クラウド標準に嵐? Open Cloud Manifestoをめぐる対応の違い



 「クラウドをオープンに」―。誰も異論がないだろうと思われたこのスローガンが、スタート前から問題に突き当たった。Microsoftのクラウドサービス担当者が、まだ発表されてもいないクラウド標準化の取り組みを批判。ふたを開けてみると、Microsoftだけでなく、入っているべき重要なメンバーが抜けていることが分かった。彼らはなぜ参加しないのだろうか。


 未発表の取り組みをいちはやく批判したのは、Microsoftプラットフォーム製品管理部門上級ディレクターのSteven Martin氏だ。3月26日のMSDNブログへの投稿で、非公式に見たという最新のクラウド標準化についてのドキュメント草案を取り上げた。同氏はこれについて「オープン性が欠けていることに失望し」「1社あるいは数社の企業がクラウドコンピューティングの発展の支配を狙っているかに見える」と述べている。

 この取り組み「Open Cloud Manifesto」は4日後の3月30日にベールを脱ぐ。IBM、Cisco Systems、Sun Microsystemsなど約40の企業・団体が支持してWebサイトを立ち上げ、6ページのマニフェスト(宣言文)を公開。選択、柔軟性、オープン性の保証を基本として、顧客の囲い込みの禁止、顧客ニーズの重視などベンダーが順守すべき6項目の原則などを掲げた。中心となっているのはIBMで、組織を作るのではなく、「オープンなクラウドについてのディスカッションを呼びかける」と位置づけているという。

 ただし、予想された通り、Microsoftは参加していない。そればかりか、この分野で先行するAmazonやGoogleの名も入っていなかった。BBCによると、Googleは当初は参加する意向を持っていたが、撤回したという。

 ほかにも、前日の3月29日、「Cloud Computing Interoperability Forum」(CCIF)の“扇動者”を自認し、Open Cloud Manifestoの草案作成にも参加したというReuven Cohen氏(Enomalyの創業者兼CTO)が、CCIFの不参加をメールで発表している。


 では、なぜ、彼らは不参加を決めたのだろう。

 Cohen氏は、マニフェストの「内容や、オープンなクラウドなどの原則は支持する」としたうえで、CCIFでは「オープン性と公正なプロセスを絶対としており、このドキュメントをCCIFとして支持することはできない」と説明。マニフェスト作成のプロセス面の問題を指摘している。(Cohen氏が率いるEnomalyはマニフェストを支持している)。

 Amazonは、「他の標準化と同様に、レビューする」としながら、自社の実績を強調。同社は3年以上前から「Amazon Web Services」を複数のプラットフォーム、プログラミング言語、OSで利用可能にしているとZDnetに述べている。

 また、Googleは「われわれはマニフェストのメンバーではないが、クラウドコンピューティングを強く支持し」「この分野でのIBMのリーダーシップとコミットを高く評価している」とGigaOMにコメント。否定はしないものの、一定の距離を置く姿勢を見せている。

 こうした先行組の対応についてThe Registerは、MicrosoftとGoogleは開発プラットフォームを握り、AmazonはAPIを公開していないという点で、オープン性を欠いていると指摘。ユーザーの囲い込みとまではいかなくとも、消極的な抵抗があるとの見方を示している。


 Open Cloud Manifestoをめぐる状況は混沌としている。だが、アナリストたちは驚いてはいない。RedMonkのアナリスト、Steven O'Grady氏は「標準化の初期段階で、一部の企業によって作業が進められるのはよくあること」「早期段階でこの問題(相互運用性)が理解され、解決に向かえば、顧客やベンダーへのメリットとなる」と言う。また、Hurwitz&Associatesのアナリスト、Judith Hurwitz氏は「クラウドが成熟する前のいま、こうした議論を行うことは非常に重要である」と歓迎する。

 一方、標準化を目指す取り組み自体が、標準となるべき技術の受け入れを遅らせるという逆説を指摘する声もある。Liberty Allianceに参画した経験を持つEric Norlin氏は、クラウド業界サイトのCloudAveで、「標準プロセスが形式化すれば、受け入れを遅らせることになる」と警告する。標準化プロセスを知らされた顧客が、様子見を選ぶようになるからだという。

 Norlin氏はそのうえで、RSSの成功の例を挙げ、RSSがうまく広まったのは「標準化されたからではなく、受け入れられたから」と解説する。「“まず採用、次にプロセスの形成化”によって、真の『標準』が生まれる」(Norlin氏)というのである――。

 コンピュータ業界の歴史は、覇権争いと囲い込みの歴史でもある。今回の騒ぎには、またぞろ、クラウドでも同じことを繰り返していると見る向きも多い。一方、議論が起こって標準化への注目が集まったことを評価する声も出ている。これを機に、より多くの顧客の声が、クラウド標準に取り込まれるのなら、歓迎すべきことだろう。

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(岡田陽子=Infostand)
2009/4/6 09:03