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リードするAWS、追うライバルたち 2012年クラウド俯瞰

 クラウドコンピューティングは黎明期を脱し、企業の情報システムの一選択肢として広く認められるようになった。市場は、AmazonのAmazon Web Services(AWS)が切り開いてきたが、これを追うかっこうで、対抗ソリューションも大きく進展している。最近のクラウドベンダーの動きを、AWSを軸に見てゆく。

リードを固めようとするAWS

 クラウド市場は6年前に進出したAWSが定義してきたと言ってよいだろう。「Amazon EC2」「Amazon S3」「Amazon EBS」など幅広いサービスをそろえ、コンピューティング、ストレージ、ネットワーク、データベース、負荷分散、アプリケーション開発プラットフォームなど、すべてがクラウド経由で利用できる。

 AWSのユーザーはベンチャー企業が中心だが、BestBuy、Netflix、Pinterestなどの大手も名を連ねている。Netflixは自社開発の「Chaos Monkey」「Chaos Gorilla」などAWS向けの拡張ツールをオープンソースで公開するなどして、エコシステムも生まれている。

 AWSは11月末、米国で初のユーザーカンファレンス「AWS re: Invent」を開催した。会期中、既存のデータソースから容易に移行できるデータワークフロー構築のための「AWS Data Pipeline」など新サービスを発表。Amazon S3の値下げも発表した。ここでAWSは毎秒83万5000件のリクエストを処理するAmazon S3など自社サービスの人気ぶりを誇示しながら、セキュリティや障害対策、ベストプラクティスなどを共有したという。

 AmazonのCEO兼創業者、Jeff Bezos氏は、世界約60カ国から参加した6000人の開発者の前で基調講演を行い、Androidタブレット「Kindle Fire」とAWSの事業を比較した。Kindleが、ハードウェアではなく、その上で利用するコンテンツの販売を目的にしているのと同様、「AWSも利用量に応じて料金を払うというハイボリューム・低マージンのビジネスという点で似ている」と狙いを説明した。

 AWSがクラウドでトップの地位にあることは、各メディアも認めるところだ。例えばクラウド専用メディアサイトのTalkin' Cloudが発表した2012年度版のクラウドサービスプロバイダー(CSP)でAWSは1位に輝いた。ベンダー動向を分析したNetworkWorldも、「(AWSが)IaaSクラウドコンピューティングにおける市場リーダーという点で、同意しない人はいないだろう」と持ち上げている。

 NetworkWorldは最近の進展として、(ベンチャー中心の顧客層からの拡大としての)エンタープライズおよびエンタープライズ開発者への注力と提携の2つを取り上げる。

 エンタープライズではデータを長期間保管したい企業向けの「Amazon Glacier」のローンチ、開発プラットフォームEC2の強化や2月に発表したアプリ自動化・ワークフローの「Simple WorkFlow Service(SWF)」などを紹介。提携では、プライベートクラウドのEucalyptusとの提携を挙げた。Eucalyptusと組むことで、ユーザーはパブリックとプライベートを組み合わせるハイブリッドクラウドを展開できるようになる。なお、これにはOpenStackに対抗する意味合いもあるとされる。

価格で対抗するGoogle、オープンソースを切り札とするRackSpace

 そのAWSに対し、各社が対抗サービスやソリューションを提供している。特に今年後半に注目されたのはRackSpace Hostingだ。RackSpaceは2010年、米航空宇宙局(NASA)と共同でオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアOpenStackプロジェクトをスタートさせたベンダーだ。今年に入って非営利団体のOpenStack Foundationを立ち上げ、主導権を委譲した。中立組織とすることで参加を募り、サーバーOSでのLinuxのような一大勢力にしようという狙いだ。

 実際、OpenStackは、Red Hat、「Ubuntu」のCanonical、SUSEなどのオープンソース陣営の支持を取り付けているほか、Hewlett-Packard、IBM、Dellなどのサーバーベンダーも支援している。RackSpaceは8月に、OpenStackを土台とした初の大型パブリッククラウド「Cloud Database」(データベースサービス)、それに「Cloud Servers」(サーバー仮想化サービス)を発表した。

 AWS対抗にあたって最大の売りはオープンソースを基盤としていることで、AWSでのロックインを懸念する企業ユーザーにアピールする。RackSpaceをAWSの有力な対抗馬とするNetworkWorldは「Amazonの規模とキャパシティで対抗できる」と評価する。

 また、ホスティング事業で築いたエンタープライズ顧客との関係やノウハウも有利となりそうだ。Forresterのアナリスト、Dave Bartonelli氏は「Amazonがサービスの規模、コスト、幅広いラインアップで優れているのに対し、RackSpaceはサポートを強みとする」と述べ、エンタープライズにとっての安全な選択肢を目指していると分析している。

 Talkin' Cloudのランキングでは、RackSpaceはAWSに次いで2位につけている。OpenStackベースのパブリッククラウドとしては、HPが12月初めにベータから正式製品に格上げし、OpenStack機運を盛り上げようとしている。

 こうしたRackSpace/OpenStack側の動きに対し、AWSの幹部は「標準は将来大切になるが、まだ時期尚早。顧客は(標準化よりも)イノベーションと機能に関心を持っている」とZDNetのインタビューでコメントしている。

 Googleの最近の動きも積極的だ。各地に持つデータセンターを強みに「Google App Engine」「Google Compute Engine」などをそろえ、アプリ開発とホスティングからIaaSにも展開している。AWSがS3値下げを発表した11月26日、Googleはストレージサービスの「Google Cloud Storage」の価格を約20%引き下げ、3日後の29日には追加で10%の値下げを発表した。合計で30%の値下げとなる。一方のAWSのS3の値下げ率は24~27%だという。Googleは値下げに加え、AmazonのGlacierに対抗するサービス「Durable Reduced Availability Storage」も発表している。

 NetworkWorldは、RackSpaceとGoogleの2社に加え、Microsoftにもスポットを当てている。Microsoftは「Windows Azure」を軸にクラウド戦略を進めており、既存のバックエンドでのシェアを最大限活用する戦略だ。2012年には“クラウドOS”として売り込む「Windows Server 2012」「Windows System Server」のリリースにより、プライベートクラウドとハイブリッドクラウドへの道筋を顧客に示した。

「複雑」「意味なし」――SLAに批判

 このように種類が増え、活気づくクラウドサービスに、GartnerのアナリストLydia Leong氏は重要な警鐘を鳴らす。Leong氏は12月5日付のブログ記事で、IaaSのサービス品質保証(SLA)を取り上げ、「意味がない」とベンダーの姿勢を非難した。具体的に取り上げたのはAWSとHPの2社だ。

 それによると、両社は、いずれも分かりにくい複雑なSLA契約条件を持ち、インスタンスのアベイラビリティや“Availability Zone(AZ)”とするゾーン(データセンター)のアベイラビリティで定義しているのではなく、リージョン(地域)のアベイラビリティを基準としているという。

 リージョン内にある複数のAZが利用できなくなったときに初めてアベイラビリティがないとみなされるため、顧客は複数のAZで実装しなければならず、AWSの場合は最低2カ所、HPの場合は3カ所以上を利用するよう設計する必要がある。

 これは顧客にとってはコスト高を意味する。Leong氏はAWSに対し、「“主要なクラウドIaaSプロバイダーの中で最悪のSLA”という信頼のないステータス」と批判。HPに至っては、「(AWS)を上回る最悪さ」とばっさり切った。

 実際、SLAの重要さはあらためて言うまでもないだろう。AWSでは2年間で大型の障害が3回も発生しているのだ。「(SLAは)AWSに投資しようとする企業の意向に悪影響を与える可能性がある」とTechnology Business Researcherのアナリスト、Jilian Mirandi氏はNetworkWorldに語っている。SLAは企業ユーザーの判断の重要な要素である。各社がこれをどう改善していくかが、クラウドの受け入れを左右する。今後のベンダーの改善に期待したい。IaaS分野の競争は来年、さらに激しくなりそうだ。

(岡田陽子=Infostand)