【テクノロジービジネスフォーラム2010】総務省・谷脇課長が語る、クラウド推進のための政府の課題とは?
8月5日、クラウドソリューションのキープレイヤー企業が登場するイベント「テクノロジービジネスフォーラム2010」が開催され、その基調講演には、総務省情報通信政策課長の谷脇康彦氏が登壇。「スマートクラウド戦略」と題して、総務省のスマート・クラウド研究会の研究成果を報告するとともに、ICT推進における政府の課題を述べた。
■「インフラは整備されたが活用が遅れている」
総務省 情報通信政策課長 谷脇康彦氏 |
谷脇氏はまず、日本のブロードバンドの整備状況を紹介した。ほぼどこでもブロードバンドが使えるようになり、特に光回線が普及。国際的にもトップクラスの回線インフラだという。
しかしICT競争力ランキングでは世界で20位前後という数字を紹介。総合評価での上位に北欧各国が多いことを上げ、これらの国で教育・行政・医療でのICTの浸透度が高いことを紹介しながら、「日本のICTは、高速道路はあるが車がガラガラの状態」と表現した。
そして、整備されたインフラの上で、クラウドをトリガーにICTの活用をすすめるのが政策課題であるというテーマを示した。
ICT国際競争力ランキング。日本は20位前後 |
■「電子政府の利点はワンストップガバメント」
研究会の名前にもなっている「スマート・クラウド」について、従来のクラウドにおきかえるだけではなく、クラウドを活用する産業の枠を超えて知識を共有するものとして定義した。
まず自分たちの行政から。いま提唱されている電子行政クラウド(通称:霞が関クラウド)によって、4000億円かかっているシステム経費が、半分まで削減されるといわれている。韓国では、電子行政によって67%のコスト削減がなされているという。
それだけではなく、省庁間で情報を共有するワンストップ行政やオープンガバメントによる効率化が電子行政によってもたらされると語った。例えば、企業などが行政に対して手続きする場合、同じような書類をそれぞれの管轄ごとに提出する必要があったりするのが、電子政府によって横に連携することで、書類が7割削減できるという。
そのような電子政府を実現するための課題として、国民ID制度の整備、国民・企業等のメリットの見える化、クラウドサービスの徹底活用、行政における業務改革・規制改革の徹底、国と地方が一体となった推進の5つを上げ、中でも「国民ID制度の整備」を早期に実現する必要があると語った。
電子政府のほかにも、医療クラウド(レセプト電子化、電子カルテ)や、スマートグリッド、交通網、橋や高速道路の老朽化をセンサーで検出して集約するなど、効率化と付加価値化の活用例が紹介された。
ワンストップ行政サービス | クラウドサービスの普及を図るべき分野 |
■「グローバル展開のための法整備が課題」
スマートクラウド研究会が国内500社にアンケートをとった結果を紹介。大企業の36%がクラウドを利用していたり利用意向を示していたりするのに対し、中小企業は18.2%と約半分という数字を引用して、クラウドのメリットがまだ明確になっていないのではないかと語った。
実際にクラウドに不安視されている点としては、コストメリットやセキュリティ、サービス継続性などが上がっている。米国で同じ調査をしたところ、情報系での利用率はあまり違いがないものの、基幹系では日本の2倍の利用があるということで、契約約款の整備や、デメリットもきちんとわかってもらうためのガイドラインの必要性などを述べた。
政府で支援すべきこととしては、法整備の面が語られた。例えば、EUではデータ保護指令により、個人情報をEU外に出してはいけないと規制されている。ただし、米国ではEUと同レベルの保護を約束するセーフハーバー原則によって許可されている。
谷脇氏は、クラウドによってデータがグローバルに分散していく中で、日本でもセーフハーバー原則のような取り組みが必要ではないか、という問題を提起した。
このほか、外為法でデータが規制となる可能性や、企業コンプライアンスと海外保存との問題の整備、DC特区のような税制措置、日本の企業が海外クラウドに預けたデータが漏えいした場合などの国際コンセンサス作り、などを政府の課題とした。
また、クラウド技術の標準化についても言及した。クラウド分野は技術革新が続いているため、過度の標準化は技術革新を阻害する可能性がある。ただし、SLAなどは標準化していく必要があるのではないかと語った。
これらを受けて、ICT戦略本部において「新たな情報技術戦略技術戦略」を決定。「電子行政」「地域のきずなの再生」「新市場の創出と国際展開」の3つを推進していく。特に電子行政を重視し、近々タスクフォースが始動するという。
企業のクラウド利用状況 | 企業のクラウド利用についての理由や不安 |
■「ICTの活用を阻む規制を見直す」
最後に、ICT利活用促進一括化法(仮称)を検討していることが語られた。これは、いまの法規制がICTの活用を阻んでいる部分を、省庁を超えて見直すものだ。
例えば、Googleなどで注目されているコンテナ型のデータセンターを国内に置こうとすると、建築法に抵触する懸念があるという。また、遠隔医療は医師法が、政府の持つ統計情報を公開するには統計法が壁となる。これらの規制の見直しを提案して新たに整備していくよう提案していく、と語った。