iEXPO 2011でNEC・遠藤信博社長が基調講演、「C&Cクラウド」の取り組みなどを説明


会場のパネル

 日本電気株式会社(以下、NEC)は、11月10日、11日の2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて、「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO 2011」を開催している。

 同イベントは、NECグループ最大のプライベートイベント。今年は、「人と地球にやさしい情報社会へ。~みんなの想いが、未来をつくる~」をテーマに、クラウドの未来やNECグループの取り組みについて、またユーザー企業の課題解決につながる各種テーマでの講演、セミナーを用意しているほか、新しいライフスタイル、新しい街づくり、新しいビジネススタイルなどのカテゴリーに分けた展示が行われる。展示会場は、両日とも午前10時~午後6時まで。

 

C&Cクラウドで新たな価値創出へ

NECの遠藤信博代表取締役執行役員社長
遠藤社長が掲げた、NECのグループビジョン
新たな価値を創出するインフラ“C&Cクラウド”

 初日の午前10時から行われた、NECの遠藤信博代表取締役執行役員社長による基調講演では、「人と地球にやさしい情報社会へ。~みんなの想いが、未来をつくる~」をテーマに、NECグループが2017年を目標に取り組んでいるグループビジョン「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」について説明。また、このビジョンの実現に向けて、クラウド・コンピューティングの未来を見据えたC&Cクラウドの提案や、地球環境と共存し持続的に発展できるエネルギー社会に貢献する同社の方向性などについて触れた。

 なお、グループビジョン達成の最終年度となる2017年は、元社長の小林宏治氏がC&C(コンピュータとコミュニケーション)を提唱してから40年後にあたるという。

 遠藤社長は、「世界人口が70億人を突破したという点では、人と地球が調和した持続的に発展可能な世界の実現が、より重要な課題になってきたことでもあり、ICTを活用することで、相互理解、協調のためのコミュニケーションがより重視されることになる。地球の変化や資源を有効活用について理解し、また有用なサービス、情報を提供していくことが必要であり、そこにNECの役割がある」などとした。

 NECは、長年にわたり、コンピュータによるインフォメーション・テクノロジーと、コミュニケーションによるネットワーキングテクノロジーの双方に取り組み、エポックメイキングな製品/サービスを提供してきたことを紹介。「いまは、これらの取り組みをクラウドという言葉に置き換えている。さまざまな情報を活用し、有用なサービスを作り上げ、これを多くの人がどこからでも活用できる環境を提供している。クラウドを支えているのはまさにITプラットフォームとネットワークである。ネットワーク環境はこの10年の間に、ワイヤレス分野でのブロードバンド化が進展し、ITプラットフォームにおいては、コンピューティングパワーの進展、仮想化による効率化が進展している。これらがあるからこそ、34年前に提唱したC&Cが実現することになる」と話す。

 また、「クラウドは、ITプラットフォームとネットワークを基盤に、その上に、サービスが提供され、同時に、センサーやデバイスによって大量の情報を収集し、クラウドにアクセスする3つのレイヤーで出来上がっている。NECは、この3つのレイヤーをすべてに製品、サービスを提供できる企業であり、いいポジションにある」などとした。

 さらに「これからのクラウドにおいては、キーポイントは情報の電子化である。電子データが蓄積されることで、まったく違うカテゴリーのもの同士がリンクし始める。これまでバラバラだった交通情報と自動車情報、気象情報がリンクすることで、事故が起こりやすい場所を警告したり、ブレーキを踏む回数を減らして、全体のエネルギーを減らしたりできるといったことが可能になる。これは新たなサービスも創出することにもつながる。このなかで、重要なキーワードは、リアルタイム、ダイナミック。情報をリアルタイムに収集し、ダイナミックにレスポンスし、価値のあるサービスとして返すというところにクラウドの意味がある」と語り、ショーウインドウを見ている女性の情報をリアルタイムで収集し、着ている洋服や過去の購買履歴などから好みを判断し、個人に最適なお勧め情報や、在庫をもとにした提案などを、ダイナミックな形でサービスとして提供するといったことを可能にするソリューションを示した。

 「リアルタイム、ダイナミックに加えて、大量のデータから予知、予測をすることができ、さらにそれを予防、行動支援につなげることができる。さらにこれらがどこからでも利用可能になることが大切である。クラウドにおいては、この5つのキーワードが重要である」などとした。

 大量データを活用して、予知、予測、予防、行動支援につなげるという点では、スーパーコンピュータを活用した全地球大気シミュレーションを紹介。1.9kmのメッシュ、30kmの高さで32層に分けた大量の計測データを計算することで、台風の状況や砂漠の雨量などが予測できるという。「大量のデータを瞬時に分析することで、価値のある情報を提供できる」とした。

 一方、遠藤社長は、国内の携帯電話市場におけるスマートフォンの構成比は、2010年9月には3%だったものが、2011年9月には15%の構成比になったことを示し、「たった12%構成比が増えただけで、トラフィックは2倍になっている。リッチコンテンツの利用によるデータサイズの増加、さまざまなデバイスを活用することによるデータ発生源の増加、リアルタイム性の高まりによって、データはますます増えていく。業種、分野の枠を超えて情報をつなぐことで、新たな価値を創出する必要もある。これこそがクラウドのおもしろさであり、有用なサービスを生むために必要なものである」と語り、「データの収集のあり方、データトラフィックの処理のあり方、価値創造のための分析のあり方が課題である。いかに過去に蓄積された大量のデータ、リアルタイムの大量のデータを集め、スムーズに処理、分析するかが価値創造につながる」とした。


クラウドで実現される新たな価値価値創造のための大量データ活用を可能にする

 リアルタイムデータの収集という点では、NECが開発した圧電式振動センサーや、このほど開発した超高感度および広帯域(10Hz~20Hz)を実現した低価格センサーを紹介。緩い振動や、高い周波数帯で発生するきしみなど、従来検知できなかった情報が検知でき、ライフラインでの劣化予兆などの情報取得が可能になるとした。

 「水道管の水が流れる音から劣化を予測でき、限られた水資源の有効活用につながるかもしれない。だが、日本の水道管は60万kmあり、100mおきに設置すると600万個必要になる」などとした。

 データトラフィック処理やネットワークの効率的な運用としては、OpenFlowを活用したプログラマブルフローへの取り組みを紹介。通信トラフィックを集中制御し、最適なルート選定や、最適なサーバーアロケーションなどが可能になり、データの流れを効率化できることを示した。


超小型センサーを使って、従来検知できなかった情報の検知に取り組むOpenFlowにも注力している

 また、集まってきたデータを高速処理できる技術開発に取り組んでいることについても紹介。「過去データをもとに行ったマシンラーニングにより、新たなデータがどんな相関関係にあるのかといったことを理解し、ルール化。これを情報に適用することで、次の情報を自動的に推測することができるようになる」とし、「すでに毎秒250万件を処理できる環境が構築できる。これは、1億台ある携帯電話のうち、半分にあたる5000万台の携帯電話が1分おきに発信する情報を分析できる能力があるもの。8000万台の自動車が1分おきにあげてくる情報は、133万イベント/秒であり、これも十分処理できる」などとした。これらの情報を都市部の交通緩和などに利用できるなどとする。

 さらに価値創造のためのデータ分析や、高度な分析アルゴリズムへの取り組みとして、超解像技術を活用した大規模映像監視システムを紹介。過去データをもとにした学習型の解析技術により、従来認識できなかった小さな画像や不鮮明な画像の認識が可能になる。例えば、不鮮明なナンバープレートも学習効果により、読みとれるようになるという。この技術は、顔認証や指紋認証にも活用されているほか、がん細胞の診断支援を行う病理画像診断支援システム「e-Pathologist」にも活用。「あらゆる情報をリアルタイムにデータ化し、過去のデータと相関性を作り、そこから回答を導き出す技術であり、安心、安全、便利なクラウドサービスの実現と、価値ある情報の提供が可能になる」と語った。


データトラフィックの処理をリアルタイムで実現する高度な分析アルゴリズムにも取り組む

 遠藤社長は、C&Cクラウドが、農業や交通分野、さらにはスマートシティでも活用されることを示しながら、「ICTによる新たな価値を創造し、人と地球にやさしいスマートシティの実現につながる。これらを実現するために、必要なデバイス、大量のデータを扱うネットワークの処理技術、データの処理能力実現するためのソフトウェアを開発し、NECが貢献できるエリアを広げていきたい」とした。

 講演の最後に遠藤社長は、同社のクラウド・コンピューティングへの取り組みなどを紹介した約5分間のビデオを放映。「大量のデータを、リアルタイムに、ダイナミックで、価値のあるものに作り上げていくことが大切だ。こんなものがあったらいい、こんなことをするにはどうしたらいいのかということをぜひNECに投げかけをしてほしい。それが次に進むためのモチベーションになり、価値のあるソリューションを作るための糧になる。意見をいただけるとありがたい」などとして講演を締めくくった。

関連情報
(大河原 克行)
2011/11/10 13:33