“PCからクラウドへ”と時代を変えるCitrix

Synergy 2011で発表された新製品群を見る


 5月25日から米国サンフランシスコで開催されたCitrixのカンファレンス「Citrix Synergy 2011(以下、Synergy)」において、米Citrix CEO兼社長のマーク・テンプルトンCEOは、PCからクラウドへと時代が移り始めていると明言した。

デスクトップ仮想化を一層推進

Citrixは、Synergy2011の当日にKavizaの買収を発表した
テンプルトンCEOは、BYOCからBYO-3へのコンセプト拡大を発表した。これにより、ユーザーはさまざまな端末を使って企業システムにアクセスできるようになる

 Synergyの基調講演において、テンプルトンCEOは、Synergyの初日にSMB向けのVDIソリューションを提供しているKavizaを買収したことを報告した。Kavizaは、昨年の4月にCitrixが出資をしているため、ある程度計画済みのことだったといえる。

 Kavizaの製品は、VDIに必要なコネクションブローカー、ロードバランサー、動的デスクトッププロビジョニングなどをオールインワンで提供している。KavizaのVDIは、シトリックスのHDXテクノロジーが利用できるため、Citrixの製品ラインアップとしても親和性が高い。

 テンプルトンCEOは、昨年のSynergyで「BYOC(Bring Your Own Computer)」というコンセプトを打ち出し、VDIやクライアントPCの仮想化を進めてきた。今年のSynergyでは、「BYO-3(Bring Your Own 3 Computer)」と改め、クライアントの多様化への対応を打ち出している。

 BYO-3というコンセプトが出てきたのは、ユーザーが使用するクライアントが多様化していることが大きな理由になる。スマートフォン、タブレット、クライアントPCなど、ユーザーは3種類の端末を持って、企業システムにアクセスすることになる。

 もう一つテンプルトンCEOは、「3PC」というキーワードを打ち出した。このPCはPersonal Computerではなく、Personal Cloud、Private Cloud、Public Cloudの3つのCloudという意味だ。パソコンの時代が終わり、クラウドの時代が始まるということだ。Citrixでも、このコンセプトに従い、さまざまな製品をリリースしていく予定だ。


PCの時代から、クラウドの時代に変わっていることをテンプルトンCEOは明らかにしている
今後クラウドは、Personal、Private、Publicの3つのクラウドで構成されていく3つのクラウド環境を使いやすくするためには、ユーザー自身のデータプロファイルなどを、クラウドを通じて、さまざまなデバイスで利用できるようにする必要がある

 Personal Cloudの分野では、Citrixが提供しているSaaS型オンライン会議システムGoToMeetingのHD対応版、「GoToMeeting with HD Faces」が発表された。5月25日からパブリックベータが開始されており、既存のGoToMeetingのユーザーは無償で利用できる。


GoToMeeting with HD FacesHD化されたGoToMeeting with HD Facesの画面

 昨年リリースされたXenClientも「XenClient 2」にバージョンアップされた。また、政府関連や金融機関など、高いセキュリティ性が必要とされる環境向けの「XenClient XT」も発表された。

 仮想デスクトップに接続するための「Citrix Receiver」もiPad、iPhoneなどのiOS以外にAndroid版もリリースされている。今回リリースされたCitrix Receiverでは、アプリケーション切り替えの高速化、画面のハイレゾリューション化などが行われている。さらに、多くのプラットフォームへの対応という意味で、Webブラウザー版のReceiverが発表された。

 Webブラウザ版Receiverは、HPのWeb OS、GoogleのChrome OS、IE、Safariなどで動作する。Webブラウザ版のReceiverの登場に合わせてCitrixは、GoogleとCitrix Receiver for Chrome Bookの提供に関して提携している。近日中にGoogle Chrome Web StoreからReceiverが提供される予定だ。


Citrix Receiverは、すべてのOS環境で動作する。Windows、MacOS、iOS、Android、Blackberry、WebOS、ChromeOSなどに対応している新しいCitrix Receiverは、シンプルなUI、アプリケーションの高速切り替え、1600×1200ドットのサポートなどさまざまな機能が改良されている。面白いのは、iOSなどで問題になっている脱獄(ジェイルブレイク:iOSのハッキング)などのチェックもできることだWebブラウザ版のCitrix Receiverは、IE、Safari、Firefox、Chromeなどに対応している
Chrome Book上で動作しているCitrix ReceiverHPのWebOS上で動作しているCitrix Receiver

 Private Cloud分野では、「Follow Me App」、「Fellow Me Data」というコンセプトを打ち出している。さまざまなクライアント端末が利用される環境になると、いろいろなシーンで端末を変えてアクセスすることになる。このため、端末ごとにアプリケーションがインストールされたり、データが保存されたりしていると、ユーザーの利用環境が端末に縛られる結果になる。これでは、フレキシブルなアクセス環境が実現できない。

 そこで、必要とされるのは、端末をまたいで、アプリケーションやデータを同期できる仕組みだ。今回Citrixが発表した「NetScaler Cloud Gateway」は、アプリケーションの管理、データの同期、ライセンス情報の管理やリモートロック機能などが実現されている。

 このほか、NetScalerファミリーとしては、Public CloudとPrivate Cloud間で、アプリケーションやデータなどをシームレスに移動することができる「NetScaler Cloud Bridge」が発表されている。

 NetScaler Cloud Gateway、NetScaler Cloud Bridgeは、物理アプライアンス、仮想アプライアンスの両方で提供される。


新しく発表されたNetScaler Cloud Gatewayの管理画面NetScaler Cloud Bridgeの管理画面

 Public Cloud分野では、OpenStackベースのクラウド構築と運用ソフトウェア「Project Olympus」を今年中に提供する予定だ。Project Olympusは、シトリックスが認定したOpenStackに、さらにクラウドにチューニングしたXenServerをベースにしている。しかし、Citrixは、Project Olympusでは、ハイパーバイザー非依存と目指しておりVMware ESX、Hyper-Vに対応するとしている。

 ただ、Project Olympusに関しては、Synergyでの発表は開発表明といったレベルであって、より詳細に関しては、今後発表される。


Project Olympusは、OpenStackとXenServerを組み合わせて、クラウドにぴったりな運用・管理環境を提供する

 

多数のプラットフォーム対応するXenClient 2

 Synergy2011で発表されたXenClinet2は、以前のXenClientに比べると多くのプラットフォームで動作するように変更されている。

 XenClientでは、IntelのvProプラットフォームしかサポートされていなかったが、XenClinet2ではその制限が外された。ただし、推奨ハードウェアとしてはVT-d、VT-x、TMPが必須になっている。AMDでも、AMD-VでCPU仮想化、IO仮想化などがサポートされているが、XenClinet2で動作するかはわからない。ちなみに、XenClientのベースとなっているXenでは、AMDの仮想環境もサポートされている。

 vProという制限が外れたことによる確実な変化は、Intel以外のネットワークチップをサポートした点。Broadcomなどのネットワークチップがサポートされている。ただし、XenClientでvProだけと制限されていたため、Intel製のネットワークチップが、数多くサポートされている(IntelのWiFi/WiMAX両対応のチップもサポートされている)。

 今後、XenClient 2に対応したIntel以外のネットワークチップ用のドライバがリリースされてくれば、多くのプラットフォームでXenClient 2が動作することになるだろう。

 XenClient 2で最も注目されるのは、グラフィックチップだ。XenClientでは、Intelの内蔵グラフィックだけしかサポートしていなかった。しかし、XenClient 2では、AMDの外付けGPUもサポートされることになった。

 これにより、より高い性能を持つGPUがクライアント仮想化でも使用できるようになった。実際、デモでは、DirectX11対応のゲームソフトをXenClient 2環境で動かしていた。また、Microsoft Office 2010や、IE9などのGPUを使うWebブラウザを満足いく性能で動かすことも可能になる。

 さらに、サポートされる仮想OSとしても、Windows 7 32/64ビット版、Vista SP3 32ビット版、XP SP3 32ビット版、Ubuntu 11.04などとなっている。


AMDの外付けGPUを利用して、ビデオ再生でもGPUアクセラレーションが使用できる3DCADソフトもXenClient 2なら、外付けGPUの機能が利用できるため、高速に3Dオブジェクトの表示が行える極めつけは、DirectX対応のゲームソフトもXenClient 2の仮想環境で動かすことが可能。きちんとゲームとしてプレイできるスピードだ

 新たに発表されたもう1つ、XenClient XTは、仮想マシンが完全に隔離されたネットワークで動作するようにできている。これにより、高いセキュリティ性を持つ。さらに、IntelのvProプラットフォームが持つTXTを利用して、ブート時に仮想マシンやハイパーバイザーの信頼性をチェックすることで、ウイルスなどにより、不正にシステムが書き換えられることを防止する。

 XenClient 2は、5月25日からExpress版のテックプレビューが公開されている。ユーザーは、登録すれば、自由にダウンロードしてテストすることが可能だ。また、XenClient XTに関しては、6月からダウンロードが可能になる。


XenClient XTは、6月に提供が始まる

 

XenServer6.0のベータ版も公開

 Synergy 2011の基調講演では、発表されていなかったが、XenServer6.0(Project Boston)のベータ版もすでに公開されている。

 XenServer6.0では、Xen4.1をベースとして、Open vSwitch、SR-IOVのサポートなどが行われている。さらに、HDXに関しても機能強化され、GPUのパススルー機能も提供されている。このため、VDI環境でもGPUが利用できることになる(ただし、Hyper-VのRemote-FXとは機能は異なるため、複数のVDIで同時に利用できるかは不明だ)。

 Private Cloudを構築する時に便利なSelf-Service Manager機能も追加される予定だ。この機能を利用すれば、高い可用性を持った仮想アプライアンスを構築したり、VMwareのVMDKやMicrosoftのVHDイメージから、仮想マシンをインポートしたりすることも可能だ。

 また、Microsoft System Center Virtual Machine Manager(VMM)2012と連携して、システムの管理を行うことが可能になっている。

関連情報
(山本 雅史)
2011/5/31 06:00