ニセモノのプライベートクラウドに気をつけろ!~「AWS re:Invent」基調講演


 「6年前、われわれがビジネスを始めたとき、皆が“誰もはそんなモノ使わないよ”とあざ笑った。だがいまや、NASAの火星探査でも、ロンドンオリンピックでも、そして大統領選でも、AWSが成功へのプラットフォームとなっている」――。

 11月28日(米国時間)、米ラスベガスで開催されたAmazon Web Services初のカンファレンス「AWS re:Invent」の基調講演において、AWSのシニアバイスプレジデントであるアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏はこう話した。

 ITの世界を一変させたクラウドコンピューティングの先駆者は、6年後の現在も競合を寄せつけず、トップベンダとしての地位は不動のままだ。なぜ顧客はAWSを選ぶのか。本稿ではその強さの理由をジェシー氏の基調講演から検証してみたい。

 

競合のプライベートクラウドはクラウドではない!?

AWS シニアバイスプレジデントのアンディ・ジャシー氏

 AWSはこれまで、競合他社について多くを語ることがなかったが、ジャシー氏は今回、OracleやIBM、HPといったプライベートクラウドを提供するベンダを暗に指して「old guard technology companies(古臭くてカタいテクノロジ企業)」「Cloud Washers(クラウドを有名無実にしてしまう連中)」と強い言葉で批判し、こうした企業が提供する「高額なマージン重視のプライベートクラウドという言葉にだまされないでほしい」と訴えている。

 なぜ、彼らは“Cloud Washers”なのか。ジャシー氏は「彼らのサービスはクラウドと言いながらクラウドの要件を満たしていない。クラウドの本来のメリットを顧客に提供できていない」と主張する。AWSはクラウドコンピューティングの条件として

・初期費用なし、従量課金のみ、CapExからOpExへ
・TCO全体をより削減
・キャパシティの心配は無用
・アジリティ/スピード/イノベーション
・顧客が考えるのはビジネスの差別化だけ
・数分でグローバルに進出

 といった6つのポイントを常に提唱しており、これらをすべて満たしていないクラウドはクラウドとはいえないとしている。ジャシー氏は「競合他社の“プライベートクラウド”なるものは、サービスの自動化やリソースの配分/トラッキング、コストのチャージバックといった部分の完成度が20~30%程度と低すぎる」と指摘。

 加えて「彼らはわれわれがビジネスを始めたとき、“クラウドなんて、何も新しい要素はない。ただの仮想化じゃないか”とあざ笑った。その後すぐにわれわれのビジネスが軌道に乗ると“OK、ただの仮想化ではないようだ”と態度を少しずつ変え、いまでは“お客さまはご自身のデータセンターでクラウドのメリットを享受できます”と自分たちのサービスを売り込んでいる」ときびしく批判する。クラウドのパイオニアであり、現在もトップを独走するAWSだからこそ説得力をもつコメントといえる。

 

顧客企業の高いロイヤリティがAWSの資産

 AWSが競合を寄せつけない強さを誇る背景には、もうひとつ、大きな理由がある。顧客であるユーザー企業の高いロイヤリティだ。今回の基調講演にはNASA/JPL、Netflix、NASDAQといった大口ユーザーのエグゼクティブが登壇し、彼らのビジネスを成功させるためにいかにAWSが欠かせないものであるかが語られている。

・NASA/JPL
火星探査機「Mars Curiosity」の火星着陸のもようをストリーミングでリアルタイムに全世界に配信するにあたり、AWSのサービスをいくつも利用、膨大な画像をハイパフォーマンスで届けることに成功した。「AWSがなければ成功しなかった。これまでのコラボレーションから、NASA/JPLはAWSを全面的に信頼している」

・Netflix
AWS最大のユーザーで、クラウドの成功事例として紹介されることが多い。1カ月に約10億時間分の動画コンテンツを配信するにあたり、ほぼ100%、AWSを使って行っている。「AWSの最大の魅力はいくらでもスケールできること。クラウドコンピューティングはまだ黎明(れいめい)期。たとえていうなら、コンパイラが存在せず、レジスタのアロケーションを人力でやっていたアセンブルの時代にいるようなもの。クラウドはまだ進化する余地がたくさんある」(Netflix CEOのReed Hastings氏)

・NASDAQ
ディーラーやトレーダーが求めるプラットフォームは、低価格で高い性能、グローバルでレギュレーション対応ができて、新しい投資を呼び込めるもの。もちろんセキュリティも重要。AWSと共同で開発した金融専門クラウド「FinQloud」はパフォーマンスやセキュリティなど業界が求める基準をすべてクリアしており、ユーザーはビジネスだけに専念できる

 これらの企業に共通するのは、トランザクションの変化に対しての柔軟な対応と、無制限とも言えるキャパシティの拡張が欠かせないものであり、これをコストとパフォーマンスの両面から満たせるクラウドは「AWSしかない」という点だ。

 AWSのエグゼクティブは「顧客が求めるサービスしか提供しない。競合他社が何をやろうとわれわれには興味ない」という旨の発言をさまざまな場面で行っているが、それが実践できているからこそ、こうしたユーザー企業からの絶対的とも呼べる高い評価につながっているのだろう。


金融関係者からも高い信頼を置かれているFinQloudはAWSの安全性を実証している

 

 基調講演の最後、ジャシー氏は2006年にビジネスをローンチしたときのことを振り返りながら、直近の事例であるオバマ陣営の大統領選でのクラウド活用を紹介した。有権者の動向を分析する27TBにも及ぶデータベース、100万コールをさばいた寄付金集めのコールセンターアプリケーション、7000名を超えるサポーターのエンゲージメントプラットフォーム、膨大なアクセスがあるWebサイト“barckobama.com”の構築、その他200以上のアプリケーション、これらすべてがAWS上で稼働し、結果としてオバマ大統領の再選に大きく貢献したことは記憶に新しい。

 「これ以上にミッションクリティカルな事例はない」とジャシー氏は講演を締めくくったが、この事例からもわかるように、AWSは今回のre:Inventを通して、よりエンタープライズに向けたメッセージを強く打ち出そうとしている印象を受けた。

 よく言われがちな「パブリッククラウドはセキュリティや信頼性の面で難がある」という風評を、自らの実績で打ち砕く姿勢を明確にしたとも言える。競合他社に対するいつにない強い批判も、そうした姿勢の表れと取ることもできるだろう。圧倒的な強さを誇るAWSが再び本気になったとき、今回批判された競合他社はどんな反撃に出るのだろうか。

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