キヤノンMJ、5つのレイヤでクラウドビジネスを展開

中期経営計画を発表、2011年度は減収増益


2015年業績目標

 キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は、2014年度を最終年度とする中期経営計画を発表した。2014年度の売上高は8030億円、営業利益は300億円、経常利益は315億円、当期純利益は170億円を目指す。

 川崎正己社長は、「長期経営構想フェーズⅡを確実に実践するための道筋。変革と成長の両方に取り組み、サービス創造企業グループへの転換を目指す中期経営計画になる」と位置づけ、1)キヤノングループとの連携を強化し、さらに当社グループのソリューション力を付加して、キヤノン製品の圧倒的世界シェアNo.1に貢献する、2)キヤノングループ・キヤノンMJグループのコアコンピタンス(独自の強み)やノウハウを活かし、独自性ある高付加価値ソリューションを創出する、3)“Beyond CANON, Beyond JAPAN”の発想のもと、ビジネスモデルの抜本的な変革を推進し、グローバルキヤノングループに貢献する――を3つの経営基本方針とし、「強いキヤノン製品とキヤノンMJグループのソリューション提供力を軸に、グローバルな経営環境において、独自の付加価値を継続的に提供するサービス創造企業グループに自己変革を遂げる」などとした。

 キヤノンマーケティングジャパンでは、2015年度を最終年度とする「長期経営構想フェーズⅡ」に取り組んでおり、2015年には売上高8500億円以上、営業利益は425億円(営業利益率5%)を目指している。今回の中期経営計画は、それに向けた大きなステップとなる。

 2014年度のセグメント別計画は、ビジネスソリューションの売上高が3800億円、営業利益は85億円。ITソリューションの売上高は1605億円、営業利益は75億円。コンスーマイメージングの売上高は2255億円、営業利益は119億円。産業機器の売上高は670億円、営業利益は22億円とした。

 前年に発表した中期経営計画に比べ、2013年度時点での業績を下方修正しているが、「震災影響、福島第一原発事故、タイ洪水の影響などにより、前回計画水準までの回復が困難であると判断した」(川崎社長)という。

 ビジネスソリューションでは、ドキュメントビジネスの収益力の向上を掲げ、オフィスMFPでは2014年に業界2位となるシェア23%、LBPでは業界1位となる26%のシェア獲得を目指す。オンラインパブリッシングサービスである「My-Promotion Web」、「Canon Business Imaging Online 帳票・印刷サービス」などのドキュメントビジネス領域におけるクラウド型サービスの展開にも力を注ぐ。「クラウド型ITサービスは、ビジネス機器事業における差別化につながる」(川崎社長)と期待する。

クラウドビジネスの全体戦略ビジネス領域のクラウド型ITサービス

 また、成長エンジンと位置づける商業印刷事業では2015年に600億円を目指す一方、ビジネスソリューション事業全体で、2014年までに10%の人員減少を図る。

 ITソリューションでは、収益力向上に向けた構造改革を実施するとして、重複事業の整理・統合などにより、開発生産性、営業生産性の向上を図るほか、2011年度比で8%の人員削減を図る。2014年度の営業利益率は4.7%を目標とする。

 「ITソリューション事業では、これまで積極的なM&Aを進めてきたが、2012年度以降、組織構造改革、要員構造改革のほか、グループ8社11拠点を3拠点に集約を図っていく」という。

 また、2011年4月に建設を開始した自社データセンターを活用したアウトソーシングサービス事業の強化にも取り組むとし、同センターを中核としたアウトソーシングサービスを2012年10月にも開始すると発表。最先端の設備水準、最新鋭のセキュリティを備えた、2300ラック規模の施設により、ニーズに合致した最適な運用サービスを提供できるとの姿勢を示し、「システムインテグレーションサービス、システム運用サービス、ハウジングサービス、キヤングループでの活用といった多様なニーズに対応できる。早期に稼働率を100%にもっていきたい」とした。

ITソリューション、アウトソーシングサービス事業の強化・拡大

 川崎社長は、「キヤノンMJでは、5つのレイヤでクラウドビジネスを展開し、これを一気通貫で提供することができるのが強み」とし、イメージングおよびプリンティング関連デバイスのサポートビジネス、マルチキャリアによる回線ビジネス、データセンタービジネス、ITサービス共通基盤「SOLTAGE」によるITサービス、アプリケーションによるSaaS展開の5つの分野への取り組みを挙げた。

 SaaSでは、キヤノンMJが提供するサービスのほか、セールスフォースなどの他社クラウド、キヤノンのイメージング関連のサービスなどが含まれる。

 ITサービス共通基盤であるSOLTAGEの積極展開と機能強化、グループ会社であるキヤノンビズアテンダによるBPOサービスの強化などにより、SIサービス偏重型から、ストック型ITサービス事業の拡大を図り、現在25%の同事業の比率を、2015年には29%以上を目指すと語った。

 なお、データセンターに関しては今年度に100億円の投資を図るという。

 さらに、ITソリューション事業においては、グローバルへの積極展開に踏みだし、アジア圏の日本企業に対するソリューションビジネスの展開、高水準の海外ソフトウェア商材の調達の事業拡大によって、「現在2.4%のBeyond Japan比率を、15%以上に高める」という。

 コンスーマイメージングでは、トータルナンバーワン戦略の推進と、業務用映像機器事業の強化やコンテンツビジネスの拡大などの新規事業の強化拡大を図るという。業務用映像機器事業は2015年に100億円の売上高を目指す。また、産業機器では、買収したエルクコーポレーションとのシナジーにより、医療事業の積極拡大を図り、2015年度には医療事業で600億円の売り上げ規模を目指すほか、産業機器の台湾などへのグローバル展開を強化する。

震災、タイ洪水の売り上げへの影響は110億円

 一方、同社では、2011年度(2011年1~12月)の連結業績を発表した。

 売上高は前年比6.2%減の6324億円、営業利益は9.1%増の84億円、経常利益は12.5%増の107億円、当期純利益は81.6%増の68億円となった。

2011年年間累計実績セグメント別年間累計実績

 東日本大震災やタイで発生した洪水の影響により、商品供給不足が発生するとともに、需要の冷え込みが影響。その一方、高付加価値製品の拡販による売上総利益率の改善と広告宣伝費、販売促進費などの販売費および一般管理費の削減により、減収増益となった。

 「タイの洪水の売り上げへの影響は110億円。東日本大震災を含めて435億円の影響があった」(キヤノンマーケティングジャパン・柴崎洋取締役常務執行役員)というが、「売り上げは落ちたものの、構造改革の成果などが出ている。長期経営構想フェーズⅡの初年度としてふさわしい業績とはいえないが、最低ラインはクリアしたと考えている」(キヤノンマーケティングジャパンの川崎正己社長)と語った。

 ビジネスソリューションの売上高は5.1%減の3251億円、営業利益は53%増の35億円。

 オフィスMFP(複合機)は上期は震災による商品供給不足が影響したものの、その後の商品供給の回復に伴い、普及モデルの「imageRUNNER ADVANCE C5000」シリーズやコンパクトモデルの「imageRUNNER ADVANCE C2000」シリーズを中心に販売が好調で、下期は前年同期を上回る出荷台数を達成。デジタル商業印刷市場向けのプロダクションMFPでは、キヤノン製品に加え、グループ化したオセ社の業務用プリンターの販売を強化したという。また、レーザープリンターは大型商談の獲得が牽引役となり出荷台数を伸ばしたものの、低価格のA4機の構成比が拡大したことにより、売上は減少した。

 ITソリューションの売上高は6.6%減の1245億円、営業損失は6億円改善したものの31億円の赤字。

セグメント別:ビジネスソリューションセグメント別:ITソリューション

 SIサービス事業においては、金融機関向け、流通・サービス業向けシステムが堅調に推移したものの、製品組込みソフトウェアの開発が厳しく売上は前年実績を下回った。だが、前年同期の受注制作のソフトウェアに係る収益計上基準等の変更による影響を考慮すると、売上は微増で推移したという。5月以降は対前年同期の実績を上回っており、2012年度もこの傾向は続くとみている。

 ソリューション事業は、セキュリティソリューションビジネスなどが堅調に推移したものの、ERPや基幹システムの更新などの案件が減少した。基盤・アウトソーシング事業は、ネットワークストレージなどの基盤系構築サービスや保守サービスが堅調に推移。ITプロダクト事業は、ビジネスPC市場の低迷や、不採算商品の取り扱いを大幅に見直した影響が出ているという。

 コンスーマイメージングは、売上高が16.1%減の1795億円、営業利益は14.7%減の84億円。

 デジタル一眼カメラの国内市場は、震災やタイの洪水被害の影響により商品供給が減少。コンパクトデジタルカメラも市場低迷や震災、洪水影響により販売台数は16%減となり、売り上げは前年同期を下回った。

 インクジェットプリンタも、主力機種の「PIXUS MG6230」が洪水の影響で商品供給が減少し、本体の販売台数は第4四半期で27%減、年間でも10%減という大幅減となった。

 産業機器は、売上高が121.7%増の296億円、営業損失は前年並みの2億円の赤字となった。

 半導体製造関連機器や、ウエハー検査装置をはじめとする検査・計測装置が好調だったという。

セグメント別:コンスーマイメージングセグメント別:産業機器

 また、同社では、2012年度の業績見通しを発表。売上高は13.4%増の7170億円、営業利益は42.2%増の120億円、経常利益が22.8%増の131億円、当期純利益が3.5%増の70億円とした。

 ビジネスソリューションの売上高は3520億円、営業利益は35億円。ITソリューションの売上高は1349億円、営業損失は13億円の赤字。コンスーマイメージングの売上高は2125億円、営業利益は93億円。産業機器の売上高は391億円、営業利益は1億円とした。

2012年業績予想サマリー業績予想。セグメント概要
関連情報
(大河原 克行)
2012/1/27 13:45