「4階建てソリューション」によって、意欲的な中期計画に挑むリコー



業績目標

 リコーが、2007年度を最終年度とする第15次中期経営計画に取り組んでいる。

 ゴールとして掲げているのは、2007年度に売上高で2兆3000億円、営業利益は2350億円、当期純利益は1370億円。

 売上高の年平均成長率は8.2%、2007年度における営業利益率は10.2%と、同社の桜井正光社長自らが「高いハードル」というように、意欲的な目標となっているのだ。

 この計画の推進のなかで、リコーが目指しているのは、メーカーからの脱皮と、ソリューションベンダーへの進化だ。

 桜井社長は「リコーは、単なるメーカーではなく、メーカーをベースとしたソリューション企業に変革する」と語る。

 それは同社が標ぼうしている「4階建てソリューション」で目指すゴールと合致している。


4階建ての事業構造

桜井正光社長

4階建てソリューション

 リコーが示す「4階建てソリューション」とはなにか。

 桜井社長は次のように語る。

 「1階は、スタンドアロン型のOA機器。もともとリコーが取り組んできた分野である。そして、2階が、現在のリコーの主力製品群であるMFP、LBP、FAXといったネットワーク対応機器。なかでも、当社が提唱しているGWアーキテクチャー対応機がネットワーク対応の主軸的な役割を担っており、2001年以降の当社MFP製品では、GW対応機が事業の中心となっている。3階にあたるプリンティングソリューションおよび4階のドキュメントソリューションは、1階、2階の機器をベースにシステム提案、ソリューション提案をしていくことになる」

 同社では、デジタルMFPの進化を、1987年からのマルチファンクション化を第1世代、1995年以降のネットワーク化を第2世代とし、2001年以降のソリューション連携による業務プロセス革新型の製品を第3世代と定義している。第3世代では、Intelligent-MFPの名称を使い、GWアーキテクチャーをベースに、ERPをはじめとする他社の基幹系、あるいは業務系アプリケーションと連携。ソフトウェアベンダーに対しては、連携ソリューションを開発するためのSDKも提供している。

 「MFPは、もはやコンピュータと同じ。外部のソフトウェアとの連動性が重視される製品になっている」と桜井社長は語る。


大規模プリンティング分野にも本格進出

 リコーは、こうした4階建てソリューションの基盤の上で、いくつかの挑戦を開始しようとしている。

 ひとつは、4階建てソリューションの最上階となるドキュメントソリューションにおける大規模市場への展開だ。この市場は、いわば富士ゼロックスが最も得意とする市場。リコーにとっては、この市場の攻略が長年の課題だった。

 2004年8月に、日立プリンティングソリューションズを買収し、リコーグループとしたリコープリンティングシステムズが持つソリューション能力と、リコーの製品力を生かすことで、プリンティングボリュームの大きなこの市場に打って出ようというわけだ。

 「そう簡単なものではないのはよく理解している。だが、欧米での経験で、市場の特性も理解してきた。しっかりとした体制づくりとともに、事業拡大のための戦略事項も明確にしてきた。オープン化、ダウンサイジング化、カラー化という顧客ニーズの変化をとらえ、本格参入する」と桜井社長は意欲を見せる。

 2つめは、技術力の強化である。ここでは大きく4つの取り組みがある。

 第1点目は、キーパーツの内部開発および内製化の強化だ。リコーがこれまでの複写機事業で成功してきた背景には、トナーや感光体を含めた複写機のキーパーツを内製化してきたことがあげられる。

 「なにがキーパーツで、なにがキーパーツではないかを決め、キーパーツの分野に集中投資をする。さらに、昨年8月に、大森や厚木に分散していたプリンタ、複写機の商品開発拠点を、海老名テクノロジーセンターに統合。コア商品の要素技術開発のための体制を強化した。技術者同士がフェイス・トゥ・フェイスで議論をし、本当にいいものを、効率的に作れる体制が整った」と語る。

 同社ではソフトウェア開発関連部門の統合も完了しており、ハード、ソフトの両面から開発体制が統合した格好となる。

 第2点目は、「作らずに創る方式の定着」である。モジュール方式での開発やユニットの共通化といった取り組みのほかに、試作機を開発する前に図面の段階でシミュレーションを行い、より耐久性が高く、信頼性の高い製品開発が可能になる、いわば「試作レス」という手法だ。

 「設計段階から、使用環境の変化にいかに対応できるかといったシミュレーションも可能になり、効率的な環境でのロバスト設計が可能になる」と桜井社長は、この手法のメリットを強調する。

 第3点目が、「リコー流生産方式の確立と世界展開」である。顧客起点型のサプライチェーンシステムの導入をベースに、超低コスト生産の実現を図るという。そして、第4点目が、装置および設備における内製化技術の強化である。生産技術の部分に関してもブラックボックス化を図ることで、他社にまねのできない製品づくりに反映させる考えだ。


注目される2006年度の計画

 リコーでは、2007年度を最終年度とした中期経営計画のなかで、MFP(マルチファンクションプリンタ)を収益確保のためのエンジンと位置づける一方、レーザープリンタおよびジェルジェットプリンタを成長の核とする考えを示している。

 さらに、産業分野においては、電子デバイス、サーマル、電装ユニット、光学ユニット、パーソナルマルチメディアの5つのカンパニーを核として、成長分野の選択と集中を図り、その分野に集中的な投資を行うという。

 成長エンジンのMFPでは、2006年度が極めて重要な一年になると位置づけ、新世代カラー複合機を、ハイエンドモデルとローエンドモデルの双方へ製品レンジを広げ、フルラインアップ化する考えだ。

 また、収益ベースには乗っていないジェルジェットプリンタに関しても、中期経営計画の最終年度までの間には黒字化させる計画を打ち出した。

 とはいえ、中期計画の初年度となる2005年度において、通期見通しの下方修正を行うなど、意欲的な事業計画とは裏腹に、足下の状況は厳しいと言わざるを得ない。

 果たして、4月末にも発表される予定の2006年度の業績予想で、どんな数値を打ち出すのか。中期経営計画の達成の行方を大きく左右するものになるといっていいだろう。

関連情報
(大河原 克行)
2006/4/7 00:00