今年、国内ナンバーワンシェアを目指す日本HPのサーバー事業の進捗は



 今年1月、日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)でサーバー事業を統括するエンタープライズ・サーバ統括本部長・松本芳武執行役員は、サーバー市場における国内ナンバーワンシェアの奪取を宣言した。

 「2005年はもう少しでトップに手が届くところで、2位に甘んじた。2006年はなんとしてでもナンバーワンを取る」と松本執行役員は語る。

 それから半年、同社のサーバー事業はその宣言通り、順調な推移を見せている。


トップシェア維持を続けるUNIXサーバー

エンタープライズ・サーバ統括本部長・松本芳武執行役員

HP Integrityサーバ Superdome

 IDCジャパンが発表した2006年第1四半期のUNIXサーバー市場調査によると、日本HPは、出荷金額でシェアで38.0%を獲得。13四半期連続でのトップシェアとなった。

 2006年第1四半期は、金融、通信、流通向けの基幹業務向けシステムの出荷が好調であるとともに、Itanium 2を搭載したHP Integrityサーバーの出荷比率の拡大が見逃せない。

 すでに、同社UNIXサーバーの6割近くがItanium 2となっており、「WindowsやLinuxを混在させて使用できること、仮想化技術との組み合わせによって柔軟なシステム構築が可能になる点などに、高い評価が集まっている」(同社)としている。

 この分野は、すでに日本HPの牙城となっているのは多くの関係者が認めるところ。この状況を指して、かつてはオープンの代名詞となっていたUNIX市場を「レガシー」と表現する関係者もいるほどだ。つまり、それだけ、この分野における同社のトップシェア堅持は確実だといってもいい。

 さらに、第3世代となるハイエンドサーバー向けチップセット「HP sx2000」を搭載したHP Integrityサーバーの出荷を開始。新製品ではトップエンドのHP Integrity Superdomeをはじめとして、インテルの次期デュアルコアプロセッサのMontecitoおよびMontvaleに対応。さらに、CPUとメモリを搭載したセルボードとデータの伝送を制御するクロスバーを結ぶバスを三重化することで、2つのバスが故障した場合でも縮退運転を行い、再起動することなくシステム運用ができるなど、可用性を高めることで、ミッションクリティカル分野での強みを、より発揮する考えだ。

 また、今年後半にはミッドレンジからエントリーサーバー向けのチップセットとして、新たに「zx2」を投入する予定で、ここにおいても、MontecitoやMontevaleへ対応するなど、製品強化にも余念がない。

 UNIXサーバー領域における勢いは、しばらく持続することになりそうだ。


課題となるのはx86サーバー?

HP Integrity NonStop サーバ NS16000

HP ProLiant ML350 Generation 5

 日本HPでは、このIntegrityサーバーのほかに、2系統のサーバー製品群を持っている。

 ひとつは、旧タンデム・コンピューターズの流れをくむ「NonStopサーバー」だ。

 同社の発表によると、全世界の主要証券取引所では87%が利用しているなど、金融、証券、通信といった高信頼性が求められる分野において高い実績を誇っている。

 そして、もうひとつが、インテルXeonプロセッサやAMDのOpteronファミリを搭載したx86サーバー「ProLiantシリーズ」だ。

 先に触れたNonStopサーバー分野に関しては、年間にそれほど多くの台数が出荷されるわけではない。そのため、日本HPが、年間ナンバーワンシェアを獲得できるかどうかは、むしろ、このx86サーバーの領域でいかにシェアを伸ばすことができるかどうかにかかっているといえる。

 x86サーバー事業を担当するインダストリースタンダードサーバ製品本部・上原宏本部長は、「昨年は3位だったシェアが、2006年第1四半期には第2位となる20%にまで到達した」と、今年に入ってからの手応えを語る。

 このx86サーバー分野においては、同社は二極化戦略を推進している。それは、エントリークラスを中心とした低価格製品路線の「ボリュームライン」、そしてもうひとつは、付加価値路線である「バリューライン」である。

 クライアントPC分野において、低価格路線を打ち出すデルとの対抗措置が前面に出ていることもあって、日本HPのx86サーバー戦略は、一見、ボリュームラインが中心であるかのように受け取られるが、実は、売り上げの8割がバリューラインによるもの。いわば収益性の高い領域で事業を推進しているのがわかる。

 単純に考えれば、構成比率の低いボリュームラインをテコ入れすることが、シェア拡大の早道ともいえそうだ。

 だが、日本HPは、ボリュームラインにおける低価格戦略によって、x86サーバーのシェアを高める考えはないようである。むしろ、得意とするバリューラインで、さらにシェア拡大を図る計画だ。

 実際、日本HPでは、昨年来、x86サーバー環境における64ビット化の推進のほか、仮想化技術に関する投資拡大、統合管理ツールの提供などに取り組んできた。


仮想化技術に関する協業の発表会。左から、日本AMD マイクロプロセッサソリューションの多田和之本部長、日本HP インダストリスタンダードサーバ製品本部の上原宏本部長、ノベル 営業本部の市橋暢哉本部長

 今年に入ってからも、日本における仮想化技術の採用促進を促すために、日本AMD、ノベルおよびヴイエムウェアとともに、仮想化技術に関する協業を発表。「日本のユーザーは新たな技術に対しては、導入しようという機運がなかなか高まらない。だが、その一方で多くのユーザー企業が、仮想化には大きなメリットがあることを知っている。仮想化技術の採用を後押しするものとして、また、日本独自の取り組みとして力を注いでいきたい」(上原本部長)と語る。

 同社では、今年末には、2プロセッサ以上のx86サーバーのうち、約20%が仮想化環境で活用されるだろうと予測しており、仮想化への取り組みで先行することが、そのまま同社のサーバーシェアの拡大に直結すると見ているのだ。

 さらに新たにXeon 5100番台(開発コードネーム:Woodcrest)を搭載したx86サーバー「HP ProLiant 300 Generation 5(G5)」を発表。従来製品に比べて最大2倍の性能向上を実現することで、スケーラビリティを実現する考えだ。

 こうした取り組みも、バリューラインの販売比率を高い比率で維持することにつながっているのだ。

 「カスタマーが日本HPになにを求めているか。私は、価格よりも付加価値だと判断している。x86サーバー事業はそこにフォーカスしていく」と、上原本部長は語る。


ブレードサーバーも戦略的展開に

HP BladeSystem c-Classを発表する石積尚幸取締役副社長(左)とインダストリースタンダードサーバ製品本部・上原宏本部長

 そして、x86サーバー事業におけるもうひとつのポイントが、ブレードサーバーである。

 日本HPでは、先頃、ブレードサーバーの第3世代となる「HP BladeSystem c-Class」を発表。これを「Blade 3.0」のメッセージとともに、展開していく考えを示す。

 同社では、これまでのブレードサーバーを、高密度化が進展した段階を第1世代、サーバー集約が推進された世代を第2世代としていたが、第3世代をストレージやネットワークを含めたシステム集約型として、仮想化・自動化による統合環境の実現が可能なものとする。

 これを最近話題の「Web 2.0」とひっかけて、「Blade 3.0」という呼び方をしているのである。

 日本HP・石積尚幸取締役副社長は、この第3世代のブレードサーバー製品を、「HPが掲げるアダプティブ・インフラストラクチャを現実のものにする製品」と位置づけ、今後のサーバー事業の柱とする考えだ。

 実際、「ブレードサーバーでは、国内において、40%の市場シェア獲得を目指す」と、上原本部長も鼻息が荒い。全世界的にみても、同社のブレードサーバーの出荷比率は7.4%にまで上昇しており、日本でも同様の比率にまで高めていくことになる。

 同社では、ブレードサーバーにおいても、Xeon 5100番台を搭載した新モデルを発売するほか、下期には、AMDを搭載したブレードサーバーを、また、2007年上期には次期Itanium 2の低電圧版を搭載したブレードサーバーをそれぞれ投入する予定で、この分野における事業を一気に加速する考えである。


ソフトも付加価値戦略に寄与

 そして、こうしたサーバー事業を下支えするのが仮想化技術をはじめとする同社独自の各種ソフトウェアである。

 同社では、Virtual Machine Management PackやServer Migration Packの提供など、統合環境の実現に向けてHP Essentials Virtual Management Softwareを強化。また、管理ツールであるHP System Insight Manager(SIM)やHP ProLiant Essentialsソフトウェアにより、同社ならではの管理環境の強化を図っている。

 6月末を迎え、いよいよ2006年の折り返し点に到達した。これからも戦略的製品の投入が相次ぐ日本HPのサーバー事業は、国内シェアナンバーワン獲得に向けて、下期も手綱を緩めることはなさそうだ。

関連情報
(大河原 克行)
2006/6/30 11:37