仮想化道場

GPUの仮想化で変わるCADワークステーション

 もの作りをビジネスの中心に据えている日本企業において、部品や製品の設計・デザインを行うCADワークステーションは、重要なIT機器となっている。しかし、近年は重要なCADデータがライバル会社に流出したり、東日本大震災などの大災害によってデータが消失したりするなど、ワークステーションが各エンジニアのデスクに置かれることでのデメリットが目立ってきた。

 こうした状況を改善するためのソリューションとして、ワークステーションの仮想化が注目されてきた。今回は、その背景を説明する。

なぜワークステーションの仮想化が必要なのか?

 データの流出を防ぐ上では、人的な教育がポイントになる。ただ、グローバルにビジネスを行う企業においては、今後著しい成長が期待できるアジアや中東、アフリカ、南米地域の発展途上国の従業員は、コンプライアンスや著作権などに対するモラルのレベルが低い。このため、データが流出しないように高いセキュリティを施すことが必要になる。

 また故意の流出でなくとも、例えばノートPCにデータを入れて客先や工場で打ち合わせを行う場合に、PCを紛失してしまい、意図しないデータ流出を招く可能性もある。データのコピーに対してセキュリティをかけたり、申請書によるデータのコピー管理を行ったりするのも1つの手だが、あまりにも制限しすぎると使い勝手が悪くなり、それそれで問題になる。生産性が落ちてしまっては、開発スピードが重視されるグローバルビジネスにおいては競争力が低下していくからだ。

仮想ワークステーションのメリット。データは、データセンターに集約されるため、情報漏えいのリスクは低減される

 一方では、災害に対する対策と真剣に考え始める企業も現れた。東日本大震災のように、地震でワークステーションが損壊したり、津波で被害を受けたりすることもあるし、ワークステーションがデスクから落ちて、従業員にぶつかって重傷を負ったりすることもあるだろう。もちろん、そうした災害時にハードウェアが壊れて、データが消失してしまうこともあった。

 さらに、一部の工場やオフィスでは、地震の震動などにより、天井に付いているスプリンクラーから消化剤が散布され、それによってワークステーションが壊れてしまうことも起こったという。

 こうしたことから、今後の災害を考えれて、ワークステーションがエンジニアの側ににすべて配置されていることに問題がある、と考える企業が現れ始めた。

 このようなCADワークステーションにおける問題点の多くを解消できるのが、GPUの仮想化技術を利用した仮想ワークステーションなのである。

災害に強固なデータセンターにCADデータが保持されるので、災害時にデータが消失することもない
高機能なGPUは、CADソフトなどを動かす仮想ワークステーションでは必須のパーツだ。最近では、HTML5やオフィスソフトの高機能化により、CADエンジニアだけでなく、パワーユーザーやナレッジワーカーにとっても重要になってきている

(山本 雅史)