“新聞の敵”Google-ニュースアグリゲーションをめぐる攻防



 またしても著作権にからむGoogleの戦いが、クローズアップされている。今月になって、大手の新聞社と通信社が次々にGoogleを代表とするニュースアグリゲーションサービスを攻撃。“ただ乗り”批判が再燃しているのだ。検索サービスと新聞社の対立は新しい話ではないが、今回は不況下であえぐ新聞社側の事情もあり、その声は悲鳴にも似ている。


 口火を切ったのは、News Corp.のCEOで“メディア王”のRupert Murdoch氏だ。Murdoch氏は4月2日、米国で開かれた業界イベント「Cable Show」で講演し、「Googleがわれわれの著作権を盗むのをこのままにしておいてよいのか」と不満を露わにした。Googleがニュースサイトのコンテンツを収集・集約して公開しているニュースアグリゲーションサービス「Google News」への批判である。これに先立つ3月31日には、英Guardian紙がアグリゲーションサービスを調査するよう政府に求めている。

 これに、The Wall Street Journal(WSJ)やAssociated Press(AP)も加わる。WSJのRober Thomson編集長はオーストラリアの新聞に答えて、「ある種のWebサイトは、インターネットの消化器官の寄生虫だ」と激しく批判。AP会長のDean Singleton氏も、年次総会の場で「誤って導かれた法理論の下に、他者がわれわれの記事をもっていくのをこれ以上黙認できない」「怒りも限界だ」と爆発した。

 APは6日、不当にコンテンツを利用するオンラインアグリゲーションなどに対しては法的措置をとることと、自社コンテンツを追跡するシステムを開発して摘発を強化する計画を発表した。

 そして翌7日には、GoogleのCEO、Eric Schmidt氏が、米新聞協会(NAA)のイベントで、居並ぶ新聞社の幹部たちを前に講演した。

 ここでSchmidt氏は「読者が何を望んでいるのかを考えるべきだ」と訴え、新聞業界のビジネスモデルは「広告、」「小額決済」「オンライン購読」の3つになるとの予想を示した。だが、「多くの人が無料モデルを好んでいるのが現実だ。だから、好むと好まざるとにかかわらず、広告事業を扱うことになる」と述べた。


 時を同じくして、Googleの法務担当者、Alexander Macgillivray氏もブログで新聞社に反論。Googleは新聞社のWebサイトにユーザーを誘導しており、また「AdSense」などのサービスを通じても支援している、と強調した。

 これには他のニュースアグリゲーターも同調する。CNET Newsによると、代表的なニュースアグリゲーターであるTechmemeの創業者Gabe Rivera氏は「コンテンツの宣伝をしている」「リンクを張られることを望むWebパブリッシャーもいる」と新聞社側に反論している。

 こうした主張を裏付ける数字もある。ニュース・メディアサイトへのトラフィックについてのHitWiseの分析によると、21.63%が他のニュース・メディアサイト、21.61%が検索エンジン、13.09%がポータルから来ているという。「(ニュースアグリゲーターなどは)ユーザーを自社サイトにとどまらせるのではなく、ニュースサイトにきちんと送り込んでいる」(HitWise)というものである。


 だが、新聞社が今、ニュースアグリゲーションサービスを攻撃する背景には、経営環境の悪化がある。紙メディアの凋落は著しく、経営危機に陥る新聞社が相次いでいるのだ

 4月4日には、ボストンの老舗新聞社「Boston Globe」(New York Times傘下)が1面で、休刊の危機にあることを明らかにした。ほかにも、昨年末には「Chicago Tribune」や「Los Angeles Times」の発行元であるTribuneが破産法の適用を申請。Hearst系の「San Francisco Chronicle」も休刊の危機を伝えられた。

 新聞社がオンライン時代にビジネスモデルを確立する前に、GoogleやYahoo!がアグリゲーションやポータルで、いちはやく収益構造を作ってしまった――。こうした新聞側の懸念をNAAの調査報告が裏付けている。10代の若者の多くが有料記事を避け、GoogleやYahoo!などのオンラインサービスでニュースをチェックしているというものである。

 業界アナリストのKen Doctor氏は、「常に“フェアユース(fair use)”のまわりでの緊張があった」とBBCに語っている。そして「本当の問題は、新聞社がすべてのコンテンツをGoogleのためにつくり、Googleが一番多くの収益を取るのが、フェアなのかということだ」「われわれが取り組むべきなのは“フェア・シェア”(公平な分配)である」と述べている。そして、Googleは、これまで構築した仕組みを見直すべき時を迎えたとの見解を示した。

 これに対し、GoogleのMacgillivray氏は、自社のサービスは“フェアユース”であると返す。米国著作権法では、スニペットやリンクの表示、インデックスなどによるコンテンツの表示は認められている、と主張。さらに、ニュースサイト側は、robots.txtやメタタグを利用して自社コンテンツが検索サービスにインデックスされないようすることもできる、と述べている。

 だが、新聞社側は、自分たちが得るべき収入をGoogleに奪われていると考えており、この説明には納得していない。これまで「敵対」と「共存」の微妙なバランスの上に成り立っていた新聞と検索サービスの関係は、不況で崩れてしまった。今後はフェアユースにとどまらない、さまざまな議論が必要だろう。

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(岡田陽子=Infostand)
2009/4/20 09:05