IaaS本格活用期へ~Part03
進化するデータセンター
■サービス提供の“舞台裏”も進化~信頼性や安全性で付加価値訴求
IaaSなどクラウドサービスにおいて先行する海外勢。郊外の広大な敷地に構えたメガデータセンターで膨大な数のサーバー群を動かすと共に、運用自動化などの追求に余念がない。“規模の論理”をはたらかせた低コスト構造に、国内のデータセンターはどのように対抗しようとしているのか。
国内のIaaS事業者が海外勢との差異化ポイントとして打ち出すのは、データセンターの立地上のメリットだ。国内にデータセンターを抱えるケースがほとんどである日本のIaaS事業者の多くが、データを国内にとどめておけることや、ネットワークのレイテンシが抑えられる、といった“地の利”を訴求する。
■セキュリティや運用標準化でサービス品質をアピール
これに加え、国内勢が注力するポイントの1つは、サービス品質維持とセキュリティの確保だ。開発や検証、キャンペーン用Webサイトといった「突発的な用途」だけではなく、基幹業務を含めた業務システムも積極的に取り込んでいこうとする各社の戦略が背景にある。
このため、ITサービス運用のベストプラクティスをまとめた「ITIL」をもとにした運用標準の国際規格「ISO 20000」の認定を取得し、セキュリティやサービスレベルの維持を運用レベルで担保する動きが広がっている。NTTデータやNTTコミュニケーションズなどが自社のIaaS基盤向けのデータセンターでISO 20000を取得している。
システムやデータを外部に預けることになるIaaSでは、データ保全も重要な要素であり、各社とも工夫を凝らす。例えば日本ユニシスはIaaS 「ICTホスティングサービス」の基盤となるデータセンターを、国内で東京と大阪、北海道の3拠点で運用。それぞれのデータセンターは専用線で互いに接続しており、データを相互バックアップする仕組みを構築している。
■熱循環や耐荷重の工夫でサーバーの過密集約に対処
IaaSを積極展開する上で、新たな問題として浮上しているのが床耐荷重の改善だ。
データセンターでは仮想化技術のポテンシャルを最大限に生かすため、大量のサーバーを集約している。昨今の主流はラックマウント型サーバーやブレードサーバーだ。これらは1台のラックやエンクロージャに多くのサーバーを積載する。小さな面積に多くのサーバーを積み上げることができるため、設置スペースを大幅に低減できる。
ただしブレードサーバーやラックマウント型サーバーの場合、その積載数によっては総重量が数百kgに達し、これまでの床耐荷重の制限を超えてしまうことがあるのだ。この問題に対し事業者はデータセンターの床耐荷重の増加に余念がない。
例えば、ビットアイルが2008年11月に開設し、ITコアが IaaS「GrowServer2010」の稼働基盤として利用する「第4データセンター」は、床耐荷重が1平米あたり2000kgに達する。これまでの主流が600kg程度だったことを考えると劇的な変化だ。
サーバーが集約することによるもう1つの課題は、局所的な高温部分「ホットスポット」の発生だ。この熱を解消するには、データセンター全体を冷却する従来の空調では非効率だし限界もある。サーバーの近くに空調機器を設置して、特定の空間のみを集中的に冷却する「局所冷却」の採用が進んでいる。
NTT データが自社のIaaS「BizXaaS」の基盤として利用するデータセンターでは、データセンター内のサーバーラック群の1区画をケースで囲い、ケース内に密閉した部分のみに冷気を流して集中的に冷却。排気をケース外に排出することで冷気と暖気の混合を避ける「アイルキャッピング」(開発:NTTファシリティーズ)を採用している。
【図3-1(写真)】NTTデータのデータセンター内にある「アイルキャッピング」(開発:NTTファシリティーズ)の内部。給気と排気を物理的に分析して空調の効率化を図る |
欧米に比べて国土が狭く、ビル密集地に建設されるケースが多い国内のデータセンターだが、そうしたハンディキャップを跳ね返すだけの工夫を随所に盛り込んでいる。
【図3-2(写真)】NTTデータのデータセンター内で、24時間365日システムを監視する「オペレーションルーム」。運用や監視をシステム化し、監視業務を効率化している |