化を実現しているという。

 「この1年半で6社の買収を行い、これらによって2015年度には1000億円の売り上げ貢献が見込める。2015年度までに2600億円程度の売上高を買収によって埋めていきたいと考えており、あと2000億円程度を買収でやっていく。買収案件については、検討している段階のものもある」としたものの、「ブルーアークの買収では顧客と技術、ショウデンデータシステムズでは地域をカバーするという点、プリズムでは将来の社会イノベーションとの連動という点からの買収。インドでは、2000人体制でのオフショア開発が可能になり、大型案件での商談も進むようになった。単に売り上げを増やすことを目的とした買収ではない」なとどと語った。

 また、「プロジェクトマネジメントは今後ますます重要になる」として、2012年4月には、プロジェクトマネジメントの認定制度を統合。6000人体制によって、顧客の要求変化や激化する競争環境に対応したプロジェクトマネジメントを推進できるとした。

 

3つの事業体制を統合、顧客ニーズへの対応力強化などに取り組む

 プラットフォーム事業では、これまで分かれていた3つの事業体制を統合することでの顧客ニーズへの対応力強化、注力分野を支えるプラットフォーム製品の提供、グローバルでの一気通貫でのバリューチェーンの構築に取り組むとしている。

 2012年4月にITプラットフォーム事業本部を新設したことや、日立データシステムズとの連携強化などを通じて、統合プラットフォームソリューションの提供と、グローバルでの顧客との協創などを推進。Field to Future Technologyにより、コンテンツクラウドやインフォメーションクラウドといった、注力分野を支える製品基盤を提供するという。

 そのほか、カンパニー連結での事業強化についても説明。日立製作所とグループ会社による共同提案やソリューションメニューの共有、各社の顧客基盤、販売チャネルを生かした事業展開、役割分担と重複事業の整理などを通じて、シナジーを追求するという。

 日立ソリューションズでは、得意製品、技術を生かした複合ソリューションの提案、日立システムズでは監視、運用、工事の強みを生かした高付加価値サービスの提供、日立オムロンターミナルソリューションズでは中国で実績を持つATM事業をアジア市場へと展開。日立データシステムズではソフトウェアおよびサービス事業による高収益化、日立コンサルティングでは、グローバルネットワークの拡張と事業ポートフォリオの強化に取り組むなどとした。


プラットフォーム事業の強化点カンパニー連結での事業強化

 さらに経営基盤の強化では、全社規模で推進しているHitachi Smart Transformation Projectで打ち出す「グローバル企業と伍(ご)して戦えるコスト構造への変革」を掲げ、ハードウェア関連製造の2つの製造拠点の最適化を2012年度に実施し、製品開発の共通化の推進や業種別連結経営の推進による「事業構造改革」、業務標準化とITシステムの統一やシェアード化の推進による「固定費構造改革」、ソフトウェア開発を中心としたオフショア活用範囲の拡大、集中購買やグローバル調達の強化による「変動費構造改革」に取り組むという。

 岩田執行役員専務は、「成長を考えた場合、事業への継続投資が必要。2011年度は1000億円を投資するとしたが、耐震構造への対応など、予期していなかった投資もあり、1380億円の投資規模になっている。これを2012年度には1600億円にまで拡大する。また、研究開発投資は2012年度も前年同様900億円を計上する。将来的には売上高比率の6%にまで研究開発投資を高めたい」などと語った。

 なお、情報・通信システム事業では、これまで「u Value」をキーワードにユビキタス時代における価値提供を推進してきたが、本年度から「Human Dreams. Make IT Real.」に変更。「ITと制御技術、社会インフラシステムで、お客さまの夢を実現するイノベーションを提供していく」などとした。


経営基盤の強化Hitachi Smart Transformation ProjectHuman Dreams. Make IT Real.をキーワードに掲げる
関連情報
(大河原 克行)
2012/6/14 14:49