Cisco ASR 9000が支える“ゼタバイト時代”のネットワークアーキテクチャとは?


シスコ 副社長 サービスプロバイダー事業の堤浩幸氏
ゼタバイトとは?

 「現在、ネットワークトラフィックは年32%の割合で増え続けている。このままいけば、2015年には全世界のIPトラフィック量はゼタバイトの世界に突入する」――。シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ) 副社長 サービスプロバイダー事業 堤浩幸氏は、28日に行われた報道陣向けラウンドテーブルでこう切り出した。

 ゼタバイト(zetabyte:ZB、1ゼタバイト=100万ペタバイト)とはどのくらいのサイズなのか。堤氏は「仮にコーヒー1杯分が1GBとすれば、1ZBは万里の長城の容積に匹敵する」という例えでその膨大さを表現する。そしてその膨大なトラフィック量がふつうに行き交うネットワークが間もなく実現することになるという。モバイルデバイスの台数、ビデオ/音声データのトラフィック量、通信速度、そして世界各地のインターネットユーザーの数……、いずれのデータも“ゼタバイト時代”が近い将来やってくることを十分に予想させる。

 ネットワークが大きな進化を遂げようとしている今、そのインフラを支える重要なプレイヤーの通信事業者はしかし、難しい過渡期に直面していると堤氏はいう。今まで提供してきたサービスでは、コンシューマ/エンタープライズのどちらのユーザーのニーズにも応えられなくなってきたというのだ。

 「通信業者はすべてのユーザーのニーズに応えようと努力し、結果、トラフィック量は急激に増加している。にもかかわらず、ビットあたりの収益はむしろ低下している。これはインフラは十分に整っているのに、エンドユーザーを満足させるサービスが存在していないことを意味している」(堤氏)。

 つまりコンシューマ/エンタープライズを問わず、エンドユーザーがネットワークにお金を落としてくれるような新しいサービスを通信事業者は提案していく必要があるのだ。堤氏は、顧客が現在求めているニーズを「モビリティ」「コラボレーション」「バーチャライゼーション」「ビデオ」の4つに分類し、インフラとサービスをうまくインテグレーションしていくことを提案する。

 「コンシューマには楽しさ、エンタープライズは生産性の向上―。エンドユーザーに力を与えるサービスをどうクリエーションしていくのか、通信事業者の皆さんと一緒に新しいレベニューモデルを構築していきたい」(堤氏)。

 では具体的にシスコはどういった手段で次世代ネットワークでのビジネスモデルを作り上げようとしているのか。堤氏によれば、それは「インターネットとサービスネットワークという2つのネットワークの統合(コンバイン)」によって実現するという。

 オープンで便利だがセキュリティに不安があるインターネットと、セキュアではあるがサービスが限定的な企業内ネットワークなどのサービスネットワーク、この2つのネットワークを別々にするのではなく、1つの“次世代インターネット”としてとらえ、柔軟でスケールするエンド・ツー・エンドなネットワークとして提供していくことが重要だとする。

 例えばモバイルデバイスからネットワークにアクセスしたいのはコンシューマユーザーだけではない。エンタープライズにもそのニーズは存在するが、ユーザーがセキュリティに不安を感じていればエンタープライズでのモバイル利用は難しくなり、1コンシューマユーザーとしてモバイルネットワークを利用するか、あきらめるしかない。だがシスコのいう“次世代インターネット”であれば、コンシューマ/エンタープライズを問わず、またはデバイスの種類や利用場所を選ばず、あらゆるサービスが利用可能になる。

 つまり、シスコが通信事業者とともに作り上げようとしているのは、ひところはやった「NGN(Next Generation Network)」の先を行く「先の先のNGN」(堤氏)ということになる。


インターネットとサービスネットワークという2つのネットワークの統合により、“次世代インターネット”が生まれる
米Cisco アジアパシフィック アンド ジャパン サービスプロバイダービジネス担当 CTOのアレックス・ジニン氏

 「ネットワークを取り巻く変化はトラフィック量の増大だけではない。注目すべきはそのパターンの変化だ」と語るのは米Cisco アジアパシフィック アンド ジャパン サービスプロバイダービジネス担当 CTOのアレックス・ジニン氏だ。同氏はその変化の筆頭として、ビデオデータの爆発的な増大を挙げる。

 「3年前とはあきらかにネットワークを通るデータの質が変わっている。スマートフォンで日常的にYouTubeを楽しむユーザーがこれほど増えているにもかかわらず、ネットワークのほとんどはサイロ化のままだ。またIPv4がこの5月に枯渇したにもかかわらず、IPv6への移行はほとんど進んでいない」と指摘、複雑でサイロ化した旧来のネットワークは拡張性に乏しいだけでなく、変化に対応しにくいためにTCOの増大を招くと強調する。

 そこでシスコが通信事業者に提案するのが同社の「ASR 9000 System」をネットワークエッジおよびアグリゲーションレイヤに配置する“nV(ネットワーク仮想化)システム”だ。「エッジとアグリゲーションをロジカルに一元化したイメージ」(ジニン氏)という同システムは、96Tbpsのキャパシティを擁し、IPv6への移行が容易にするだけでなく、1つのルータのように扱うことができるため、通信事業者はレイヤを減らしたシンプルなネットワークを構築でき、冗長性のあるコンフィギュレーションが可能になる。

 また、ネットワークをシンプル化させることで「同業他社のシステムと比較して年間約70%の運用コスト削減が可能になる」と自信を見せる。「nVはenvyともかけている。他社がうらやましがるようなソリューションという意味だ」(ジニン氏)。

 「ASR 9000は次世代インターネットの基幹となるソリューション。変化のはげしい環境に、いかに迅速かつ柔軟に適応できるかが、これからの通信事業者の課題になる。この課題(チャレンジ)を機会(チャンス)に変えたい」と堤氏は最後にこうまとめた。すでにNTTぷらら、China Telecom、Comcast、Tata Communicationsなど、大手のグローバル通信事業者がASR 9000の導入を表明しているという。


nV(ネットワーク仮想化)システムどの方向にも拡張できるのがASR 9000の価値

 シンプルで柔軟性/拡張性に富み、TCOも削減するというシスコの次世代ネットワーク。気になる点が1つあるとすれば、それがプロプライエタリな技術のみによっているというところだろうか。ジニン氏によれば、当面は競合他社製品との混在を可能にするようなオープン技術の採用はないという。つまり次世代ネットワークでの“一人勝ち”を狙っていくことを宣言したとも取れる。今後、その選択が膨張を続けるネットワーク需要においてどんな影響をもたらすのかに注目していきたい。

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