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孫正義氏講演「日本復活は先端テクノロジー活用にあり」
~SoftBank World 2014

 7月15日、ソフトバンクは「SoftBank World 2014」を開催。基調講演にソフトバンクグループの代表である孫正義氏が登場した。

ソフトバンクグループ 代表 孫正義 氏

 孫氏は、「歴史を振り返っても、その時代の最先端テクノロジーを使いこなした者が時代の覇者となった」と指摘。現代においては、「まずはスマートフォン、タブレット、クラウドを全社員が使いこなすことから始めるべき。当社もこれを実践後、契約件数は2.3倍、獲得回線数は2.7倍と生産性向上を実現した」とアピールした。また、来年2月から発売するロボット「Pepper(ペッパー)」も登場し、「労働力不足を解消するためにロボットが活躍する時代が必ず来る」とテクノロジーによる時代の変化を呼びかけた。

スマートフォン、タブレット、クラウドの3つが、現在の情報武装の鍵

 基調講演の壇上に登場した孫正義社長は、「最近の日本は、特に経済部門において自信をなくしている。日出づる国のはずが、日没の国という印象となってしまっている」と日本経済が停滞していると指摘した。

 その上で、「日本復活の方程式は、生産性×労働人口=競争力。労働人口を増やすことはすぐには実現できない。まず、日本の生産性を上げるしかない」と言及した。

日本復活の方程式は生産性×労働人口=競争力

 生産性を上げるための鍵として、「情報武装が鍵になる」と指摘。「トランジスタの進化によって、2018年にはCPU1つに搭載されるトランジスタの集積度は300億を超え、人間の脳を超える。メモリ容量も劇的な拡大し、通信速度の劇的な高速化もはかられる。これまでは限られたCPU、メモリ容量、通信速度の中で作業をしなければならなかったが、これからは無限大のCPU、メモリ、通信速度で作業をすることが当たり前の時代となる。その結果、ワークスタイルが劇的に変わる」と、情報武装を取り巻く環境の変化によって、ワークスタイルに大きな変化が生まれるとした。

CPUに搭載されるトランジスタの数が2018年に脳を超える
メモリ容量も劇的に増加
モバイル通信速度も劇的な高速化
2040年にはCPU、メモリ容量、通信速度ともに大幅に増強

 現在の情報武装のツールとして、スマートフォン、タブレット、クラウドが不可欠となっているが、ソフトバンクでは「iPhoneが発売されると同時に、アップルよりも先に全社員にiPhoneを支給した」と情報武装実践に取り組んでいる。

 会場に向けて、「全社員にスマートフォンを支給しているという会社はどれくらいいますか?」と呼びかけると、来場者の2%程度が挙手。「全員にタブレットを支給している会社はどれくらい?」と問いかけると、1%程度。クラウドは最も多く5%程度だったが、「スマートフォン、タブレット、クラウド全てを全社で利用している会社は?」と呼びかけたところ、手を挙げた人は会場で1人だった。

 この結果に対し、孫氏は、「スマートフォン、タブレット、クラウドの3つが、現在の情報武装の鍵となる。その3つを全て使っているという会社がほとんどない、これでいいのか? もちろん、この3つを何に使うのかは会社ごとに異なり、会社によっては役に立たないということもあるだろう。しかし、まず導入するところから始めなければならない」とまず導入することが重要だとした。

文明の利器を最大限に活用する~「いつやるか? 今でしょ!」

 情報武装によって成功を収めた例として、織田信長を上げた。「信長が戦国時代の覇者となったのは、他国に先駆けて当時、最先端だった鉄砲を導入したことが要因。その時代の最先端のテクノロジーを他社に先駆けて導入したからこそ勝者となった。」

 ソフトバンク自身も、情報武装後、契約件数は2.3倍、獲得回線数は2.7倍と生産性向上を実現し、「1人当たりの生産性が倍になった」という。

 「全ての皆さんがスマートフォン100%、タブレット100%、クラウド100%が実現すると、さらなる未来が待っている。自動車も洗濯機をはじめとした家電製品、そして運動靴、眼鏡に至るまで、全てセンサーと通信で繋がり、ビッグデータが集まる時代が来る。すでに100億個がインターネットに繋がっているといわれるが、2020年には500億個のモノがインターネットに繋がり、クラウドと融合する時代がやってくる。」

ソフトバンク情報武装化の成果
日本企業のスマフォ、タブレット、クラウドの利用率は低く、未だ深刻な状況

 ソフトバンクではIoT(Internet of Things)技術を、電波状況改善に活用した。「ピンポイントで、機種別、時間別、場所別で接続状態を計測し、データによるインテリジェントな方法で問題解決を行い、接続率ナンバーワンへと生まれ変わることができた。」

 また、ソフトバンクでは、ゼネラル・エレクトリック(GE)とビッグデータ分野で業務提携した。GE製機器にビッグデータを集めるためのセンサーを導入し、クラウドにデータを集めて分析する。

 「自動車の状況をリアルタイムに把握し、顧客に提供する。タイヤの空気圧に異常があって、即、交換を要するといった場合には、即、来店を促す。」

2020年にはIoTで接続されるものは500億個に
GEとビッグデータ分野で業務提携。ソフトバンクの電波状況改善やリアルタイムM2Mデータ分析にビッグデータを活用
例えば自動車のデータをクラウドに集約
車の状態を可視化して来店を促進

 この業務提携に関しては、孫氏の個人的な友人だというGEのCEO、ジェフリー・イメルト氏のビデオメッセージも上映された。

 孫氏は、「織田信長も鉄砲を自身で発明したわけではない。文明の利器を最大限に活用した。現代は、スマートフォン、タブレット、クラウドを導入し、最大限に使いこなすという選択をした企業が優位となる。それをいつやるのかといえば、どこかで聞いた文句だが、『今でしょ!』ということだ」とアピールした。

GEのCEOであるジェフリー・イメルト氏からのビデオメッセージ

日本の課題=少ない人口と高い人件費~解決策はロボット

 さらに、日本復活に「生産性」とともに必要な「労働人口」については、「製造業労働人口が中国に大きく劣っていること、高い人件費という課題をどう解決するのかだが、その解決は難しい。そこで私はその対策としてウソのようなホラを吹きたい。これは半分以上笑って聞き逃して欲しい」と言いながら、孫氏らしい解決法が提案された。

 「急に子供を産むことはできないが、テクノロジーなら解決ができる。これまで日本は単純生産型ロボットでは世界1だったが、汎用型生産ロボット、車でいえばT型フォードのような、ありとあらゆる用途に使えるロボットで世界ナンバー1を目指すべきだ。最近、Googleが有望なロボット企業を買収しているが、それでも止められないくらい、新しい企業を興す若者が日本には絶対にいるはず。」

 ソフトバンク自身もロボット「Pepper(ペッパー)」を発表したが、壇上にもPepperが登場し、孫氏と会話し、「新しいアプリです」とPepper自身が紹介した動物の声による歓喜の歌の演奏も紹介された。Pepperはソフトバンクの一部の店舗に設置されているが、Pepper目当てに来店する顧客も増加。すでにプラス効果が出ているという。

 孫氏はPepperのアプリケーションが重要な要素だと説明し、「新しいアプリ開発のために、9月にはデベロッパー向けカンファレンスも開催する。パソコンのように、スマートフォンのように、我々はプラットフォームを提供する」とソフトバンクがプラットフォーマーとしてのビジネスを行うとアピールした。

 このアプリケーションの増加と質の充実がロボットビジネスを拡大する鍵だとして、「パソコンも出始めはたいしたことが出来なかった。今から50年、100年経つとロボットが当たり前の時代になる。ロボットが3000万台稼働されれば、人口1億人と同様の労働人口確保となり、日本が労働人口世界1となり、賃金が高いという問題、人口減という問題を回避できる。Appleが株価世界一となったのは、付加価値労働のみを米国で行い、単純労働は海外へという図式を実現できたからだ」と現在の日本が抱える問題回避にロボットが期待できるとした。

 孫氏は最後に、「デジタルネイティブという言葉があるが、今後はロボットネイティブな子供が増える時代だ」と講演を締めくくった。

日本の課題、少ない人口、高い人件費
解決策はロボット
ロボットの進化
会場にもPepper登場
人とロボットがともに働く時代へ
ロボット3000万台で製造業1億人構想
一日の労働人口、3人分
製造業の労働人口世界ナンバー1へ
平均賃金世界最低へ
ロボット活用で生産力向上へ

三浦 優子