【Tech・Ed Japan 2010基調講演】“現実のクラウド”をアピールするマイクロソフト

多数のクラウド活用事例を紹介


 マイクロソフト株式会社は25日から、開発者向けのイベント「Microsoft Tech・Ed Japan 2010」を開催。執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏が、「現実解としてのクラウドを支える最新テクノロジー」と題して、マイクロソフトの次世代プラットフォーム戦略の柱となる、クラウドコンピューティング関連の最新サービスやテクノロジーを紹介する基調講演を行った。

“現実となったクラウド”の実事例を紹介

マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏

 生バンドの演奏をバックに登場した大場執行役は、「2006年、レイ・オジーのメモからスタートした構想が、2008年のPDCで『Windows Azure』として発表され、今年開催した『Tech Days』ではサービスの開始を発表させていただいた。それから5カ月を経た今回は、現実となったクラウドをご紹介させていただく」と講演のコンセプトを紹介した。

 まず、事例としてSilverlightを使った甲子園の試合のリアルタイムストリーミング、米国のビデオレンタルショップNETFLIXで利用しているビジュアル検索、東芝のLibrettoを使ったクラウドの電子書籍プラットフォームを紹介。「皆さんの身近なところに、マイクロソフトのテクノロジー、クラウドが利用されている」と、Windows Azureが利用されていることを訴えた。

 さらに、株式会社バンテックがBPOSとAzure活用によってセキュアなコミュニケーション環境を構築した事例、株式会社パソナがプロジェクト案件の予実管理システムとしてAzureを導入した事例をビデオで紹介した。

 大場執行役は、「ビジネス現場でのBPOSの利用が増大し、日本でも25万ユーザーを超えた。最近では数万人規模の利用やノーツからの移行、モバイルとの接続性の高さを評価しての導入と、導入理由が変化しつつある」と話した。


クラウド関連の発表を行った過去のイベントから今回のイベントまでの流れSilverlightを利用したリアルタイムストリーミングの事例である甲子園中継
東芝のLibrettoを利用したクラウド活用の電子書籍クラウドを活用した電子出版プラットフォーム

介護・医療現場や金融システムでもクラウドの活用進む

 さらに、介護や医療の現場で利用できるシステムを開発しているブルーオーシャンシステムの岡本健治代表取締役が壇上に登場し、「介護の現場では、記録をとることが義務づけられており、その際、手書きによる記録記入の手間を軽減する目的でIT化を実現した。使いやすさを考えて、すべてキーボードで入力するのではなく、タッチスクリーンなどキーを押すだけで入力できる個所を増やし、年配のスタッフにも利用できるシステムとした。また、これまでインターネットでは当たり前だった、住所をもとにした地図表示などを業務システムで取り入れることで利便性があがった」とクラウドベースならではの、業務システムのメリットをデモで紹介した。


ブルーオーシャンシステムが開発した、クラウドを活用して介護や医療などの現場を支援するシステムブルーオーシャンシステム 代表取締役の岡本健治氏

 続けて、金融システムなどの構築を行っている、日本電子計算株式会社の営業統括本部金融営業部部長 谷藤一氏が登場。優良事業会社が短期資金を調達するための「コマーシャルペーパー(CP)」発行において、企業と金融機関の取引でクラウドを利活用するサービス「CP Communicator」を披露した。

 このシステムについて自らも金融関係のSEの経験がある大場執行役が、「一昔前であれば、金融機関のお客さまがパブリッククラウドを利用するのはあり得ない選択だったのでは?」と質問。それに対し、谷藤部長は、「それに対する一つの答えがハイブリッド。パブリッククラウドだけでなく、プライベートクラウドなど選択が可能な点が評価された」と金融ユーザーの声を生かして構築したサービスであると説明した。


クラウドを利用した日本電子計算の新サービス「CP Communicator」CP Communicatorのシステム概要

 大場執行役は、「日本ではAzure上で開発されているアプリケーションの数が5000を越え、米国に次ぐ数となった。お客さまのニーズは多様化しており、当社1社ではそのすべてに対応できない。今後のAzure普及にはパートナークラウドが重要な鍵となる」とパートナー発のクラウド重要性を強調した。

Azureの普及度合い多様化するクラウドの実装方法パートナークラウドの重要性

 実際にクラウドサービスを提供するNTTコミュニケーションズ株式会社 ITマネジメントサービス事業部 サーバマネジメントサービス部 基盤サービス部門 担当部長の栗原秀樹氏が登壇し、同社が提供するクラウドサービスを紹介した。

 栗原氏は、「マイクロソフトに対しては、通信事業者が接続サービスに新たな付加価値を生み出すことができるテクノロジーの提供を期待する」と通信事業者のビジネスにとってプラスとなるクラウド技術の提供を要望した。

 パートナーに対しては、米国で7月にWorldwide Partner Conference 2010が開催され、早期共同開発パートナーとして、日本の富士通をはじめ4社が発表されている。

今後登場予定のテクノロジーロードマップ

 その後、今後登場予定の新しいテクノロジーロードマップが発表された。

 2011年以降に登場するものの一つ、コードネーム「Dallas」はデータ配信サービス。現在はテクニカルβ段階だが、NASA、国連、米国政府などが試験サービスを利用し、NASAが提供するデータを寄せ集めると火星の3D画像の生成も可能となる。日本企業もこの試験サービスで企業情報を提供しており、富士ソフトの「みんなの会社情報」の企業情報として利用できる。

 また、大規模並列処理にAzureを利用するための研究も進行中。マイクロソフト社内のHPC開発部門と連動し、クラウドで動かす研究が行われており、「早ければ10月のPDCの中でお披露目できる可能性もある」と大場執行役が明らかにした。

マイクロソフトのクラウドテクノロジーロードマップコードネーム「Dallas」はデータ配信ビジネスを変革するテクノロジーに
現在試験公開中のNASAのデータを寄り集めると、火星の三次元画像が生成できる
Windows Azureの大規模並列処理実現による株価シミュレーションモデル
Internet Explorer 9の概要

 米国時間9月15日(日本時間9月16日)にベータ版が公開予定のInternet Explorer 9の一部も紹介され、「新しいJavaScriptエンジン『Chakra』が内蔵され、GPU Powered HTML5に対応するなど、革新的なものとなっている」と紹介された。

 また、日本語化については未発表のWindows Phone7に対応した開発ツールも紹介された。「Visual Studio LightSwitch」はテンプレートベースの開発ツール。デベロッパーはテンプレート感覚で開発が進められると同時に、テンプレート開発を新たなビジネスにできる可能性があるという。

 大場執行役は、「クラウド時代に向けIT技術者支援をこれまで以上に充実させていく。コミュニティ支援、技術情報の強化、スキルアップ支援を積極的に行う」と明言した。

Windows Phone 7とクラウド連携により新たなサービスを提供予定テンプレート型開発ツール「Visual Studio LightSwitch」
Windows Phone 7の実機を使いデベロッパーツールを使って、ツイッタークライアント作成と動作をデモ
クラウド時代のIT技術者の重要性クラウド時代の技術者コミュニティ支援

 10月に開催するPDCはワールドワイドで1000人と参加者が限られるため、「日本の開発者の皆さんに向け、ストリーミングでの情報配信を計画している。ぜひ、その際にオフ会などを開き、アルコールでも飲みながら新しい技術を見てもらいたい」と訴えた。

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(三浦 優子)
2010/8/26 06:00