東工大、クラウド型グリーンスパコン「TSUBAME2.0」の披露式を開催

運用中のスパコンでは世界最高の電力性能比を実現


 東京工業大学学術国際情報センターは、クラウド型グリーンスーパーコンピュータ「TSUBAME2.0」を11月1日から運用開始したことを記念して、12月2日に「TSUBAME2.0」の披露式および見学会を開催した。併せて、披露式に先立って記者発表会が行われ、「TSUBAME2.0」の概要や事例などが紹介された。

 「TSUBAME2.0」は、東京工業大学学術国際情報センターが、日本電気株式会社(以下、NEC)、日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)、米国NVIDIA社、マイクロソフト株式会社など国内外各社の協力で開発したクラウド型グリーンスーパーコンピュータ。11月1日に運用を開始して以来、スパコンの絶対性能ランキングを行う「The Top 500 List」(米国時間11月14日発表)において、1.192ペタフロップスで世界第4位となったほか、スパコンの省エネランキングである「The Green500 List」(米国時間11月18日発表)においても、世界第2位を獲得したという。また、運用中のスパコンとして最高の成績を収めたことに対して特別賞「Greenest Production Supercomputer in the World」も受賞している。

東京工業大学学術国際情報センター長 教授の渡辺治氏

 東京工業大学学術国際情報センター長 教授の渡辺治氏は、記者発表会の挨拶で、「TSUBAME2.0は、日本初のペタコンとして11月1日から運用を開始したが、絶対性能ランキングや省エネランキングで上位に入るなど、世界的に高い評価を得ている。このことは、2006年に導入した第一世代のTSUBAME1.0から、“みんなのスパコン”、“常に進化するスパコン”という2つの理念を掲げ、たゆまぬ技術開発を続けてきた成果がTSUBAME2.0に結実した証である」と述べた。

 続いて、東京工業大学学術国際情報センター 教授の松岡聡氏が「TSUBAME2.0」の概要説明を行った。

 「TSUBAME2.0」の開発経緯について松岡氏は、「第一世代のTSUBAME1.0は、アジア1位の性能と“みんなのスパコン”としての使いやすさを同時に実現し、4年間で様々な運用成果をあげてきた。しかし、次第に世界との差が大きく開くようになり、特に米国は、異なるアーキテクチャによるペタ級コンピュータを次々開発するなど、圧倒的に世界をリードしていた。そこで、世界トップレベルの性能に匹敵するスパコンを実現するため、当センターによるさまざまな基礎研究やメーカー共同開発の成果を結集し、TSUBAME2.0を開発した」という。

東京工業大学学術国際情報センター 教授の松岡聡氏「TSUBAME2.0」の性能向上

 「TSUBAME2.0」の主な特徴は、最新型GPU・CPUによるベクトル・スカラー混合アーキテクチャを採用することで、最高理論性能2.4ペタフロップス(TSUBAME1.0の30倍)、毎秒200テラビットの通信性能(同30倍)、記憶容量11ペタバイト(同10倍)を実現。また、グリーンスパコンとして、大幅な性能向上をしながら、大きさは2/3程度、消費電力はTSUBAME1.0と同等に抑え、30倍の電力性能比を達成している。さらに、クラウド型スパコンとして、Windows HPC/Linuxなど複数OS、複数環境をサポートするとともに、仮想化による種々のデータセンターホスティング機能をサポートしている。

「TSUBAME2.0」の構成製品「TSUBAME2.0」のサーバールーム

 松岡氏は、「今回、省エネランキング『The Green500 List』において、TSUBAME2.0は2位となったが、ランキングに入っているスパコンは1位を含めてプロトタイプや実験機が多いのが実状だ。そのため、TSUBAME2.0は、実運用しているスパコンとしては世界一の電力性能比を達成したことになる。また、米国では現在、エクサフロップスのスパコン開発に力を注いでいるが、電力性能比ではTSUBAME2.0が圧倒的に上回っている」と、電力性能比に優れている点を強調。「今後もTSUBAME2.0の成果を生かし、将来のTSUBAME3.0に向けて、引き続き研究開発を進めていく」との考えを示した。

東京工業大学学術国際情報センター 教授の青木尊之氏肺気管の呼気流解析

 次に、東京工業大学学術国際情報センター 教授の青木尊之氏が、大規模GPUコンピューティングの事例について紹介した。

 「TSUBAME2.0は、GPUコンピューティングを活用することで大幅な性能向上を実現したが、これからは、この性能をいかに実用的に使っていくかが重要なポイントになる」と青木氏は指摘する。そして、GPUコンピューティングを活用した具体的な計算事例として、「『格子ボルツマン法による流体計算』を応用した肺気管の呼気流解析や、フェーズフィールド・モデルを使った金属凝固過程の解析などに、GPUコンピューティングが使われている。さらに、最近では、気象庁数値予報課と共同で、GPUコンピューティングを活用したメソスケール大気シミュレーションについて研究を進めている。こうした計算は、CPU性能だけでは処理が難しかったが、GPUコンピューティングによって、簡単かつ短時間に実現できるようになった」と説明した。また、これ以外にも、「気液二相流」や「地震波伝播シミュレーション」、「星間物質の熱的不安定性」などの計算にTSUBAMEのGPUコンピューティングが活用されているという。

金属凝固過程の解析メソスケール大気シミュレーション

 なお、TSUBAMEの外部利用の取り組みについては、今年4月から「ネットワーク型」の学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点の1つとして正式運用を開始し、現在、採択課題が利用中とのこと。このほか、学外からの利用には有償での「TSUBAME共同利用」、民間企業向けには「先端研究施設共同促進事業」を展開しており、「日本最先端のスパコン環境を広く提供することで、学術・産業・社会に貢献する。あわせて、最新GPGPUクラスター環境の提供によって、GPGPUの普及促進も図っていく」(青木氏)としている。

東京工業大学長の伊賀健一氏「TSUBAME2.0」披露式でのテープカットの様子

 記者発表会の後に行われた「TSUBAME2.0」の披露式では、東京工業大学長の伊賀健一氏が挨拶に立ち、「今回のTSUBAME2.0は、みんなが使えるスパコンとして開発したTSUBAME1.0から大幅に性能を向上し、世界トップレベルのペタコンに進化した。これは、決して他社と競争するために性能を高めたのではなく、国の難しい計算を担っていく東工大の姿を具現化する1つの基盤となるべく開発したものだ。今後もTSUBAME2.0は、さらなる進化を続けていくが、当大学自身の努力だけでなく、これからも多くの企業や団体と協力しながら研究開発を進めていきたい」と述べた。

 なお、披露式には、文部科学省 大臣官房審議官の戸渡速志氏、北海道大学 理事・副学長の岡田尚武氏が来賓として出席したほか、開発事業社からNEC 代表取締役 執行役員副社長の岩波利光氏、米国HP Industry Standard Servers Group HPC Marketing leadのEdward J Turkel氏、米国NVIDIA Corporation Co-founder,President and Chief Executive OfficerのJen-Hsun Huang氏、マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏が出席。各人が祝辞を述べた後、主要メンバーによるテープカットが行われ、TSUBAME2.0の運用開始を祝った。


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