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「エンジニアと一緒に成長するマイクロソフトに戻りたい」~開発者向けイベント「de:code」を開催

Nokia Lumiaを参加者へ配布するサプライズも

 日本マイクロソフト株式会社は、5月29日・30日の2日間、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京において、開発者向けイベント「de:code(デコード)」を開催している。日本マイクロソフトの樋口泰行社長による基調講演のほか、80以上のブレイクアウトセッションや、製品やソリューションの展示ブースを設置。マイクロソフトやパートナー各社の最新テクノロジーを紹介する。

 参加対象者は、アプリケーション開発者、Web開発者、インタラクティブデザイナー、IT技術者、ITアーキテクトなど。開発者向けに日本マイクロソフトがイベントを開催するのは、「Windows Developer Days」以来、2年ぶりとなる。

 今年4月に米サンフランシスコで開催された開発者向けイベント「Build 2014」で公開された情報や、それを日本市場向けにアレンジしたブレイクアウトセッションを通じて、「ユニバーサル Windows アプリ」や次世代コンパイラ「Roslyn」、Microsoft Azureのアップデート情報を提供するほか、既存の技術をベースにした社内システムのモダナイズや、開発環境の効率化に役立つ技術知識、アプリの設計/開発手法を学ぶことができるセッションを数多く用意。「Mobile First、Cloud First」を実現するマイクロソフトの方針などについても紹介する。

開発者向けイベント「de:code(デコード)」

エンジニアと一緒に成長するマイクロソフトに戻りたい

ジーンズというカジュアルな姿で登壇した日本マイクロソフトの樋口泰行社長

 初日の午前10時から行われた樋口社長の基調講演は、「開発者の力を無限大に」をテーマに、マイクロソフトの新たな技術動向を紹介するとともに、クラウドやデバイスの変化に伴い、設計思想、提案内容も進化させる必要があることなどを提示してみせた。

 ジーンズにシャツというカジュアルな姿で走りながら登壇した樋口社長は、「deはデベロッバーを意味し、それにcode(コード)という言葉を加え、デコードと掛け合わせた。東日本大震災以降、TechEdが中止となっていたが、それに変わるものになる」と位置づけた。

 また、「マイクロソフトは進化するといっている。その象徴がCEOの交代だ。CEOのサティア・ナデラは、技術者であり、技術の話にも深い知見がある。ナデラが打ち出しているのが、Mobile First、Cloud Firstであり、さらに、ユーセージとエンジニアを重視している。これまで、マイクロソフトには、Windowsの高いシェアがあったため、なにか新しいものをつけたら売れるという間違った意識があった」と過去を振り返る。

 その上で、「だが、売ったあとに使ってもらっているのか。ユーセージでは追いついていなかったのではないかという反省がある。社内では、『自分でサインアップできないような製品は出荷するな』という号令がかかっている。『マイクロソフトの製品は、より使いやすい』ということが、直感的に広がっていくような世界を作りたい。また、エンジニアと一緒に成長するマイクロソフトに戻りたい。マイクロソフトのプラットフォームの上で楽しく仕事をしてもらう」と語った。

 続けて、「9型未満のWindowsデバイス向けやIoT分野向けのWindowsは、無償で提供することを決定した。これは、目には目を、という捨て身の戦略。Windowsの担当者は、われわれの給料はどこから出るのかといっているが、そんなことは言っていられない。また、Office for iPadも、これまでのようにWindowsが一番であるという考え方ではなく、これだけiPadが広がっていたら、そこでOfficeを利用してもらおうという考え方に基づくものである。そのベースにある考え方は、クロスプラットフォーム対応、クロスデバイス対応ということになる」との考えを述べる。

 さらに、Windows AzureからMicrosoft Azureに名称変更したことにも言及。「これは、日本からリクエストをあげた。Windowsだけの限定したものではないということを示した」とした。

 そして、「これまでの資産を生かしながら、新たなデバイスやクラウドサービスにも対応するのがマイクロソフトの戦略であるが、このように、これまでの方向性を捨てた新たな考え方が、サティアのCEO就任以降の3カ月でここまで出ている。基本的な考え方は、モバイルファースト、クラウドファースト、クロスプラットフォーム、オープンソースということになる」と語った。

Windows Phoneを早く日本に持ってきたい

 樋口社長は、ここでマイクロソフトの新たな技術を紹介するとして、日本マイクロソフトのエバンジェリスト、西脇資哲氏を登壇させ、新たな技術を紹介してみせた。

 西脇氏は、自ら開発者としてデバイスを利用する際に、Windows 8.1 Updateにおいて搭載された便利な新機能を紹介。「開発者は、マウスとキーボードを利用することが多いが、Windows 8.1 Updateでは、これらを利用して開発できる環境が強化されている」と説明したほか、ユーザーエージェントを利用することで、古い資産もそのまま生かせることを示した。

 さらに「もう少し派手なデモンストレーションがほしい」という樋口社長のリクエストに応えて、Build 2014で公開された「コルタナ」をデモしてみせた。

 ここでは、英語での音声入力となったが、スマートフォンでスケジュールを確認したり、やりたいことをスマートフォンに話せば、それに対応してくれたりすることを示した。

 また、スマートフォンの新たな入力方法であるワードフリックを樋口社長が実演。同じ文字が繰り返される場合にもスムーズに、正確に入力できる様子を実演してみせた。

 そしてデモ終了後、「日本で発売していないWindows Phoneのデモを行ってどうするんだ、という声もあるが」と会場を沸かしたあと、「今日は、Windows Phoneに関して発表することはなにもない。ただし、早く日本に持ってきたい。それに向けてがんばっている。引き続きお待ちいただきたいということだけはお伝えしたい」と語った。

 ここでゲストとして、東芝 パーソナル&クライアントソリューション社営業統括責任者の長嶋忠浩氏、インテルの平野浩介常務執行役員が登壇。東芝の長嶋氏は、「クラウドやモバイルに対する要求が高まるなか、世界中の期待に応えられるデバイスを出していきたい。移動中でもどこでも利用したいとユーザーは考えている。そこに最も力を発揮するのがアプリケーション。これからは、アプリケーションの活躍に期待したい」とコメント。

 インテルの平野氏は、「日本はGDPでも世界3位。だが米本社の幹部は、日本を超えて中国に行ってしまうことが多い。日本はいい技術を持っているが、スピード感、グローバルを視野に入れた開発が遅い。日本には新たな技術が多いので、それを使ったアプリケーションを開発すればグローバルなビジネスにつながるだろう」とした。

東芝 パーソナル&クライアントソリューション社営業統括責任者の長嶋忠浩氏(右)、インテルの平野浩介常務執行役員(中央)

 これにあわせて西脇氏が紙袋を持って登壇。そこから東芝の8型Windowsタブレット「DynaBook Tab」を参加者全員に開発用ツールとしてプレゼントされることが発表され、会場からは拍手が湧いた。

 「ぜひみなさんには、これを使って、一人3つぐらいWindowsアプリを開発してほしい」と参加者に呼びかけた。

開発用の教材として「DynaBook Tab」を配布することが発表された

「Project Siena」によるアプリ開発などを実演

日本マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の伊藤かつら氏

 また、日本マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の伊藤かつら氏は、「Technical Keynote Developers build the Future」をテーマに講演。

 「マイクロソフトが目指しているのは、デジタルライフとデジタルワークの実現。だが、これらは別々のものではなく、コンシューマとエンタープライズのシナリオにまたがったものでなくてはならない。それは人が中心であるからだ。一方で、モバイルファースト、クラウドファーストというと、B2Cと感じる人も多いだろうが、すでにエンタープライズで活用されるものになっている。それを、『エンタープライズモバイル』、『Microsoft Azure上で、Visual Studioを活用したDevOpsの環境』、『IoT』、『エンタープライズで求められるセキュリティ、管理要件』という4つの観点から説明したい」とした。

 さらに、「2008年には世界人口の70億人を超える数のデバイスが利用されていた。これが、2020年には10兆個のデバイスが利用され、そこから、日々の生活や、あらゆる事象がデータとして吸い上げられ、デジタライズされる時代になる。世界中の90%が過去2年に生成されたものである。データ爆発が起こり、それを収集し、洞察することで、新たなデバイスやアプリケーション、サービスが生まれる。それを支えるのがクラウドということになる。こうした時代は、技術者がマジックを起こす時代だともいえる」とも述べている。

 伊藤執行役は、先ほど挙げた4つの観点については、実際にデモを交えて説明した。

 エンタープライズモバイルでは、日本マイクロソフト コンサルティングサービス統轄本部プリンシバルコンサルタントの赤間信幸氏が、「タブレット利用の1~2割が法人利用と想定されるが、保険業界などを除くと、効果的な活用方法がわからないという声がある。ダッシュボードとラウンチャーによる現場の業務生産性の改善、ユビキタス定型データ入力による業務効率の改善、カスタマエクスペリエンスの改善による体験価値の向上といった点からそれを解決できる」としながら、Windows 8対応タブレットアプリ開発ツールである「Project Siena」によるアプリ開発のデモを行った。

エンタープライズモバイル
業務でのタブレット活用ポイント

 またMicrosoft Azure上で、Visual Studioを活用したDevOps環境についてもデモ。伊藤執行役は、「マイクロソフトは、クラウドへ多くの投資をしており、現在世界に16のリージョンがある。日本にも2カ所のデータセンターを設置しており、ユーザーは、自社のデータセンターの延長として、マイクロソフトのデータセンターを活用できる。世界中でみれば、5秒に1社新たな利用が開始されるという状況である」などと説明した。

Microsoft Azureでは、現在16のリージョンでサービスを提供している
AzureとDevOps

 さらに、IoTでは、おもちゃのトラックにセンサーをつけて、それによるデータを測定しているデモを実施。これを、タブレットから遠隔操作できること、ヘルスケア機器とblueToothでつなげることで健康情報が測定できること、家庭内に設置したドアセンサーなどを利用して、見守りサービスができる様子を紹介した。

 伊藤執行役は、「マイクロソフトでは、IoT(Internet of Things)ではなく、IoTをより身近なものと考えており、IoYT(Internet of Your Things)と呼ぶことにしている」とした。

 エンタープライズで求められるセキュリティ、管理要件としては、オンプレミスとクラウド環境で利用できるハイブリッドな認証基盤を提供していることを紹介。「今後10年を考えると非常に重要な仕組みである」とする。

 「日本マイクロソフトは、開発者を支援するプログラムを用意している。特に、この半年ほど力を入れているのがMicrosoft Virtual Academy。30秒で終了するものから、10時間までのコンテンツを、日本語で用意している。新たなスキルを得ていただき、新たな活躍の場を提供したい」(伊藤執行役)。

マイクロソフトでは、IoTをIoYT(Internet of Your Things)と呼んでいるという
求められるエンタープライズモビリティ

 ここで、日本最大級のクラウドソーシング企業であるクラウドワークスの吉田浩一郎社長が登壇。「クラウドワークスには、16万人のエンジニアやデザイナーが待機しており、最短15分間で技術者のリソースを活用できるようになる。すでに、経済産業省や国土交通省、ソニーやベネッセなど3万社が利用しており、2016年には1400億円の市場となり、2023年には1兆円の市場になると予測している。日本マイクロソフトとの協業により、エンジニアバッヂテストを共同で開催し、エンジニアのスキルを可視化し、個人のエンジニアがよりよい仕事ができるような環境を提供していく」とした。

クラウドワークスの吉田浩一郎社長
クラウドワークスでは、仕事を依頼したい人と受けたい人をオンラインでマッチングしている

Windows Phoneを参加者に配布するサプライズ

サプライズとしてWindows Phoneを配布すると発表

 基調講演の最後には、大きなサプライズが発表された。

 伊藤執行役は、「世界中からWindows Phoneをかき集めた。開発用の機器として、Windows Phoneを提供する」として、Nokia Lumia 1520、Lumia 1320、Lumia 920、Lumia 820の4機種のいずれかが参加者全員に配布されることになった。

 日本では発売されていない製品であり、利用するにはさまざまな制限があるが、開発用として利用できるようにしているという。

 日本マイクロソフト デペロッパー&プラットフォーム統括本部 エバンジェリストの高橋忍氏は、「Windows Phoneについては、今回のde:codeをきっかけとして、技術情報を提供していきたい。Windows Phone 8.1では、Windows 8.1とAPIがほぼ一緒になり、Windows 8のソースコードをほとんどいじらずにWindows Phone 8.1でもアプリが利用できる。日本で投入された時点でも、すぐにWindows Phoneへの対応が図れる」などと語った。

開発用の教材として配布されたNokiaのスマートフォンと東芝のタブレット
Nokiaを利用するにはさまざまな制約事項がある
教材が入った紙袋を用意するスタッフ
並んだ紙袋。このなかにスマートフォンとタブレットが入っている
午後1時からの配布には多くの人が並んだ

大河原 克行