【uVALUEコンベンション基調講演】「次の100年も、グローバルで社会イノベーションに貢献」
日立・中西宏明社長


 株式会社日立製作所(日立)は、22日から東京・有楽町の東京国際フォーラムでプライベート「日立uVALUEコンベンション2010」を開催。初日の午前10時から、日立の中西宏明社長が、「日立グループが挑む社会イノベーション」をテーマに基調講演を行った。

 

5つの価値で日本の成長に貢献してきた

中西宏明社長

 日立グループが、グローバルに社会やビジネスのイノベーションを加速させてきた取り組みを紹介。「社会イノベーションが起きたとき、そこには必ず日立の取り組みがあった。モノづくりによって、時代を支えるイノベーション、日本の成長に貢献してきた」と、100年間にわたる日立の取り組みを総括した。

 中西社長は、大きく5つの価値においての貢献があるとし、「速く」という観点では、1898年には東京-大阪間の鉄道での移動に15時間35分かかったのに対して、現在は2時間30分であること、「大量に」では、明治2年の電報では1分間に5文字しか送信できなかったものが、いまでは1分間に数十億文字が伝送可能であることを示しながら、「速く、小さく、遠くに、安全に、大量にといった価値を高めた一方、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、通勤ラッシュ、交通渋滞といった問題も引き起こした。こうしたことにも対応する技術を日立は開発してきた。そして、1件あたり年間4分間という世界最短の停電時間、世界に11か国にしかない水道水が飲める国であること、交通ICカードによってスムーズにストレスなく移動できる環境がつくられるなど、快適なくらしが日本で実現されている」とした。

 その一方で、2020年に新興国の都市人口と農村人口が逆転すること、2050年には全人口の69%が都市に居住するようになることで、都市への人口集中を支えるための社会インフラ整備への需要が拡大すると指摘。

 「今後は新興国における生活水準の向上が本格化してくる。これからは経済発展とともに、環境に配慮したインフラづくりが必要になってくる。そこに、日立がこれまで培ってきたトータルエンジニアリンのノウハウを生かすことができる」と語った。

 日立グループが定義するトータルエンジニアリングとは、ファイナンス、サービス設計、システム設計、運用・維持・保守の4点を持つこと。「単一ではない複数システム間の相互連携、中長期的な都市の成長にあわせたインフラ更新・高度化、受益者および被害者などの多様な利害関係者、金銭以外の複数の価値観をとらえた多様な目的といったことを踏まえた取り組みが可能であるからこそ、日立は、人と地域にやさしい社会インフラを構築することができる」とした。

 日立が展開する社会イノベーション事業とは、産業・交通・都市開発システム、情報・通信システム、電力システムと、材料・キーデバイスによって実現されるもので、その事例をいくつか示してみせた。

ファイナンス、サービス設計、システム設計、運用・維持・保守の4点を持つトータルエンジニアリングで貢献する日立が注力する社会イノベーション事業
南アフリカの石炭火力発電

 南アフリカ共和国で超臨界圧技術を採用した80万kWのボイラーを12基受注したことをはじめ、世界各国に石炭火力事業を展開していることや、英国のロンドンとアシュフォードを結ぶCTRL(ドーバー海峡トンネル連絡線)では、高速鉄道用アルミ製車両のClass395を29編成、174両を納入した事例、中国・無錫の空中華西大楼で分速600mという高速エレベータの導入をはじめ、アジア・中東諸国でエレベータ、エスカレータ事業を展開していること、NASAにストレージシステムのデータ長期保存用ソフト「Hitachi Content Archive Platform」を導入し、国家資産レベルのコンテンツ保存を行っていることなどを紹介。

英国で手掛ける高速鉄道CTRLストレージシステムのデータ長期保存用ソフト「Hitachi Content Archive Platform」

 「地域の生活者、サービス事業者の視点、サービスレベルとニーズにあわせた開発、地域との協創、パートナリングによるグローバルなトータルエンジニアリングを実現できるのが日立の手法。今後、2030年までに40兆ドルのインフラ投資が見込まれる。日立は、都市、国家レベルの社会インフラプロジェクトをパッケージとして一括提供できる。トータルエンジニアリング力を生かして、プロジェクト全体を取りまとめる全日本チームとしての提案が、国際競争に勝ち抜く手段になる。環境、エネルギー/資源、都市化、水不足、格差、セキュリティといった、より複雑で高度な課題に対するサスティナブルが求められる」などとした。

トータルエンジニアリング力の要点国際競争を勝ち抜くため全日本チームとして取り組む

 ストレージ事業では、1989年にシリコンバレーに拠点を設置。全世界100以上の国と地域に展開し、海外売上高比率が80%以上、フォーチュンベスト100社のうち、70社以上が採用していることを示したほか、鉄道事業では、20000年に英国に一人の駐在員でスタートしたのちに、受注失敗などを繰り返す一方、現地持ち込み試験や展示会への出展などを通じて認知度を高めることで、シーメンス、アルストム、ボンバルディアという鉄道ビッグ3の市場に参入。2005年に初めて受注に成功し、同時に販売、エンジニアリング、保守の会社をJR東日本などの協力を得ながら設立し、鉄道トータルソリューションを提供できる体制を整えたという。

 

新たな価値を生む次世代社会インフラで次世代都市の実現に貢献

社会インフラづくりで考慮すべき点

 一方、今後100年に向けては、「エネルギーを中心に、水道、鉄道、道路を制御し、人と地球をつなぎ新たな価値を生む、次世代の社会インフラを実現。人と情報が、欲しいときに必要なだけ、心地よく、楽しく、安全・安心に活用できる社会インフラによって、よりスマートな次世代都市の実現に貢献していく」と取り組みを説明。

 「次世代都市を構成する要素は、スマートグリッド、次世代交通システム、グリーンモビリティ、インテリジェントウォーターの4点。次世代都市の電力インフラは、供給側では大規模集中電源に加えて、風力や太陽光などの新エネルギーが、需要側では工場やオフィス、住宅などの分散電源、電子自動車などにも広がりをみせる。そして次世代都市の住宅は、カメラや各種センサー、蓄電池などがネットワークでつながり、ホームゲートウェイを通じてデータセンターに接続される」。

 「家電、住設機器、新エネ機器、携帯端末をネットワークでつなぎ、データ活用により、エコで快適なくらしを実現するものになる。そして、次世代都市の鉄道は、予測に基づく人や列車の柔軟な誘導、トラブルからの迅速な回復を実現することで、輸送業務効率の向上、利用者の満足度向上、環境性能を向上させることで、安心、エコ、快適を実現するものになる」などと語った。

スマートな次世代都市次世代都市の構成要素

 鉄道情報システムでは、デジタルサイネージの活用にも言及。駅構内、電車内、駅出口において、イベント情報、運行情報、位置情報などをもとに、それぞれの状況に合致した形態にコンテンツを加工して配信することになるという。

 「次世代交通システムでは、利用者の気づきから、利用までの一連の行動をシームレスにサポートする、インテリジェントなサービス提供が可能になると考えている」という。

 一方、次世代都市の実現に向けた具体的な取り組みのひとつとして、中国・シンガポールの政府系企業が設立した企業によるエコシティの共同プロジェクトに日立も参加。2020年から2025年のプロジェクト期間中に、広さ30平方km、人口35万人、11万戸を対象に、地域エネルギーマネジメント(CEMS=Community Energy Management System)のほか、EV充電システム、BEMS(Building Energy Management System)、HEMS(Home Energy Management System)を含めたエコシティの実現に向けた協力を行うことを示した。

天津エコシティの共同参画プロジェクト地域エネルギーマネジメント(CEMS)

 

次の100年もサスティナブルな社会づくりに貢献したい

日本の国際競争力の原点
グローバルでの協創を目指して

 最後に中西社長は、「日本には、精緻(せいち)なモノづくりノウハウと、消費者の厳しい目があり、その結果、日本を世界有数の快適な社会インフラを持つ国に育てた。そしてそれこそが日本の国際競争力の源泉となっている。新興国などにこれらの技術やノウハウを提供することで、地球規模の価値を生むことになる」とし、日立グループの価値もそこにあると指摘する。

 さらに、「中堅・中小企業の優れた技術、または海外技術を含めて活用し、幅広いパートナーやお客さまとともに、その国や地域に最適な価値を協創していく。大切なのは現地のニーズにあせてカスタマイズすることであり、日立は、カスタマイズの担い手として、トータルエンジニアリングの主役になる」などとしたほか、国内外の知の結集として、スピントロニクス、量子コンピューティング、パワーデバイス、量子計測、ロボティクスの研究に取り組んでいることを紹介。

 「日立は、これらからの100年も、グローバルに社会イノベーションに貢献していく。感じる、考えると、動かす、という人の一連の活動を補完するセンシング技術、シミュレーション技術、フィードバック技術といった、人と環境のための技術が必要となってくる。これらの技術の磨きをかけて、次の100年も、日立はサスティナブルな社会づくりに貢献したい」とした。

 同社では、日立の精神として、「和」、「開拓者精神」、「誠」という3の言葉がある。中西社長は、「和は広い企業、機関とのパートナーシップ力、開拓者精神は技術やノウハウを含むインテリジェンスの獲得に向けた努力、誠はサービス事業者の視点に立つユーザーオリエンテッドな思想とする」と語り、講演を締めくくった。

センシング、シミュレーション、フィードバックの各技術でこれからの社会に貢献確かな技術で次の100年へ
関連情報
(大河原 克行)
2010/7/23 12:21