2011年上期のソフトウェア事業の自己評価は40点~日本IBM
ハイバリュー製品に成果も、ミドルウェア、ボリューム製品で課題
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は24日、2011年のソフトウェア事業戦略について説明した。
日本IBM 専務執行役員ソフトウェア事業担当の川原均氏は、「これまでのIBMのソフトウェア事業は、製品が持つ機能の優位性を前面に打ち出すことが多かったが、2010年以降、お客さまにとってのバリューはなにかという観点から製品群をとらえ、ビジネスへの貢献度が高いものを取りそろえている。製品寄りから、お客さま寄りの姿勢へと変えてきた」と、この1年において、事業戦略のスタンスを大きく変えたことを示す。
具体的には、「情報から洞察を獲得する」、「ビジネスの俊敏性を向上させる」、「運用効率性を向上させる」、「ソフトウェア開発で業務サービスと製品を変革する」、「コラボレーションにより社員の力を強化する」、「リスクやセキュリティを管理する」という、顧客が持つ6つの課題に対して、それぞれのソリューションを提供していると位置づけた。
■BAOやSmarter Commerceなどに成果
日本IBM 専務執行役員ソフトウェア事業担当の川原均氏 |
製品開発と買収によるポートフォリオ拡張 |
川原専務執行役員は、2011年のソフトウェア事業戦略を3つの製品領域からとらえる。
ひとつはハイバリュー製品。CognosやSPSS、ILOGを活用したBAOといった製品領域であり、主に日本IBMのサービス事業を担当するGBS(ゼネラルビジネスサービス)部門との連携によって展開しているビジネスだ。
「2011年上期においては、BAOやSmarter Commerceといった領域からの提案が加速しており、高い数字となって表れている。絶対値としても大きな売り上げにつながっており、これは、期待値通りの実績になっている」と川原専務執行役員は語る。
2つめはミドルウェア製品群だ。WebSphere、DB2といったミドルウェアはIBMのソフトウェア事業においても重要な位置づけの製品であるが、ここで同社が目指しているのがアプリケーションベンダーとの連携。各社が持つパッケージアプリケーションと組み合わせた利用提案の加速が課題といえるが、これに関しては「まだ成果が出ていない」とする。SAPや、スーパーカクテル、ワークスアプリケーションズといったISVのパッケージアプリケーションと、DB2との組み合わせ提案などがこうした取り組みとなる。
IBMでは、2015年に向けて発表したロードマップのなかで、ソフトウェア事業で収益を高める方針を示している。そのなかでも重要な要素になるのがミドルウェアだ。
「過去を振り返るとIBMがアプリケーションを指向した時期もあった。しかし、パッケージアプリケーションの領域において、IBMが最も力を発揮できるコアビジネスとはなにか、顧客の要請に応えられるのかという観点で、最大化した価値が提供できるという結論には至らなかった。また、特定のアプリケーションを持つことで、ISVとの間に競合関係が生まれる可能性がある。IBMはプラットフォーム、ミドルウェアの提供に力を注ぎ、ISVとの協業関係を築く方が、自らのソフトウェアビジネスを成長させられると判断した」(川原専務執行役員)という点でも、ISVの連携強化は今後の重要な課題になろう。
そして、この考え方は同社のクラウド・コンピューティングビジネスにもつながっていくものになるといえる。
3つめのボリューム製品領域では、Lotusやセキュリティ関連製品などで構成されるが、ここではビジネスパートナーとの協業が大きな鍵となる。「販売網の構築に向けてはさらに強化が必要だと感じている」と川原専務執行役員は、販売網拡大による事業拡大の可能性を指摘する。
こうした動きをとらえながら、川原専務執行役員は、「私は自らに厳しい評価を下すことが多い」と前置きしながらも、「2011年上期のソフトウェア事業全体の成果を評価すると30~40点」と手厳しい。
「期待値に届いているのはハイバリュー領域だけ。あとは期待には届いていない」と語り、下期に向けて、ミドルウェア製品とボリューム製品の強化に取り組む姿勢を見せた。
■ユーザーに対して顧客目線での価値を訴求
ここ数年、IBMでは製品開発と、企業合併によって、ソフトウェア製品のポートフォリオの拡張に取り組むともに、高付加価値と高成長セグメントへのシフトに取り組んでいる。
川原専務執行役員は、「IBMでは、毎年、IBM Global Technology Outlook(GTO)としてテクノロジー・ソリューションのロードマップを示しており、それに向けて研究開発を進めるとともに、補完すべきところは企業統合により技術を獲得していた。この結果、IBMのソフトウェアビジネスの中核となるBAO(ビジネスアナリティック&オプティマイゼーション)へとつながっている」と語る。
一方で、IBMが提唱するSmarterPlanetの実現などにおいても、ソフトウェアの貢献度が高くなり、それらを実現するためには、より顧客視線での提案が必要になったといった背景が見逃せない。
「Rationalひとつをとっても、テストツールという構成から、開発手法全体を考えるツールへと広がりを見せ、開発責任者に加えて、CFOなどがターゲットとなっている。また、Smarter Commerceについても、LOB(Line of Business)の現場において、導入意志決定が進められ、リターン・オブ・アセットあるいは、リータン・オブ・インベストメントといった点が求められている。製品機能を訴求するよりも、お客さま目線での提案へとシフトしはじめたのはこうした背景がある」とする。
しかし、ビジネスパートナーに対する訴求では製品単品の機能訴求をこれまで以上に徹底しているという。
エンドユーザー向けの訴求方法と、ビジネスパートナー向けの訴求方法を明確に切り分けることで、IBMのソフトウェア製品群の強みを浸透させる考えだ。
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■ソフトウェア事業で14個の震災支援策を展開
なお、日本IBMのソフトウェア事業部門においては、東日本大震災発生後、ウェブブラウザのみで利用可能なLotus Liveのコラボレーションツールやメール機能を、90日間無償提供することを震災翌日に決定し、これをNPOや日本赤十字などで利用された例を示しながら、川原専務執行役員は、「日本IBM全体としては、100個超える支援策を実施しているが、ソフトウェア事業部門としては14個の支援策を展開した。水、電気、ガスといったライフラインの復旧とともに、ITの利活用は第2のライフラインであることを証明したものであり、安心して生活に利用してもらいたい」と語った。