弥生、Windows Azureベースの小規模企業向け業務サービス「弥生SaaS」を提供へ

弥生とマイクロソフトが協業、小規模企業のIT化を推進

弥生 代表取締役社長の岡本浩一郎氏(左)と、マイクロソフト 代表執行役社長の樋口泰行氏(右)
企業規模が小さければ小さいほど、自計化の割合は低くなる

 弥生株式会社とマイクロソフト株式会社は3月26日、ITの導入による小規模法人・個人事業主(以下、小規模企業)の業務効率化の促進について、共同で取り組むと発表した。弥生は、マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Windows Azure」を開発基盤として採用した「弥生SaaS(仮称)」を今後展開。また、両社の製品をパッケージ化した販売促進活動や、セミナーの共催などを行っていくとしている。

 2009年の中小企業白書によれば、国内の企業約420万社のうち、従業員が300名以下の中小企業が99.7%を占める。さらにその中で、従業員が20名以下の小規模企業は、全体の約87%にあたる366万社と、非常に多くの企業数がこの領域に存在している。

 弥生製品のユーザーについても、87%は10名未満の規模で、約90%は20名未満の小規模企業が占めているという。しかし、「20名未満の企業の4割は、まだ手書きで処理をしており、市販のPC用業務ソフトを利用しているのは25%にすぎない。販売管理でも給与計算でも状況は同じで、小さな会社ほど手書きでの処理が多い」(弥生 代表取締役社長の岡本浩一郎氏)のが現状で、業務ソフトは、まだまだ普及しているとはいえない状況になるのだという。

 今回の協業では、こうした状況に置かれている小規模企業のIT化を推進することが目的になっているが、この“自計化”推進という方針は何も新しいものではなく、もう10数年、弥生がずっと進めてきた施策でもある。この施策を、あらためてマイクロソフトと推進することにした理由について、岡本社長は、「当社は、業務インフラとして圧倒的な支持をいただいているが、ITインフラではまだまだ至らない部分がある。そこで、ITプラットフォームのトップベンダーとして強いブランドを持っているマイクロソフトと手を組むことにした。これによって、洗練された業務ソフトを使えば、より業務を効率化する機会があるということを、強く伝えていけるようになる」と述べ、両社の協業推進によって、より広くアピールができるだろうとした。


協業領域は「啓発」や「販売促進」など4つ


協業の枠組み
両社のパートナーとの連携による販売促進

 具体的な協業領域は4つ。1つ目は小規模企業への「啓発活動」で、「なぜ必要なんだ、ITを使ったらどうなるんだ、ということを理解してもらうため、物理的にお客さまと接するセミナーや、弥生が持っているメディアを使った情報発信を行う」(岡本社長)とした。この取り組みでは、いかに多くの人にアプローチするかが重要な要素となる。弥生では、そこで一工夫考えており、先日発売した個人事業主向けの青色申告解説書では、「ソフトの機能がどうだ、というところ以前に、青色申告って何、というITの一歩手前から行っている」とのこと。こうした、「一歩手前の部分からアプローチ」を含めた活動により、できるだけ多くの人に対して啓発活動を行っていきたい考えを示した。

 もちろんマイクロソフトのリソースも活用を進める予定で、中小企業向けポータルサイト「スマートビジネスセンター」、中小企業向けニュースレター「スマートビジネス通信」を通じた活用シナリオの紹介、「マイクロソフトIT化支援センター」を活用した支援活動、起業家向け「BizSpark」、Web開発会社向け「WebsiteSpark」といったマイクロソフトのIT化優遇策を、きちんと説明してパートナー、ユーザーへ届けていくとのこと。

 2つ目の「販売促進」では、PCメーカーと組んだ特別パッケージの販売やセミナーの開催、家電量販店と協力したセミナーの開催、といった活動をこれまでも行ってきた。今回の協業では、こうした取り組みにマイクロソフトを加わり、3者共同での特別パッケージ提供やセミナー開催などを行っていくという。また、両社の既存パートナー企業とも協業し、そのリソースを活用した販売促進も進める。

 岡本社長は、PCメーカーとの取り組みについて、「例えば、現在はPCメーカーと特別パッケージを作り、そのWebサイトで販売を行っている。今後は、3者で特別パックを用意した上でセミナーを開催し、お客さまに理解した上で購入いただけるようにしたい」とコメント。また家電量販店との取り組みについては、「家電量販店は全国津々浦々にあり、少ない人数ではあっても、きちっとメッセージを伝えていく。地道な活動ではあるが、ともにやっていこうと、当社とマイクロソフトが誓い合ったということだ」と話した。

 3つ目は「最新プラットフォームへの対応」で、最新クライアントOSのWindows 7は、現行製品の「弥生 10シリーズ」で対応済みなほか、ネットワーク版は、Windows Server 2008 R2やSQL Server 2008にも対応を済ませている。また、間もなく発売されるOffice 2010への対応を早期に済ませるとしており、今後も最新技術に追随していくことをあらためて表明した。


Windows Azureベースの「弥生SaaS」で新たな市場の開拓を図る


SaaSで新たな市場獲得を目指す
弥生のロードマップ

 4つ目は、「新たな市場の開拓」。弥生では、そのために「弥生SaaS」を提供する予定で、初期投資がいらず、手軽に利用できるSaaS型サービスとして展開し、「『パッケージを買ってまでやるのはどうか』とためらっているカジュアルユーザー層を狙う」(岡本社長)という。岡本社長によれば、弥生SaaSは「会計」「給与計算」といった特定の業務に特化したものではなく、企業の業務全体の流れにそって機能を提供する、これまでとまったく違ったアプリケーションになるとのこと。当初は既存のパッケージ製品とはすみ分けられるイメージだが、クラウドコンピューティングの浸透に伴って両者が進化していけば、「最終的にはパッケージとSaaSの境界線がなくなるだろう。両者が近づいてくれば、ユーザー層も融合されるかもしれない」とした。

 なお、弥生SaaSはプラットフォームとしてWindows Azureを採用することを表明したが、岡本社長は、その理由について「当社では、これまでずっとマイクロソフトのプラットフォーム上で開発をしており、.NETへの対応を急速に進めてきたところ。共通のエンジニアが、クラウドでもデスクトップアプリケーションでも作れるメリットがあり、親和性から見て、当然選ぶべきプラットフォームだ。これで、Windows Azureを使わない方が不思議」と話す。

 一方、マイクロソフト 代表執行役社長の樋口泰行氏は、「パッケージを中心に展開してきた弥生が、クラウド時代に対応し、それによって、(これまで獲得できていなかった)ホワイトスペースへリーチしていこうという戦略の中で、Windows Azureをお選びいただいたことを光栄に思っているし、身の引き締まる思いだ」とコメント。

 加えて、「オンプレミスとクラウドがシームレスに連携できるということが非常に大事な点で、全部クラウド、全部オンプレミス、というのではなく、必要に応じてダイナミックに連携していけるのがマイクロソフトの強みだ。その当社の、テクノロジーのロードマップ、アーキテクチャ、ソフトウェア+サービスという考え方と、弥生の製品戦略がマッチして進むことになる。当社としても全面的に支援させていただき、ともに成功に導きたいと思っている」と、自社のアプローチの強みを説明しながら、支援を表明した。

 弥生SaaSの商用サービス開始予定は2011年半ばとのことで、その前に、2010年半ばより、一部のユーザーを対象にクローズドベータサービスが開始される予定。




(石井 一志)

2010/3/26 17:04