【uVALUEコンベンション】「社会でクラウドが使われる領域は増えていく」
日立のクラウド戦略


日立製作所情報・通信システム社 プラットフォームソリューション事業部ハーモニアスクラウド推進本部の高橋明男本部長

 株式会社日立製作所(以下、日立)が開催している「日立uVALUEコンベンション2010」において、日立製作所情報・通信システム社 プラットフォームソリューション事業部ハーモニアスクラウド推進本部の高橋明男本部長が、「日立クラウドソリューション Harmonious Cloud ~日立のクラウド戦略~」をテーマに、同社のクラウド戦略について説明した。

 同社のクラウドソリューション「Harmonious Cloud」は、2009年6月に発表したもの。情報共有基盤サービスやプライベートクラウドソリューションのほか、ネットワークバンキング共同センターサービスの「FINEMAX」、SaaS型ビジスネアプリケーションの「TWX-21」、REACH規制対応システムの「ChemicalMate(ケミカルメイト)」などのソリューションを活用して、金融、産業、流通、公共・社会などの領域において、すでに多くのクラウド導入の実績を持つ。

日立のクラウドの関する取り組みHarmounius Cloudの実績

日立が目指すクラウド

 高橋本部長はまず「クラウドという言葉は2006年8月にGoogleのエリック・シュミット氏が発言したのが最初。その後、IBMがブルー・クラウドと表現しはじめたことで、ミッションクリティカル領域まで影響をもたらすと考えた。雲の向こうには青い空があるというのがブルー・クラウドだが、私は、レッド・クラウドと表現し、伸びるアジア市場において、雲の向こうにはサンライズの赤い空があるとした」などと語った。

 また日立が目指すクラウドの定義として、「社会インフラシステムの要求水準に対応できる高信頼クラウドサービス」として、具体的な要素として次の3点をあげた。

 「1つは、インフラの豊富な経験をベースとしたより安心・安全なクラウド。2つ目にはビジネスの要望にスピーディーに対応す柔軟なクラウド。そして3つ目がお客様と新たなビジネス展開を協創する価値あるクラウド。いま活況を呈しているクラウド・コンピューティングは、信頼要求度が低い、ノンコア業務において利用されることが一般的だったが、今後は、ミッションクリティカルシステムと同等の信頼性を実現するものが求められる。日立はこの事業領域に取り組んでいく」。

 高橋本部長は、米国におけるクラウド利用率が60%に達しているのに対して、日本では15%に留まっていることを指摘。クラウド・コンピューティングの導入に際して、日本の経営者や情報システム部門には、期待と不安が入り交じっていることが、その背景にあると語る。

システムの特性に応じて適材適所の適用が重要

 「新たなビジネスをスピーディーに立ち上げたい、ITの効率化によって資産の運用コストを減らしたいという観点で、クラウドを活用する動きがある一方で、クラウドに対しては、企業コンプライアンスは大丈夫か、データセキュリティは大丈夫かといった不安がある。すべてをクラウドで解決できるわけではなく、システムの特性に応じた適材適所のクラウド化が重要であり、クラウドの良さを生かしながら、信頼性を加えて提供することが必要となる。ここに日立のHarmonious Cloudの特徴が発揮できる」とする。

 適材適所でのクラウド導入としては、グループウェア、メール、会議室、掲示板といった情報共有サービスや、文書管理といったノンコア領域においては、パブリッククラウドが適しているとしたほか、情報分析や顧客管理、人事管理など非定型業務で、社外にデータをおけない業務はプライベートクラウドがベターであるとした。そして、勘定系などの基幹システムは既存システムとして運用することが適していると位置づけた。

 一方で、Harmonious Cloudの特徴とは、日立グループが持つ豊富なクラウドメニュー、業務・テナント間の高いセキュリティの確保、迅速なクラウド導入と稼働の開始、既存の企業システムとの統合の4点だと位置づける。

 「地味な要素に聞こえるが、いままでのシステムとの整合性はどうするのかといった点は、4つのなかでも重要なポイントになる。企業はビジネス環境の変化にあわせてパブリッククラウド、プライベートクラウド、既存システムを選択し、組み合わせる時代に入っている。それぞれのクラウドが持つ一長一短の良いところを生かし、最適な組み合わせを実現し、シームレスに活用できるハイブリッドクラウドを提案することがこれからは求められる」とした。

 プライベートクラウドにおいては、クラウド設計、構築力の強化を進めるとし、その具体的施策に「プライベートクラウドコンサティングサービス」をあげた。同サービスでは、現状を把握し、試算ツールやシミュレーションツールなどにより、サーバーの集約構成の立案や、様々なパターンでのクラウド構成の効果を試算。最短12営業日でプライベートクラウドの構成案を報告するという。

 「事前評価をし、検証済みのシステム構成や運用シナリオなどによって構成される標準アーテキチクャーモデルを15モデル用意しており、さらに現状分析から計画策定、基本設計、運用設計、環境構築、移行テスト、稼働管理までの標準プロセス・ツールを活用することで、迅速、確実にプライベートクラウド環境を構築できる」とした。

 また、長年の実績を誇る運用管理ソフトのJP1や、サーバーのBladeSymphonyなど、クラウド構築に必要なハードおよびソフトをパッケージ化した「Harmonious Cloud Packaged Platform」を利用することで、短期間での導入が可能になることも示した。

プライベートクラウドコンサティングサービスの概要標準アーテキチクャーモデルと標準プロセス・ツールによるプライベートクラウド環境の構築

 一方、パブリッククラウドでは、PaaSおよびSaaS基盤の強化に取り組むとし、PaaSではチーム開発に必要なサーバー環境を月額サービスで提供する仕組みを用意。「1カ月の人員に応じたフィー型のサービスとすることで開発コストを適正化でき、堅牢性の高い環境で、早く、安く開発ができるようになる」としたほか、「この基盤を利用して、BCP(ビジネス・コンティニュー・プラン)の観点から堅牢性が高いデータセンターでバックアップするといった活用が、金融・証券業界で活用されている」という。また、SaaS基盤としては、システム構築と運用を通じて蓄積した豊富な業務ノウハウを、SaaSによるITサービスとして提供。約70のサービスメニューを用意し、業種共通分野、特定業種分野の両面から対応できるという。「2010年度中には、これを100メニュー以上に拡大する計画」とした。

PaaS基盤の強化。チーム開発に必要なサーバー環境を月額サービスで提供SaaS基盤の強化。2010年度中に100メニュー以上に拡大予定

 さらに、「日立が得意とする領域」に位置づけるハイブリッドクラウドにおいては、パブリッククラウドとプライベートクラウドがうまく連携する基盤が必要としながら、次のように切り出す。

 「現在の第1世代の活用方法が、単体でのクラウド利用だとすれば、第2世代のクラウド活用は、プラトベートクラウドとハイブリッドクラウドの連携が本格化し、システムの柔軟性が向上するようになる。そして、将来訪れる第3世代では、クラウドがより専用化し、プライベートクラウドを通じて、数々のパブリッククラウドを利用するようなハイブリッド化が求められるようになるだろう。クラウド間連携により、企業情報システムのさらなる柔軟性の向上が実現される。Harmonious Cloud Frameworkにより、複数のクラウドの相互接続と課金や認証などの統合管理が可能になり、ハイブリッドクラウドを牽引することができる」。

日立が考えるクラウドの進化複数のクラウドの相互接続、課金、認証などを実現するHarmonious Cloud Framework

 また、クラウド・コンピューティング環境では、日立が提供するSOA基盤である「Cosminexus」、統合システム運用管理ソフトの「JP1」、ネットワークシステムの「CommuniMax AXシリーズ」、サーバーの「BladeSymphony」、ストレージの「Hitachi Universal Storage Platform V」などの日立ならではの各種製品を活用できることに加え、サーバー仮想化機構であるVirtageや、高信頼性ネットワーク技術であるMPLS-TPの活用などにより、効率化や運用コストの引き下げができるという。

 最新のデータセンターである「横浜第3センタ」では、省電力ソリューション、自然エネルギーの有効活用といったグリーンITに配慮した施設になっていることも紹介。最新のIT機器とJP1を活用した設備環境の統合監視などにより、2012年度までに2007年度比で最大50%のデータセンターにおける消費電力の削減を目指すという。

 また、同社では、モジュール型のデータセンターを開発。IT機器と冷却機器の最適配置により、消費電力を約7割削減することにも成功しているという。

 最後に高橋本部長は、「ITシステムのすべてがクラウド化されるわけではないが、技術革新や技術進化により、社会でクラウドが使われる領域は増えてくる。社会インフラに必要とされるものとして、より信頼性の高いものにしていかなてくはならない。それがスマートな次世代都市の実現にもつながる。日立は、安全・安心、スピード・柔軟、協創という点からHarmonious Cloudを提供し、確かにな技術で次の100年につなげる」とした。

クラウドを支える日立のITプラットフォーム製品日立のクラウドで社会イノベーションを加速させる
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