総務省 久保田氏基調講演「ICTによる成長戦略」~ICT振興、政府の取り組み


総務省 大臣官房総括審議官(国際担当) 久保田誠之氏

 「CEATEC JAPAN 2010」の10月7日の基調講演では、総務省の久保田誠之氏が登壇。「ICTによる成長戦略」と題して、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)振興に向けた政府の取り組みを説明した。

 久保田氏は冒頭、宮本武蔵の「五輪書」が立ち位置・間合い・タイミングについて論じているのを引き合いに出して「日本のICTの立ち位置や、海外に出ていくタイミングについて考えたい」と話し始めた。

3つの重点戦略~電子行政、地域の絆の再生、新市場の創出と国際展開

 久保田氏はまず、日本の大きな問題として少子高齢化を上げ、マーケットが萎む一方で生産年齢人口が減っていく危機感を提示。そのような中、ICT産業が全産業の1割(96.5兆円)という大きな割合となり、日本経済を牽引していると説明した。

 ただし、日本では世界的に見てもブロードバンドインフラが整備されている一方、利活用が遅れていることも指摘。国ごとの調査で、基盤で1位だが普及で13位、利活用で16位、というデータを紹介した。

 そのうえで、2010年6月に閣議決定された「新成長戦略」と、その中の「21世紀の日本の復活に向けた21の国家戦略プロジェクト」を紹介。「情報通信技術の利活用の促進」とする中で、自治体クラウドや電子行政などを挙げていることなどを語った。

 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部と、そこで2010年5月に決定した「新たな情報通信技術戦略」についても説明した。3つの重点戦略として、電子行政、地域の絆の再生、新市場の創出と国際展開が掲げられている。

 具体的な活動としては、ICTの利活用を阻む既存の制度の洗い出しがなされていると紹介。2010年7~8月にパブリックコメントを実施し、9月に公表した内容から、医療関係やコンテナ型のデータセンター、テレワークなどの分野が多く指摘されたことを報告した。

ICT関連予算を増やし毎年3%経済成長する試算

 久保田氏は続いて、2010年5月に公表された「ICT維新ビジョン2.0」を説明した。柱は、「2015年をめどに光の道100%を実現」「今後10年間の年平均潜在成長率約2.6%を実現」「2020年にCO2排出量を10%(1990年比)以上削減」の3つ。

 特に成長率を支えるために、ICT関連投資を毎年9%程度(1.75兆円)程度ずつ増加。毎年3%の持続的経済成長をさせるというビジョンだ。試算によると、日本全体の名目GDPを約480兆円(2010年予測)から約650兆円(2020年予測)に引き上げる中、30兆円超がICT活用による増加で、70兆円超の新規市場創出となるという。

 また、CO2については、2020年には12.3%を削減(1990年比)、2.4%の増分と差し引きで約10%(1億2500万t)を削減する試算が説明された。

 これをふまえて、ICT維新ビジョン2.0により、2011年度予算のICT関係の概算請求を合計1458.3億円(12.6%増)としたことなどが語られた。

基礎研究を国として支援

 久保田氏はさらに、ICTにおける国の重要な役割として、研究開発について語った。米国では省庁横断プログラム(NIFTD)、欧州ではフレームワーク計画(FP)など、各国とも研究開発の予算を増やしているという。

 久保田氏は、民間は基礎研究より開発研究を重視しがちなこと、特に景気の影響で民間が研究開発投資を縮小傾向にあることを取り上げ、「10年後の日本への危機感」を語った。そして、基礎的・基盤的研究に継続的に取り組むためには、国の這たす役割がより重要になると述べた。そして、2011年度概算要求において、研究開発予算の要求額を716億円(前年度比14.9%増)としたことを説明した。

 具体的な支援内容としては、長期的な取り組みとしては9月に報道された新世代ネットワークを紹介。短期的な取り組みとしてはCEATECでも展示されて人気となっている東芝の“眼鏡なし3Dテレビ”(総務省より受託)を紹介した。

 また、伝送だけでなくすべてを光のまま処理する“フォトニックネットワーク”や、超高速エッジノード技術(100Gbps級の伝送)、仮想ネットワーク技術やフォトニックネットワークなどを取り込んだ“新世代通信網テストベッド”(JGN-X)などについても説明した。同種の取り組みとしては、米国のGENIやEUのNetwork of the Futureなどがあると紹介。これらと競争しつつ、特にEUと連携を進めていることを語った。

 ネットワーク以外では、脳の仕組みを活かしたネットワーク制御(BFI)や脳波による機器コントロール(BMI)なども紹介。また、日本方式(ISDB-T)の地デジ技術が南米のほとんどで採用されていることと、それを元にITS(高度道路情報システム)やLTE(3.9Gモバイル)などの国際展開を支援する考えなども説明された。

 最後に、インドとの関係強化について語られた。2010年1月には、日印間で電気通信政策の協力強化に関する合意文書に署名されている。この中で、人材の交流や共同研究などを含む検討事項などが紹介された。

関連情報
(高橋 正和)
2010/10/8 06:00