大河原克行のキーマンウォッチ

「インターネット産業におけるスイスを目指す」~米Equinixスティーブ・スミスCEO兼プレジデント

世界最大規模のデータセンタービジネスを展開、東京第3DCに続き大阪への進出も検討

 全世界12カ国、37都市、約100カ所のデータセンターを運用する米Equinix(エクイニクス)。クラウド・コンピューティングの広がりにあわせて、世界規模で急成長を遂げている同社は、グローバルで常に10拠点以上のデータセンターの新設プロジェクトを推進しているという。

 日本においては、2002年に第1号となるデータセンターを開設して進出。2011年6月には、3番目となる東京第3データセンターを開設し、日本市場における需要の増大に対応する考えであり、さらに、今後は大阪エリアへのデータセンターの開設も検討しているという。

 Equinixのグローバル展開は今後どうなるのか。そして、日本における今後の成長戦略をどう描いているのか。米Equinixのスティーブ・スミスCEO兼プレジデントとともに、アジア・パシフィック地域担当のサミュエル・リー プレジデント、エクイニクス・ジャパンの古田敬社長に話を聞いた。

約100カ所のデータセンターを全世界12カ国に展開

――最初に、Equinixとはどういった企業なのかを教えてください。

米Equinixのスティーブ・スミスCEO兼プレジデント

スミス氏:Equinixを表現する、いくつかの言葉があります。例えば、「データセンター」、あるいは「インターネットインフラストラクチャ」、そして、「グローバルなコロケーション」。これらの言葉はいずれもEquinixを表現するのに最適な言葉だといえます。Equinixは、約100カ所のデータセンターを全世界12カ国に展開しています。

 データセンターには、サーバーやストレージ、ネットワーク、電源、冷却に関する設備を持ち、これを顧客に対してコロケーションし、課金するビジネスを展開しています。現在、約4000社の顧客があり、これらの顧客に対して、データセンターのコロケーションと、インターネットコネクションを提供していくことになります。

 他社のデータセンターと異なるのは、何百というネットワークがファイバーで接続されており、そのなかから、顧客がネットワークを選択することができるという点です。どのネットワークに接続し、アプリケーションを動作させるのかといった選択肢が提供できるのです。これは、デジタルメディア企業やコンテンツホルダーといった企業にとっても都合がいいことであり、12年前の創業時から変わらないEquinixの特徴だといえます。

 つまり、ネットワークに対して、中立的な立場であることが、われわれの大きな特徴なのです。4~5年前から、金融サービスにおけるアルゴリズム取引において、当社のデータセンターを活用するといったケースが増えています。当社のデータセンターを活用することで、より高速なネットワーク環境を選択することができるからです。

 また、この2年間を見ると、クラウド・コンピューティングに関する需要が急増している。これにあわせて、Equinixはデータセンターをさらにグローバルに展開し、これからも新たな都市へのデータセンター設置を検討しています。

――顧客は、Equinixのどんなところに満足を求めていますか。

スミス氏:全世界の顧客が、信頼性の高いデータセンターをグローバル展開するEquinixに高い関心を寄せています。最大のポイントは、世界で最も信頼性が高いデータセンターを運営しているという点です。

 2つ目には、グローバルのインフラを生かしながら、1つの契約で1つのサービスレベルを、1つの価格体系で、簡単に利用できる仕組みになっている点。さらにグローバル化したデータセンターを活用することで、利用者に近い場所で、低遅延のネットワーク環境を作り出すことができる点も特徴です。

 そして、4つ目には、約4000社の顧客同士によるコミュニティが形成され、そこから新たなビジネスが発生するという点です。クラウド・コンピューティングで例をあげるならば、Amazon.comは当社の重要な顧客の1社で、多くの場所で当社のデータセンターを活用し、(子会社のAmazon Web Servicesが)Amazon EC2などのサービスを提供しています。

 一方で、われわれの顧客はAmazonのサービスに対して、クロスコネクトによって簡単に利用できるというメリットが享受される。すでに8万6000以上のクロスコネクトが利用され、クラウドや金融サービスに利用されています。インターネットエスチェンジ、イーサネットエクスチェンジにおける特徴がEquinixの差別化点となります。これにより、多くの企業がビジネスを加速するための「インターコネクションポイント」となっています。

 スレートPCやスマートフォンといった私たちが持ち歩くデバイスは、何千ものサーバーやストレージと接続し、利用できるようになっている。その基盤となるところをEquinixは担っているわけです。

4年で約30億ドルをデータセンターに投資、2011年度も6億ドル規模で

――この4年間でデータセンターに対して、約30億ドルの投資をしています。まだまだこの投資は続くのですか。

スミス氏:Equinixは今後1年先の投資計画しか明らかにしていません。すでに公表しているものとしては、2011年度は、6億1500万~6億5000万ドルの投資を計画しています。

 確かにこの4年間で30億ドルの投資をしてきましたが、どのタイミングを見ても、常に10~12のプロジェクトが進行しています。この推進要因となっているのは、顧客のデマンドであり、それに応えるためのキャパシティが求められていることが背景にあります。

 顧客は自らの事業を拡大するために、信頼性の高いデータセンターを必要としています。世界中の80~85%は自社内のサーバーで運営しているが、約2割はアウトソーシングを活用しています。ここにはIBMやNTT、アクセンチュアなどを活用し完全委託している顧客や、そこまでは必要ないが一部を委託して、マネージドサービスとして利用したり、アプリケーションを動作させたりといった顧客もあります。

 さらに、サーバーやストレージをコロケーションの形で所有したいという場合には、Equinixのような会社を選ぶことになる。IBM、Google、Deutsche Telekomなどが基幹システムとして当社を利用しています。また、中小企業もネットワークの密度の高さを求めて、Equinixを選ぶ企業が増えてきました。

 今年6月に東京第3データセンターを新設しました。これも東京エリアにおける需要が高く、東京第1データセンターおよび第2センターが一杯になってきたためです。われわれは、年平均成長率は約25%となっています。ここからは、一般論としての、市場全体の成長のお話になりますが、2014年ぐらいまでは、少なくともこうした成長傾向が続くのではないかと思っています。

エクイニクス 東京第3データセンターの入り口
天井高6メートルという東京第3データセンター。床下も80cmという高さがある
エクイニクスの東京第3データセンターの内部の様子。960キャビネット相当の設備を格納することができる

中立な立場で「インターネット産業におけるスイス」のような存在になりたい

――Equinixは、コロケーションビジネスに特化していますが、SaaSビジネスなどに進出する予定はないのでしょうか。

スミス氏:salesforce.comが提供するサービスや、IBMのホスティングサービスなどは、われわれのデータセンターを活用することで、クラウドサービスの能力を高めています。
 また、400以上の企業がマネージドサービス、ITサービスのインフラとして当社を利用している。Equinixは、そうした顧客と競合はしたくはない。ですからSaaSのビジネスには踏み出しません。

 この1年の間に約250社のクラウド専業企業が新たにEquinixのデータセンターの利用を開始しました。20~50人規模の会社が多いのですが、SaaSやPaaS、IaaSを提供し、大手のクラウドサービス企業に対抗する形で急成長しています。

 Equinixは、このイネーブラとしての役割を果たすことになるのです。中立な立場をとるのがEquinixです。「インターネット産業におけるスイス」のような存在になりたいと考えています。

――アジアにおけるこれまでの展開ではどんな点に力を入れてきましたか。

リー氏:香港、シンガポール、東京、シドニーといった、GDP成長率において、またはインターネットトラフィックの成長率や、テレコム環境が整備されているという観点で「Tear1」と呼ばれるエリアを対象に、データセンター展開してきました。グローバル企業がアジアに進出するといった時に、まず考えるエリアへの投資が重点的だったといえます。

 また、アジアという鍵となる市場で成功を遂げるために、先ごろ、中国・北京でパートナーシップを結び、中国市場への進出を果たしました。中国市場への進出は多くの顧客から求められていたものです。

 ただ、Tear1という点では、韓国や中国の北京以外の都市、成長が著しいインドへの進出は重要なものです。これらの市場において、信頼性の高いサービスを提供できるのはEquinix以外にはないと考えています。これからも積極的に展開を図っていきたいですね。

 アジア太平洋地域は、欧米の市場に比べて顧客の要求や市場性が多様だという特徴があります。事業環境の違い、マーケットの成長率の違い、そして規制にも違いがある。こうした市場環境をとらえた上で慎重に、そして大胆に展開していきたい。

 もちろん、日本でも東京以外の都市への展開を図りたいと考えていますし、豪州でもメルボルンといった、ほかの都市へ展開を図りたい。豪州では政府も強力に後押しをしてくれています。

日本には継続して投資、次は大阪への進出を

――日本では、どこが次のターゲットになりますか。

リー氏:なるべく早い時期に大阪に進出したいと思っており、それに向けて検討を開始しているところです。大きな市場ポテンシャルがありますし、東日本大震災以降、東京エリアのリソースを削減し、ディザスタリカバリサイトとして別の地域にあるデータセンターを活用したいという動きも出ていますので、顧客の要望に応じて前向きに検討していきたいと思います。

 そして、これが最後というわけではなく、今後も継続的に投資をしていくことになります。日本では2000年に最初のデータセンターを開設しましたが、それ以来、日本のローカルデータセンターとは別の視点でビジネスを行ってきました。日本の顧客だけを対象にするのではなく、北米や欧州の顧客を対象に事業を展開してきました。本社は海外にあるが、ローカルオペレーションは日本で展開するといった多国籍企業を対象にサービスを提供してきました。

 しかし、ここ数年は、日本の企業に対してもサービスを提供するといった事例が増えてきています。国内のデータセンター大手に比べると、日本での実績はまだ少ないが、着実に増加傾向にあります。

――日本における、これまでの事業の進ちょくをどう見ていますか。

スミス氏:古田さんが社長に就任してからの19カ月で、非常に高いレベルでの進ちょくが見られています。日本市場の理解が深まり、チームのパフォーマンスも高まっている。この成長をぜひ維持していきたいと考えています。

――日本での課題をあげるとすれば何でしょうか。

スミス氏:日本は極めて巨大な市場であると同時に、ほかの国に比べて競合が激しい市場でもあります。Equinixは主要な市場においては、1位か、2位というポジションにありますが、日本ではそうした立場にはなく、その道のりはまだまだ長い。しかし、機会は大きいですから、積極的な投資を続けます。日本のチームにはもっと大きなことをやってもらいたい。

リー氏:日本にはコングロマリッド企業が多い。そうした企業のグローバルITインフラを担う企業になりたい。日本の企業のローカル市場におけるお手伝いだけでなく、グローバルに進出する際にもお手伝いをしたい。これが、日本のローカルプロバイダーにはないEquinixの特徴であり、グローバルに展開する日本のコングロマリッド企業を支援できる数少ない企業だと自負しています。

スミス氏:世界中でインフラを整備したいという企業にとっては、最高のパートナーになれるでしょう。

日本の多国籍企業のグローバル展開と、欧米の企業の日本進出をサポートしたい

――今後、日本において、Equinixはどんな存在を目指しますか。

スミス氏:より高く飛んで、より遠くへ行きたいと考えています。まだまだやれることは多い。日本における売り上げ規模でもさらにランクをあげていきたい。日本の多国籍企業のグローバル展開を支援し、欧米の企業の日本進出をサポートしたいと考えています。全世界37の市場で展開しているEquinixですが、日本市場は間違いなくトップ5の市場に入ります。それだけ日本の市場を重視しています。

リー氏:もっと早く成長したいという点では思いは同じですが、私は顧客に対する価値創出ということを重視していきたい。それは、インターコネクションという価値を提供し、顧客のビジネスを支援していくことにあります。単に、日本にメガサイズのデータセンターを作って、そこでビジネスを拡大していくという手法ではありません。ここに日本のローカルプレーヤーとの差を出していきたい。

スミス氏:当社と関係が深いGoogleやMicrosoft、Amazonのほか、大手金融機関や大手企業といった大手顧客を通じて、インターコネクションの役割を果たしたい。ネットワークやクラウドノードへのインターコネクションを提供し、できるだけ多くの企業にこれを活用してもらいたい。ビジョンは、「唯一のインターネットコネクションポイント」になりたいということです。単なるデータセンターとして、スペースと電力を提供する企業ではないこと、そして、ベンダーニュートラル、キャリアニュートラルという立場にあることを理解していただきたい。

古田氏:グローバル展開をしている企業の、上位5000社のうち、日本に本社がある企業は985社あるという調査結果が出ています。そうした企業がグローバル展開をさらに加速する際に、ネットワークインフラはどうするのか、データセンターをどうるすのか、ITはどうするのかという点で、相談相手として、必ず当社の名前があがるように存在になりたいと考えています。

リー氏:まさにアイコンといえる存在になりたいというわけです。

スミス氏:そうなると、日本における目標をもっと高めなくてはならないですね(笑)