インタビュー

ビッグデータ活用は水面下に潜る? 「情報」から価値を見いだす「知識」が、再浮上の鍵

東京大学 先端科学技術研究センター特任教授、稲田修一氏に聞く

 今の業界では、規模の差こそあれ、さまざまな形でビッグデータを活用し、ビジネスに結び付けようとする機運が急速に盛り上がっている。流通・広告をはじめ製造、金融、インフラ、農業、そしてここへきてにわかに注目を集める医療ほか、あらゆる産業で活用が進んでいるという。

 にもかかわらず、ひとときほど活用事例が表に出なくなっており、また、活用したけれども満足のいく結果を得られなかった、という失望の声も聞くようになっている。一方で、一層の活用推進に向けアクセルを踏む動きも伝わってくる。

 このような状況の中で、政府がビッグデータの利用ルールを明確化した制度案をまとめるなど、新たな動きも出てきた。ここでは、今ビッグデータの最前線で多彩な活動に精力的に取り組む、東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授の稲田修一氏に、ビッグデータの最新事情を聞いた

水面下に潜ったビッグデータ活用

――ビッグデータ活用は一時期、トレンドワード的なイメージでスポットライトを浴びていましたが、ここへきて当時ほど取りざたされなくなってきた感を否めません。

東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授の稲田修一氏

 それはビッグデータ活用が、水面下に潜ってしまったからではないでしょうか。

――水面下に潜った?

 ビッグデータ活用の第一段階が終了し、2つの方向に結果が分かれたのです。ビジネスに活用できることを実感した人とそうでなかった人に。活用できた人は、ビジネスにおいて勝っていくための情報が得られることや、経営戦略に直結するということに気がついたのですね。そうなると、やたらとほかには話さなくなるでしょう。

 一方、失敗した人はそのことを人前では話さない。ということで、水面下に潜ったと感じています。

――具体的な例を挙げていただけますか。

 詳しい話があまり表に出ていないので憶測を交えての話になりますが、マーケティング分野では、ブランド・イメージの変化、商品購入の際のきっかけやその選択の背景、また購入後の感想などをビッグデータ活用により掌握しています。これまでのように、単に、赤ちゃんのおむつと一緒にビールが売れる、というような表面的な相関関係だけでなく、より深く消費者の行動やその背景に踏み込んでデータ分析を行っているのです。

 また、実店舗においてもモニターカメラを活用し、顧客の動線や商品の選択行動をとらえ、これを商品の配置や品ぞろえに反映させているほか、商品開発にも活用しています。

 最近では、消費者がさまざまな感想をツイッターなどのソーシャルメディアに書き込むことが多くなっていますが、テレビコマーシャルや新商品の評判などを調べ、商品の生産計画などに反映しているケースもあるようです。

 さまざまなデータを収集し、その分析を行えば、マーケティングの精度向上や商品の改善に生かせます。例えば、消費者はその商品原料の生産地がどこかを気にしているとか、デザインが悪いから選ばなかった、などを推測することができるのです。

 スマートフォンとテレビが連携すれば、このコマーシャルがブランドの認識や商品購入のキッカケであったと、ある程度把握することもできるようになるでしょう。先進企業では、マーケティングを改善するため、さまざまな試行錯誤を行っています。

TVとスマートフォンの融合

――つまりはノウハウの探り合いの様相を呈してきているのですね。

 その通りです。ひところに比べてビッグデータ活用にかかわる話が鎮静化しているように見えるのは、ネットのログデータやセンサーデータを収集し、多数のデータ間の相関を単に分析するなど誰でも思いつくことを一通りやってみて、それだけでは企業活動にはさほど役立たない場合が多いことが分かり、先進企業では、データ活用をビジネスの改善や企業経営にどう生かすかより深く考える段階になっているのです。これには、まさにデータ分析した結果から得られる知見やノウハウの蓄積が重要です。先進企業におけるビッグデータ活用は、すでにこの段階に踏み込んできているのです。

(真実井 宣崇)