DVDレンタルは捨てる? 事業分割するNetflixに非難の嵐


 オンラインDVDレンタルのNetflixが、DVDレンタルとストリーミングの事業を分割すると発表した。9月18日の同社の発表によると、DVDレンタル事業は「Qwikster」という名前で再スタートし、Netflixブランドはストリーミング事業が引き継ぐ。突然の分社計画に、顧客と市場からはブーイングの嵐が巻き起こった。「AOLの二の舞を避けたかった」というNetflixの決断なのだが――。

「ストリーミングこそが将来」

 Netflixは1999年、オンラインDVDレンタルサービスとしてスタートした。借りたいDVDを指定すれば、郵便で届くサービスで、月額9.99ドルなどの定額借り放題の便利さが受けてユーザーを獲得。2002年にはIPOを果たした。さらに2007年には、すべてのプロセスをデジタル化したストリーミングサービスをスタート。追加料金なしで利用できることもあり、これも人気に拍車をかけた。

 だが、最初は“おまけ”だったストリーミングの利用が増えるとともに、Netflixのトラフィックが米国のネットトラフィックを占有するようになり、ISPから苦情が出始める。Netflixは2011年7月、技術インフラ整備などを理由として、ストリーミングに対して別途月額7.99ドルを課金することを決めた(同時に、DVDレンタル月額を引き下げた)。しかし、両方のサービスを利用する人にとっては約6ドルの値上げとなったため、ユーザーは反発。同社は、値上げのためユーザーが7月から2カ月で100万人減少するとの見通しを示していた。

 そして、今回の事業分割だ。共同設立者兼CEOのReed Hastings氏は、顧客あての電子メールで「私は混乱させてしまった。この場で説明したい」として、事業を分割する背景を説明している。

 Hastings氏は、「ストリーミングこそが将来」であり、特徴やコスト構造が異なるため、「2つの事業はそれぞれ独立して運営していく必要がある」と強調した。さらに「ダイアルアップで成功したAOLなど、あることで成功した企業は、既存ビジネスを損なうことを恐れるためにユーザーが求める新しいサービスでは成功できなかった」と述べ、ストリーミングを開始した2007年から、この事態を恐れてきたのだと心情を吐露した。

 Hastings氏はこのメールで、「(Netflixが)急速に変化するときに、顧客にしっかり伝える必要があった。私は、ここで誤ちを犯した」と謝罪している。同時に、QwiksterではDVDに加えてビデオゲームレンタルも開始すること、Netflixではコンテンツを充実させることなども説明してユーザーに頭を下げた。一方で、主にコミュニケーションの問題について謝罪し、価格変更や分割について明確におわびはしていない。

「顧客を失う愚かな行為」か「先を見越した決断」か

 この発表にユーザーは怒りを爆発させた。Hastings氏のメールを載せた公式ブログには、約2万7000のコメントが並び、多くは分割は許せないと憤った。「長い間の忠実なユーザー」という人物は、7月の値上げではNetflixの決断を容認したが、今回の事業分割によって、2つのWebサイトを訪問しなければならなくなる、と不便を訴えた。「誤った判断が続いて、Netflixは顧客を失っている。今回の事業分割は顧客との関係を損なうものだ」と非難する。

 アナリストら業界内でも否定的な意見が多い。Pacifit Crest SecuritiesのAndy Hargreaves氏は「価格変更に続く事業分割と新ブランドで、顧客離れはさらに進む」とAP通信にコメント。Forbesに寄稿するE.D. Kain氏は、7月の値上げは擁護したが、2つのサイトを使うことは受け入れられないとした上で、分割を「取り返しのつかない、まぬけな動き」と酷評した。コンサルタントService Quality Instituteの社長、John Tschohl氏は、顧客関係という点からHastings氏の態度を非難。「顧客の声を真摯に聞いているとは思えない」と述べている。

 そんな中に混ざって、一定の理解を示す声もある。US Newsは「Netflixは顧客よりもスマートだ」として、Hastings氏の判断を評価。この措置は、ストリーミングが主流となってゆく2020年、2030年を見据えてのものであり、そのころには、Qwiksterは過去のものとなっているだろうと論評した。株価分析のTrefisは、Hastings氏はDVDレンタルの将来性はないと考えており、分割は妥当な判断だとForbes.comに寄稿した。Trefisは、「分割によってリソースを適切に配分できる」「投資家は2つの事業の価値を別々に評価できる」としたうえで、それぞれのサービスが別の名称を持つことでマーケティング面でもメリットがあるとみる。

 Columbia Business SchoolのBrett Gordon教授(マーケティング論)も、Hastings氏はDVDレンタル事業を段階的に葬るつもりで、自分たちがしていることを十分理解した上での判断だと述べた。Netflixの株主でもあるSouth Texas Money ManagementのJeanie Wyatt氏は「成長に伴う痛み。この経験は、PRという面で教訓になっただろう」と言う。

ライバルとの戦い、準備の不備……

 とにかく、Netflixはユーザーの不満が渦巻く中、難局を乗り切らねばならない。だが、見通しは厳しそうだ。

 ストリーミングでは、AmazonやHulu.comなどライバルとの激しい競争がある。中でも、有料Prime会員向けのストリーミングサービスを2月にスタートしたAmazonは大きな脅威となる。Primeは年間79ドルで、月単位に直すと6ドル台。Netflixよりも安い。Amazonの広範囲なサービスとブランド力にどうやって対抗していくかだが、Forbes.comは、Amazonが発表するといわれているタブレットもNetflixを脅かすと見る。

 コンテンツ側でも、Disney映画を多く持つStarzとの契約が切れた後、再交渉に失敗しており、課題となっている。ユーザーからも「まずい決断を下しただけでなく、80年代の映画しか見られないなんて」(Netflix公式ブログへのコメントから)など、コンテンツに対する不満の声も出ている。

 また、Hastings氏が「できるだけ長く存続させたい」と願うQwiksterにしても、Webサイトのドメインは確保したが、Twitterで同名のアカウントを利用する人が先にいたことが分かり、マーケティング的失策とたたかれている。「あらゆる企業がソーシャルメディアを展開する時代」であり、ローンチ前にTwitterドメインを確保してないのは深刻なミスだ、とEuropean Domain CentreのディレクターはBBCに語っている。

 Netflixがストリーミングサービスブランドへとスムーズに転身できるのか。これには、技術インフラ、コンテンツ、マーケティング、端末などのエコシステムとさまざまな要因がからんでくる。苦しいスタートであることは否めない。

関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2011/9/26 11:18