インタビュー
米EMCが“クラウド生まれの企業”Spanningを買収した理由
(2015/5/14 06:00)
米EMCが2014年10月に買収したSpanningは、クラウドベースのアプリケーションに対するバックアップ/リカバリサービスを提供する企業だ。Google Appsのバックアップからサービスを開始し、1年前にはSalesforce.comのバックアップもサポート。インフラにはAmazon Web Services(AWS)を利用するという、まさにクラウドネイティブの企業といえる。
伝統的な企業であるEMCとは一線を画するようにも見えるSpanning。EMCが同社を買収した理由はどこにあるのか。またSpanningは今後どのような方向に進むのか。Spanningの元最高経営責任者で、現在はEMCにてSpanning担当バイスプレジデントを務めるJeff Erramouspe氏に聞いた。
EMCが持っていなかったギャップを埋める
──今回の買収は、Spanningにとって、そしてEMCにとってどのような意味があるのでしょうか。
Spanningは、50人程度の小さな会社から5万人以上の大企業の一部となりました。大きな変化でしたが、EMCが持っていなかったソリューションのギャップをSpanningが埋められたと思っています。われわれにとっても、EMCの強固な販売力は大きなアドバンテージです。
現在Spanningでは、Google AppsとSalesforce.comのバックアップサービスを提供していますが、6月末にはMicrosoft Office 365のバックアップサービスも開始する予定です。EMCは、Microsoft Exchangeをオンプレミスで利用している顧客を数多く抱えていますが、そうした顧客がOffice 365に移行するとバックアップの方法がなくなってしまいます。そこでわれわれがソリューションを提供することになるのです。
EMCはクラウドにフォーカスしようとしていますし、既存のIT企業が第3のプラットフォームに移行する支援をしようとしています。そのためには、われわれのような「Born in the Cloud」(クラウド生まれ)の企業が必要なのです。Spanningではサーバーを1台も抱えておらず、すべてのサービスをAWS上で提供しています。われわれはクラウドの経験が豊富で、EMCがクラウドに移行する支援もできるのです。
──Spanningが提供するサービスの重要性を教えてください。
クラウドアプリケーションのバックアップなど必要ないと言う人もいますが、実際にはクラウドでもデータが消滅することがあるのです。ユーザーがあるデータを削除した際、それが意図したものなのか、間違って消したものなのか、さらにはハッキングされて消されてしまったものなのかは、サービス側で判断できませんからね。われわれのサービスでは、完全に削除したものでもリストアできるようにしています。
また、クラウドアプリでよく起こるのは、同期エラーです。新しいスマートフォンを購入して予定表を同期する際、逆に同期してすべてが消えてしまったという経験がある人もいるでしょう。特にSalesforce.comは、さまざまなアプリケーションと統合して利用するケースが多いのですが、統合時に間違ったボタンをクリックすると一瞬でデータが消えることもあります。こういった事故への対応はSalesforce.comでも支援してくれますが、それにはコストと時間がかかります。こうした問題をSpanningが解決するのです。
──競合にはどのような企業が存在するのですか? また、Spanningの競合に対する強みは?
2014年12月にDattoに買収されたBackupifyが主な競合です。両社共に非上場企業で、主にマネージドサービスプロバイダー(MSP)をターゲットとしています。ただ、MSPはどちらかというと中小企業寄りで、われわれのように大企業、特にOffice 365ユーザーをターゲットとした市場では、Spanningが有利ですね。
それにSpanningでは、バックアップしたものは100%リストアできると宣言しています。メタデータやコンテキストなど、正しいフォーマットでリストアできるのです。一度競合から移ってきた顧客がいましたが、その理由は、競合のサービスではリストアした時のデータフォーマットが正しくなかったことでした。例えば、階層化された数々のフォルダをリストアした際、階層がばらばらになり、同じファイル名で保存していたものがどの階層に入っていたのかわからなくなってしまうことがありますが、Spanningではフォルダの階層ももちろん正しくバックアップします。われわれは、単にバックアップしてリストアするだけでなく、正しく元の状態に戻すことにフォーカスしているのです。
われわれは、Google Appsのバックアップサービスで顧客を約5000社抱えており、1年前に開始したSalesforce.comのバックアップでも数百社の顧客がついています。Google Appsに関しては1社あたり約6000ユーザーといったレベルですが、Salesforce.comではさらに大規模ユーザーが存在します。今後開始する予定のOffice 365に向けたサービスでは、5~10万というユーザー数を抱える企業とも商談中です。従来Microsoft Exchangeを利用していた顧客が、どんどんクラウドへの移行を進めています。Microsoft自身、移行を推進していますから、今後もわれわれのサービスに対する需要は高まっていくでしょう。
──今後Spanningのサービスはどのような方向に進む予定ですか。
まずは、現在ベータ版として提供しているOffice 365のバックアップサービスを、Google Appsのサービスと同等レベルに仕上げることですね。Google Appsでは、Gmail、Googleドライブ、コンタクト、カレンダー、Googleサイトをサポートしています。Office 365でも、まずはメールのサポートから開始し、次にカレンダー、コンタクト(People)、OneDriveなどに対応する予定です。
──AWSを利用しているとのことですが、今後EMCのインフラに移行することになるのでしょうか。
少なくともデータ保存の部分についてはEMCのインフラに移行することになるでしょう。ただし、移行の優先順位はあまり高くありません。インフラの移行には時間もかかりますしね。それよりも、顧客に役立つさまざまな機能やテクノロジーを開発し、AWS上で素早く提供したいと考えています。その開発の手を止めてインフラを移行させるのは意味がありません。
──AWSはEMCの競合と思われがちですが。
確かにAWSはストレージを安価に提供していますから、そういった視点ではAWSはEMCの市場の立ち位置を悪化させていると言えるでしょう。しかし、EMC関連サービスの中でAWSを利用しているのはSpanningだけではありません。2012年5月にEMCが買収したSimplicityや、われわれと同時期に買収を発表したImaginaticsもAWSを利用しています。また、顧客の中にもAWSに移行する企業が多く、こうした動きをきちんと受け入れるべきです。
これは、今後EMCがAWSと戦えるだけの良いサービスを生み出す流れにつながるかもしれません。特にクラウドストレージの分野では、EMCもAWSに匹敵するすばらしいサービスを提供する施策が必要となるでしょう。これから変革が起こると思いますよ。