Infostand海外ITトピックス

ソーシャル写真戦争勃発 Instagram vs Twitter対立の行方

 InstagramとTwitterの間で起こった“写真戦争”が、年の瀬の米国で大きな話題となっている。それぞれソーシャル写真アプリ、マイクロブログでトップの両社が、かつての協調関係を解消し、写真編集サービスのユーザーを奪い合うという構図だ。12月10日前後にめまぐるしい動きがあった。

「フォトフィルター」のInstagramが宣戦布告

 Instagramは「フォトフィルター」と呼ばれるシンプルなスマートフォンアプリを使って写真の加工・共有ができるソーシャルサービスだ。2010年10月にサービスを開始して急成長。今年4月に、Facebookが10億ドルで買収すると発表して、Facebook傘下となった。現在、ユーザーは1億を超えるという。

 InstagramとTwitterの戦いが一挙に燃え上がったのは、今月初め、ユーザーのツイート内に表示されるInstagramの写真がトリミングされた奇妙なものとなったことからだ。突然のことで、ユーザーは騒然となり、両社の戦いは広く知られることになった。

 Twitterは5日付のブログで、「InstagramがTwitterとの『Twitter Cards』写真統合を無効にしたため、ユーザーの写真がトリミングされている」と報告した。Twitter Cardは、Twitterが外部サービス向けに提供する機能で、ツイートの中に写真や動画、タイトルとサムネイルなどを表示できるものだ。

 InstagramのCEO Kevin Systrom氏は、同じ5日、パリで開かれていたWebテクノロジーイベント「LeWeb 12」に出席していた。the Vergeによると、Systrom氏は、この場でTwitter Cardsの無効化についてユーザーに謝罪し、よりよいユーザーエクスペリエンスのためやったことだと強調した。

 そして、11月に自社サイト内に開設したばかりのユーザープロファイルページで、投稿した写真を見せるようにしたいと説明した。実際、9日にはInstagramの写真は完全にTwitterから姿を消した。他のソーシャルサービスでは、こうしたことは起こっておらず、誰もが、両社が本格的戦争状態に入ったのだと見ている。

株式公開後のFacebookの方針

 このところ、両社の関係はぎくしゃくしていた。Twitterは6月に、サードパーティーのAPI利用ガイドラインを厳格にすると発表し、翌7月にはInstagramからの友だち検索を遮断した。最近は、Twitterが、Instagram風の自社サービスを計画している、とAllThingsDなどが報じ、両社の決別はいよいよ濃厚になっていた。

 背景には、Instagramの親会社となったFacebookの動向がある。Facebook CEOのMark Zuckerberg氏は、今年4月の買収発表時に「他のソーシャルサービスに投稿するといった機能は維持していきたい」とInstagramをFacebook本体からは切り離したまま運営している方針を自分のページで述べていた。

 しかし、Zuckerberg氏は最近の株価低迷からの株主の批判を受け対応を迫られている。その施策の1つとみられるのが、11月に発表したサイトガバナンスのプロセス変更だ。改訂案には、Instagramを含むアフィリエートとデータを共有できるという項目が盛り込まれている。データを統合することで、Facebook+Instagramはターゲット広告の精度を高め、Facebookは苦手なモバイル分野への足がかりとすることができる。現在、Instagramは広告を入れていない。

 Twitter Cards事件でもメディアの関心はFacebookの方針との関係に集まった。Systrom氏は「これは、われわれが買収されたことの結果ではない」と否定したが、Facebookの意向が反映されているとの見方は強い。

 前後して、Facebookは近くInstagramのマネタイズに取りかかる考えを明らかにしている。同社のグローバル・マーケティングソリューションズのヴァイスプレジデント、Carolyn Everson氏はBusiness Insiderのインタビューに答え、「最終的には、Instagramをマネタイズする方法を見つけるだろう。いつかは言えないが、起こりつつある」と述べている。

 そして考えられる手っ取り早い方法が広告だ。CNETなどは、投資銀行Sterne Ageeの「(Instagramは)今後3年間に、5億ドルから7億ドルの広告収入をあげうる」とのレポートを紹介している。

ビッグプレーヤーたちの覇権争い

 Instagramの写真が消えた翌日の12月10日、Twitterは自社フォトフィルターサービスを正式に発表した。8種類のフィルターやトリミング機能を備えたもので、Instagramによく似ている。ニューヨークの画像加工ツールベンダー、Aviaryが開発したものである。

 また同じ日にInstagramもiOS版アプリの新バージョンをリリース。こちらは新規を含む19種類のフィルターを備え、地図上への表示機能などを追加した。また、位置情報サービスのFoursquareとの連携ボタンも搭載した。

 続いてこの戦いに、Yahoo!も名乗りを上げた。同社傘下の写真共有サービスFlickrは12日、新版iOSアプリを投入した。15種類のフィルターを持った全面刷新でバージョンは2.0となる

 こうした、Instagramライクなフォトフィルターの戦いは、ソーシャル写真が呼び込むユーザーの争奪戦にほかならない。

 各社の新機能をレビューしたArs Technicaは、TwitterとFlickrの新アプリは「あまりに未熟。また既に遅すぎる」と評価する。それによると、Twitterのアプリは概して不十分でInstagramのユーザーを奪うとは思えない。Flickrの新しいブラウジングとアップロードの機能は、ユーザーにアピールするが、多くは、かつてInstagramに後れをとって、ユーザーを奪われた部分に思えるという。

 「厳しく言えば、多くのiOSアプリが、さまざまな編集・フィルター機能を持って提供されており、それもTwitter、Flickr、あるいはその両方に投稿できる」「TwitterとFlickrの両者とも、Instagramのスタイルを表面的にまねるのではなく、それぞれ自分たちの強みを再考すべきだろう」とArs Technicaは結んでいる。

 モバイルアプリ、マイクロブログ、大手ポータル、それぞれ強力な足場をもとに、拡大をうかがう――。写真戦争は、各社の協力関係を変え、新しい構図を作り出すかもしれない。

(岡田陽子=Infostand)