リコー、1万人削減を発表~成長と体質改善の同時実現へ

2011~2013年度中期経営戦略


リコー 代表取締役 社長執行役員 近藤史朗氏
リコーグループの被災状況

 株式会社リコーは26日、第17次(2011年度~2013年度)中期経営戦略を発表した。従業員1万人の削減、1万5000人の従業員の配置転換など構造改革を進め、「第17次中期経営計画では成長と体質改善を同時に実現する」(リコー 代表取締役 社長執行役員 近藤史朗氏)ことを目標に掲げる。

 リコーは2010年度に第16次中期経営計画を終了し、2011年度から2013年度まで第17次中期経営計画に取り組んでいる。最初に第16次中期経営計画を振り返った近藤社長は、東日本大震災の影響について触れ、「震災直後に、我々の影響は軽微ではないとお話ししたが、国内に残している工場はほぼ全て東北にあるため、甚大な被害を受けた」と影響が大きかったことを明らかにした。

 その一方で、「東北道が回復し、私が工場に足を運んだ際には、ほぼ全ての工場が稼働するなど社員が自主的にビジネス再開に動いた。今回の震災は我々の未来に大きな影響とノウハウを与えてくれた」とプラス面もあったと説明した。

 しかし、第16次中期経営計画の業績は売上高目標に掲げていた売上高2兆3000億円は届かず、1兆9420億円にとどまった。営業利益も1700億円目標が601億円、営業利益率は7.4%目標が3.1%、ROEは12.5%目標が2.1%、配当性向は30%目標が121.9%といずれも達成できなかった。

 この要因としては、ドル、ユーロともに為替レートが円高で推移したこと、世界市場は新興市場での需要拡大などはあるものの、世界金融危機以降のカラー出力の抑制などのマイナス要因があった。

 さらに、「お客様の価値が製品の所有から利用へ、モバイル化や紙の使われ方が大きく変わるなど、日本においても働き方が大きく変わる予兆があらわれている」(近藤社長)ことをあげた。

第16次中期経営計画の戦略達成状況第16次中期経営計画の業績達成状況

第16次中期経営計画におけるリコーの施策第16次中期経営計画のひとつ新成長領域の創出

 こうした状況を受け、今年度からスタートした第17次中期経営計画では、(1)グループシナジーの増大、(2)既存ビジネスにおける効率性の向上、(3)新規成長分野への注力、(4)さらなるイノベーションへの挑戦という4点を課題とし、「『成長』と『体質改善』の同時実現を目指す」という目標を掲げる。

第17次中期経営計画に向けたリコーの課題第17次中期経営計画に向けた環境認識

成長と体質改善の同時実現成長と体質改善を実現するための基本戦略

 「この体質改善とは、少し前に流行ったリ・エンジニアリングという言葉が最も近い。リコーグループは昨年買収した米国の事務機器ベンダーIKKO社のように世界的にメンバーが増えて11万人体制の会社となった。強力な体制ではあるが、若干、重たいというのが正直なところ。成長し続けるために、体質を改善する必要がある」(近藤社長)。

 これまで取り組んできたカラー複合機に代表されるオフィス向けプロダクトに加え、「今後、ITサービス、マネージド・ドキュメント・サービスなどのサービスビジネスによって事業領域が拡大し、企業向けとコンシューマの垣根が取り払われる動きが活発化することが予想され、この領域にどう取り組むかが今後の課題となる」(近藤社長)とサービス事業の拡大を進める。

プリンティング事業領域における成長

 現在の基幹事業であるプリンティング事業については、新興国市場で2010年度の伸び率10%を、2011年度には新興国向けラインナップの強化などプロダクトを強化することで伸び率を17%までに拡大。先進国市場については、プロダクトに加えて顧客を軸にしたサービス事業によって二桁増を目指す。

 「プリンティング事業を捨てるわけではないが、これまでのリソースの75%でこの目標を達成して欲しい」(近藤社長)。

 先進国で取り組む新サービス事業としては、マネジメント・ドキュメント・サービス事業をグローバルで大幅に強化し、2013年度の売上目標を3000億円とする。

 この売り上げ目標達成のために、「急拡大と思われるだろうが、昨年、IBMのパルミザーノCEOと話しをして、『IBMはここ数年で130社のソフトメーカーを買収した。従来は米国とカナダだけでオペレーションしていた企業が世界展開するだけで、その分、売上が伸びる』と言われた。我々も、昨年IKKO社を買収したことで、売り上げが急拡大した。1社では達成できない売上増が買収によって実現する」(近藤社長)と買収も視野に入れて取り組む。

新サービス事業のさらなる拡大サービス事業領域の拡大

 新興国市場向けには、A4デジタル複合機を中心に、3年間で10機種以上の新機種を投入し、ラインナップを拡大する。マーケットシェアとしても10年度のマーケットシェア中国で15%、アジアパシフィック地区で20%と拡大しており、さらにインドなど地域拡大を進める。

 プロダクションプリンティング事業については、「オフセットプリンタ業界のベンツ」と呼ばれるハイデルベルグ社との協業による商業印刷分野でのラインナップの拡大なども進める。

新興国向けラインナップの強化プロダクションプリンティング事業領域の拡大

 また、先進国市場ではスマートフォン、タブレットPCなどに台頭でペーパーレス化が進む傾向が強いことから、「現時点では紙が減ったという実感はないが、先端企業では紙も使わない、モバイルを利用してオフィスも要らないといった働き方が台頭すると見られる。昨年から提供を開始しているiPad向け情報共有ソフトや、テレビ会議システムを提供し、新しい顧客需要を捉える。この分野は若干動きが遅いので、そのスピードを早めたい」(近藤社長)という。

紙からスマートフォン、タブレットなどへの移行準備も新規商品、新規事業の創造

 テレビ会議などユニファイドコミュニケーションシステム、ITサービス、プリンタ、プロジェクターなどを、クラウドを介してプリントショップで印刷するといったサービスや、コンシューマ用プリンタやデジタルカメラ、スマートフォンなどと連携するソリューションも視野に入れる。

 リコー自身が提供するクラウドを介したビジネスとしては、他社製も含めたネットワークアプライアンスの提供、設置や教育やトラブルシューティングなどを含めた人の手を介しサービスを提供。「他社のネットワークも含めて、当社がきちんとサービスを行っていく体制を構築する」(近藤社長)計画だ。

クラウドベースのコミュニケーションシステムを提供先進国向けクラウド型サービスモデル

 新規事業としては、LED照明の提供に加え、リサイクル、ビルや工場の省エネルギーを実現するソリューションを提供するESCO事業、リコーグループのファイナンスノウハウを活用したファイナンスビジネスなどを提供する。また、被災地復興に向け、東北にトナー工場の増設とリサイクルセンターを設立し、現地の雇用確保につなげる。

エコ領域での新事業既存のファイナンス事業の新規事業領域での活用

 こうした施策により、高効率経営の実現を目指しグループ全体で1万人の人員削減と、1万5000人の人材を新規事業にシフトさせる。

 「リストラといっても、単純に人を斬るのではなく、新規事業ではEMSなどを活用せず、日本に生産拠点を構築しながら日本の物作りを追求する。その上で、大胆な構造改革を進める」(近藤社長)。

 投資としては設備投資に3年で2000億円、研究開発費として売上高比率5-6%の投資を継続する。その結果として、2013年度の売り上げ目標は2400億円。既存事業はCAGR(Compound Annual Growth)を4%程度、2011年度から提供する新規事業分野だけで2000億円以上の売上高を目指す。

 営業利益としても2010年度の601億円から、2100億円以上を目標値とし、営業利益率8.8%以上、ROE10%以上、フリーキャッシュフローは3年合計で2000億円程度、総還元性向は約30%を目標とする。

 なお、1万人削減については、「どこの人員を削減するといった詳細は明らかにできないが、現在は100円の商品を買う請求書に3000円のコストがかかっているような状況。バックヤードの重複、不採算部門の見直しなどは大胆に行う」(近藤社長)と、具体的な部署等は示さなかったものの、間接部門の重複見直しなどを進めるとした。

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