Microsoft vs Google全面戦争? Google Chrome OSの衝撃度


 Googleの突然の発表以来、IT業界は「Google Chrome OS」の話題で持ちきりだ。長らくうわさのあった“GoogleのOS”が現実のものとなり、いよいよMicrosoftの牙城であるパソコンOSに進出する。今後の両社の戦いはどう展開してゆくのか。メディアの見方をチェックしてみよう。

 Chrome OSについての情報は決して多くはない。公式な情報は、主に、7月7日のブログ記事と翌日のFAQ、それに16日の業績発表会の席での同社CEOのEric Schmidt氏が行ったコメントだけだ。

 明確に述べられたことといえば、軽量、Linuxカーネルを採用、オープンソース、Webブラウザ「Google Chrome」との密な統合、x86とARMアーキテクチャに対応し、当初ネットブックをターゲットとする――ということぐらいだ。Schmidt氏によると、OSは無料だが配布モデルは検討中という。

 技術情報もビジネス情報も現時点ではほとんどない。スケジュールは、年内にコードを公開し、実際に登場するのは2010年後半という。2007年11月のAndroid発表のとき、1週間後にSDKを提供したのとは対照的である。

 だが、“GoogleのOS”への注目度はきわめて高く、メディアは数少ない情報をもとに、想像、推測、分析力を酷使して記事を量産している。これらの記事では、Microsoftとの戦いの行方についての見方が、真っ二つに分かれている。

 まずは失敗の予想。OS市場はMicrosoftが10年以上にわたって約90%のシェアを維持してきた市場だ。あのGoogleといえども、勝てないとみる者は多い。

 BBCのテクノロジーブログは「顧客は慣れ親しんだWindowsを求めている」というネットブックメーカーの幹部の言葉を紹介。「(Chrome OSは)当初いわれたほどの影響はなく、ネットブックというセグメントに限定してみても、成功が保証されているというには、ほど遠い状況」と分析する。

 Chrome OSの強みと弱みを冷静に分析したTechRepublicの記事は、タイミングのまずさ、すなわち前評判が高いMicrosoftの次期OS「Windows 7」のあとにリリースされる点を指摘している。

 「Google史上最悪の失敗」とこき下ろすのは、ComputerWorldのPreston Gralla氏だ。周辺機器、アプリケーションはもちろん、どのハードウェアでも動くという“不可能なタスク”を実現しているWindowsへの対抗は難しく、OSを提供するのであれば顧客サポートも必要となる。これらは、Googleがこれまでにやったことがない大規模な作業である、という理由からだ。

 また、技術的課題のほか、ビジネスプランが明確でないことを挙げ、Chrome OSは「Googleブランドを汚すもので、明確なメリットがないプロジェクトに貴重なリソースを費やすことになる」と予想。その後資金難から新しいプロジェクトに着手できなくなるとまで予言する。さらにその一方で、Microsoftにとっては、GoogleがOSの開発に気を取られている間に、検索エンジン「Bing」やオンライン版Officeの「Office Web」で競合を優位に展開できるまたとないチャンスとなるという。

 eWeekは、Gralla氏とまったく逆の視点から、Microsoftは検索エンジンに気を取られるのではなく、主力のOSとOfficeをしっかり固めるべきだ、としている。

 Chrome OSの成功を予想するのは、InformationWeekだ。OfficeとOSの最強コンビネーションで企業向けには安定した地位を構築したMicrosoftだが、消費者向けでは“不要な機能を多く含む割高感のあるOS”というイメージがある。機能を削ぎ落とし、ユーザーが主として利用する電子メールとWebのためのOSには、潜在ニーズがあるという。Googleはここを狙って、一定の成功を収めることができると分析する。

 また調査会社のGartnerは、SOA、サービス主導型などの観点から、Chrome OSのWeb中心という特徴を評価し、「ネットワークベース、クラウドコンピューティングの価値を広める取り組み」と分析する。企業に対しては、すぐには影響はないとしながらも、自宅で利用する従業員に備えるようアドバイスしている。「Web向けOS」で、対応するデスクトップアプリケーションの少なさがデメリットにならないという点では、CNET NewsのStephen Shankland氏の評価とも一致している。

 EarthwebはLinuxの観点から分析。Linux OSは、すでにUbuntuなどがあるが、Chrome OSはGoogleというブランドで訴求効果を持つとみる。ただし、その代わり、Chrome OSが失敗すれば、デスクトップLinux全体の失敗になり、「Chrome OSはデスクトップLinuxの最後のチャンスだ」(Adrian Kingsley-Hughes氏)ともいう。

 The Wall Street Journal紙オピニオン欄のHolman W. Jenkins, Jr.氏は「ハイテク業界の2つの冷戦」(Techdom’s Two Cold Wars)という記事で、MicrosoftとGoogleの関係を冷戦時代の米ソの関係になぞらえ、実は、互いに「リスクを負ってまで相手のコア事業に挑戦する気はないのだ」と分析する。

 同氏によると、両社は、それぞれの領域でうまくやっており、互いのテリトリーに進出し合うのは「主に防衛的なもので、何かを獲得することよりも失うことの恐怖に突き動かされている」ためだという。そして双方の株主も、両社の間でコストのかからない小競り合いがあって、共存してゆくことを望んでいるという。既に巨大となった両社の関係は、その強力さゆえに戦争を抑止した超大国の関係に似ているというわけだ。

 CNETのブロガーMatt Asay氏(Alfresco事業開発担当副社長)は、この記事を引きながら、両社の真のチャンスは既存市場の奪い合いではなく、新しい市場の開拓にあると説く。ただし、それがどんな市場なのかは、まだ見えていないようだ。



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(岡田陽子=Infostand)
2009/7/27 08:57