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Microsoftがパートナーカンファレンスで見せた強気の姿勢

Microsoft Worldwide Partner Conference 2014基調講演

 米Microsoftが全世界のパートナーを対象にしたプライベートイベント「Microsoft Worldwide Partner Conference 2014」が、米国時間の7月14日から、米ワシントンD.C.のWalter E.Washinton Convention Centerなどで開催されている。

 全世界136カ国から、3500人の初参加を含む1万6000人以上が参加。日本からも149社のパートナー企業から356人が参加し、そのうち、26社55人が初参加となり、過去最大の参加数となった。

 また、Microsoft社員も全世界から3000人以上が参加。日本Microsoftからも、樋口泰行社長以下、ほとんどの幹部社員が出席している。

 開催初日には、米MicrosoftのKevin Turner COOによる基調講演が、3時間以上に渡って行われ、パートナー向けの新たな施策などが発表された。

基調講演が行われた米ワシントンD.C.のVerizon Center
基調講演の会場の様子。会場は満杯となった

5つのメガトレンドに注力

米MicrosoftのKevin Turner COO

 登壇したTurner COOは冒頭、「Microsoftは9型以下のデバイスに対してWindowsを無償で提供したり、Officeをクロスプラットフォームで提供するなど、大きな決断をしてきた。これは大きな成果をあげている」とする一方、「PCは3億台の市場規模があり、そのうち約9割をMicrosoftのOSが占めている。しかし、世界中で使われているデバイスという観点でみると、MicrosoftのOSのシェアはわずか14%でしかない。世界は変化している。現状維持のままではいけない。考え方を変えれば、9割のシェアでは守りのビジネスになるが、14%というシェアであれば挑戦者としてのマインドセットが必要になる。これは目の前に大きなビジネスチャンスがあるということだ。挑戦者として必要な要素は、かく乱させるほどに様々なことに取り組み、競合他社の製品を熟知して、差別化ポイントを明確に訴求していくこと、そして、スピードをあげて、失敗するのならばいち早く失敗し、それを教訓にして再挑戦するという姿勢を持つことが必要である。これによってシェアを18%、20%、25%、30%と引き上げていくことができる」などとした。

 一方で、今年6月末で終了した2014年度には、「クラウド」「モビリティ」「ソーシャル」「ビッグデータ&BI」という4つのメガトレンドにフォーカスしたビジネスを展開してきたが、7月からスタートした2015年度においては、この4つのメガトレンドに「セキュリティ」を加え、5つのメガトレンドに注力していく考えを示し、「ここに成長の機会がある。パートナーとのエコシステムもここに力を注いでいくことになる」とした。

2015年度に取り組むMicrosoftの方針

3つのクラウドを提供できるのはMicrosoftだけ

 クラウドに関しては、2020年には年間2900億ドルの市場が創出されることを指摘。「桁はずれのビジネスチャンスが生まれることになる。パートナーもこの成長を自分たちのものにしていく必要がある。私はこの会場で、かつて、クラウドの到来を予言し、この波に乗ってもらうように呼びかけた。それにきちんと乗ることができたパートナーも多い。Microsoftも同様であり、Office 365は数100%という3桁の成長を遂げ、25万社がAzureを利用し、毎日1000社以上の新たな顧客を獲得している。Dynamics CRMは40四半期連続で2桁の成長を遂げている」と述べ、「パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドの3つのクラウドサービスを提供できるのはMicrosoftだけである。これは顧客に対して、選択肢を与え、最適なサービスを提供することにつながっている。ガートナーのMagic Quadrantsにおいて、IaaS、PaaS、パブリックラウドサービス、x86の仮想化という4つの項目でリーダーになっているのは当社だけである。他社はやっていないか、やっていても評価が低い。ここにMicrosoftのクラウドサービスの強みがある。とくに今後は、Office 365 Pro Plusの提案にパートナーの力を貸してほしい」と呼びかけた。

 また、クラウドビジネスについては、「世界中にデータセンターを増設中であり、これらをあわせると数100万平方メートルの広さになる。サーバーのキャパシティは半年間で倍増する勢いだ。多国籍企業やテクノロジーリーダーのなかで、中国にデータセンターを配置しているのは、Microsoftだけである」とし、「エンタープライズグレードのクラウドを提供していることも、当社の強みのひとつである」と語った。

3つのクラウドサービスを提供する唯一の企業であると強調
全世界にデータセンターを展開している

Hyper-VはVMwareの市場を奪っている

 仮想化についても強気な姿勢を示してみせた。

 「2008年におけるMicrosoftの仮想化シェアは0だったが、今年は30.6%にまで拡大した。2014年1~3月の市場シェアをみると、VMwareは5.1ポイント減少したが、Hyper-Vは4.6ポイント上昇している。市場シェアが変わってきており、安くて、パフォーマンスが高いHyper-Vが選択されている。私の予言が現実のものになってきた。参加しているパートナーのなかには、VMwareを活用している例もあるが、手遅れにならないうちにHyper-Vに移行してほしい」と来場者に呼びかけた。

仮想化市場において、Hyper-VはVMwareの市場を奪っているとする

モビリティ分野でもゲームチェンジを促す

 モビリティについては、2016年には14億台のスマホが使用されること、2020年には2120億ドルの市場規模になることを示す一方で、Windows Phoneの現状についても紹介。年率91%の市場成長を遂げていること、14の市場でトップシェアとなり、首位となった市場が昨年に比べて倍増していること、8つの市場ではシェアが10%を超え、24の市場でiPhoneのシェアを上回っていることを示した。「Nokiaの買収が完了することで、幅広い品揃えを持った形でWindows Phoneを展開できる。また、サードパーティからも多くの製品が登場することになる。毎月1200万件のアクティベーションがある」などとした。

 米国で発売したSurface Pro 3についても言及。「この製品に多くの人が期待を寄せている。MacBook AirやiPadと対峙するものと考えており、ひとつのデバイスでPCとしても、タブレットとしても使えることを訴求したい」と述べた。

 そのほか、モビリティ関連では、Office 365を、Windows Phoneのほか、AndroidやiPhone、iPadにも提供。OneNoteに関しても、「その特徴を、これまでしっかりと説明してこなかった反省がある。OneNoteは紙をなくすほどのインパクトを持った製品である。これを、他のプラットフォームでも利用できるようにし、より生産性を高めることができる」とした。

 モビリティにおいては、Microsoft Enterprise Mobilty Suiteを用意。「クロスプラットフォーム環境で、モバイルデバイスを管理できる製品で、IntuneをはじめとしたMicrosoftの製品の組み合わせで提供できる。月額4ドルで利用でき、この分野のゲームチェンジを促すものになる」との見解を示した。

 なお、Microsoft Worldwide Partner Conference 2014の参加者には、会期中の期間限定で、i5搭載の256GB版を、タイプカバーをバンドルして、1199ドルの価格で特別に提供することを公表した。

OfficeをiPadやAndroidなどの様々なデバイスに提供する
そのほかにも各種サービスを様々なデバイスで利用できる環境を用意している

ビッグデータにはさまざまなソリューションを用意

 ソーシャルに関しては、SherPointが20億ドルのビジネスに成長。Yammerがフォーチュン500社のうち85%で利用されていること、Lyncがフォーチュン100社の90%で利用されていること、Skypeが3億人のユーザーが利用していることを紹介。ビッグデータでは、2015年には8ZB(10の70乗、エクサバイトの1000倍)のデータが利用されることになるとしながら、「ますますビッグデータの利用が広がっていく。それにあわせたSQL Serverは、10四半期連続で成長を遂げており、オラクルに比べて3倍近いシェアを持っている」などとした。

ビッグデータに対して様々なソリューションで対応する
SQL ServerはオラクルやIBMを越えるシェアを獲得したと強調

 セキュリティについては、全世界で672億ドルの市場が創出されると予測。「年間4億人がサイバーセキュリティの犠牲になっている。また中小企業も狙われはじめている。そこには大きなビジネスチャンスが生まれるだろう」と指摘しながら、「Microsoftは、米国政府に対して個人の情報は出さない。それは他の国の政府に対しても同じことだ」と語り、大きな拍手を受けた。

 Turner COOは、この1年半の間に、785社がGoogleから移行したことを示し、「情報が政府に流出するという環境からMicrosoftは救出することができた。来年も同じ規模のGoogle利用者を、Microsoftに移行させて救済したい」と語った。

2015年度の方針

2015年度に取り組む4つの重点ポイント

 一方で、2015年度の方針として、「Office 365やAzure、CRMといったクラウド分野への展開強化」「モバイルビジネスの強化」「挑戦者としてのスピードなどの3つの要素への取り組み加速」「コンシューマ満足度の追求」の4点をあげた。

 クラウドに関しては、現在、5万3000社のパートナーが存在し、前年比116%増という高い成長を遂げたが、「これをさらに加速させたい。来年には新たな10万社のパートナーに参加してもらい、15万社のクラウドパートナーとビジネスをやりたい。また、Office 365を展開しているパートナーは、AzureやCRMにも幅を広げてほしい」とコメント。クラウドビジネスを行っているパートナーは、粗利が1.6倍、収益の成長が2.4倍、顧客の獲得で1.5倍になっていることを示し、「クラウドこそが成功の鍵である。スピードをもって対応してほしい」と語った。

 モバイルビジネスについては、9型以下のデバイスに対して無償でWindowsを提供すると発表して以降、中国・深センのODMに製造注文が殺到し、31機種の生産が新たな開始されたこと、2in1デバイスが各社から登場していることなどに触れながら、「ヒューレット・パッカードからは199ドルのノートPCが年内にも発売される。また、99ドルのタブレットも登場する。これは、クロームOSを搭載したウェブにつなぐことしかできないデバイスよりも安い」と比較してみせた。

 そのほか、2014年度には4万2000社のAzureユーザーが増加したこと、Daynamics CRMが、Saleforce.comに比べて低コストでCRMを利用できること、SQL ServerがIBMやオラクルに比べて高性能でありながら、低コストであること、Enterprise Mobility Suiteによって、モバイルデバイスの管理が容易になることなどを示した。

 これらの説明をしながら、アップルのティム・クックCEOのTwitterに掲載されていたiMacの製造工程の写真に写っていた工程管理用のPCでWindowsが動作していたことに触れながら、「Windowsはどんなところでもビジネスに利用されている」とコメントした。

 最後に、Turner COOは、「時代の変化のスピードはますます加速している。技術の進化が、時代の変化に追いつかない。飛ぶようなスピードが時代が動いている。変革がますます重要になってくる。なにか問題があったり、私に手伝ってほしいことがあれば、すぐに連絡がほしい」と、変化に向けたパートナー支援に強くコミットしていく姿勢を示した。

Azureの最新状況

 また、米Microsoftのクラウド&エンタープライズのScott GuthrieエグゼクティブバイスプレジデントがMicrosoft Azureの最新状況について説明。「Microsoft Azureは、ハイパースケール、ハイブリッド、エンタープライズグレードのサービスという3つの要素を実現している業界唯一のクラウドである」と前置きし、「Azureのデータセンターは、先週発表した米国の新たなリージョンを含めて、全世界に17カ所ある。これはAWSの2倍であり、利用者は自らが使いたい場所の近くのデータセンターを利用できる。また、それぞれのデータセンターの大きさは、アメリカンフットボールのフィールドと同じサイズであり、2機のジャンボジェットが入る大きさであり、60万台のサーバーが入る。それが17倍あるという規模になる。これは経済性というメリットを生み出している」とした。

 また、現在、フォーチュン500社のうち57%の企業がAzureを利用していること、30万以上のウェブサイトが運用されていること、100万以上のSQLデータベースが利用されていること、30兆以上のオブジェクトがストレージに保存されていること、3億ものアクティブディレクトリが利用されていること、165万以上のデベロッパーが登録している、といった最新データも紹介した。

 Microsoft Azureに関しての新たな発表としては、Azure上の様々なアプリを利用することができるAzure Galleryをデモストレーション。さらに、Power BIについては新たな機能として、Power Q&Aを紹介。ダッシュボード上で自然言語で質問すると、その回答となるデータを表示するといった様子をデモストーションした。また、過去のデータから機会学習させて、将来を予測するMicrosoft Azure Machine Learningも発表した。

パートナー支援のため続々オープン化

 そのほか、Microsoft Azureのオープン化にも取り組むことを発表。パートナーを通じたMicrosoft Azureの販売を開始するという。

 「Microsoftにとって、パートナーによるビジネスは不可欠。それはクラウドでも同様である。今後も、パートナーに向けて、最良のクラウドソリューションを提供していきたい」と述べた。

 米Microsoft オフィスディビジョンのJohn Caseコーポレートバイスプレジデントは、「Azureは、毎週8000件の新たな顧客が増加しており、そのうち、35%がパートナーを通じたものである。また、Office 365の4社の3社がパートナーを通じたものである」などと現状を報告。また、Office 365 for iPadが2000万件のダウンロードが行われたのをはじめ、2014年度に展開したOffice 365やIntune、Azureに続いて、今年中には、新たなCRM Onlineをパートナーが販売できるようにオープンにする計画を発表。まずは、48カ国の厳選したパートナーを対象に実施するとした。さらに、「クラウドにおいては、販売、オンボード、エンハンス、管理、更新といったサイクルにおいて、パートナーをサポートするプログラムを用意する。急速な勢いでクラウドビジネスを立ち上げてほしい」と説明。米マイクロソフト ワールドワイドパートナーマーケティング&プログラムのGavriella Schusterゼネラルマネージャーが、具体的なクラウド支援策について説明した。

 ここでは、シルバーレベルのクラウドコンピテンシーを取得したパートナーに対して、初年度の費用を免除するほか、コンピテンシーのレベルに応じて社内で利用するOffice 365およびAzureのライセンス数を25~200%以上に換算して提供。9月にはパートナー支援のための組織を設置し、クラウドビジネスをサポートすることを公表。さらにオンプレミスコンピテンシーに対しても、年会費を10%とオフにすることで、浮いた費用をクラウドビジネスの投資にまわしてほしいとした。この発言には、会場から大きな拍手が湧いた。

 「クラウドに対する初期投資を下げ、多くのパートナーがクラウドビジネスを推進できるように支援をしていく」と、Schusterゼネラルマネージャーは語った。

 なお、会期最終日となる7月16日には、サティア・ナデラCEOによる基調講演が予定されており、なにかしらの発表が行われるとみられる。

大河原 克行