「IBMのSun買収」報道-業界大再編の予感



 IBMとSun Microsystemsとの買収交渉の報道は、業界に大きな衝撃を与えた。The Wall Street Journal(WSJ)の第一報以来、両社は沈黙を守っているが、メディアは、その経過を全力で追っている。買収、合併が日常茶飯事のIT業界でも超ド級の縁組みであり、成立すれば業界に大きな影響を与え、再編につながるという見方が強い。


 WSJが関係者の話として伝えたところでは、成立すれば、買収額はSun株の17日の終値に100%のプレミアムをつけた65億ドル以上になる見込み。Sunはここ数カ月の間、いくつかの企業に買収をオファーしており、Hewlett-Packardは、これを断ったという。Sunを買収するような最後の大物IBMが現在、交渉中というのだ。

 各メディアの報道は、苦境にあえぐSunが身売りを選んだという点で一致しているが、買収する側のIBMの狙いについては、見方が分かれている。IBMとSunは各分野でライバル関係にあり、製品も重複する。なかでも、CPU、UNIX系OS、サーバー、そしてオープンソースを中核に置いたソフトウェアラインアップなどがオーバーラップしており、IBMがSunを手に入れるメリットは分かりにくい。

 Sun側の事情はこういうことだ。1982年創業の同社は、1990年代後半に最盛期を迎えたが、ドットコムバブルの崩壊で大きな打撃を被り、いまだ決定打がないままである。

 Sunが試みた最大の建て直しは、2006年のCEO交代だ。Scott McNearly氏からバトンタッチされ、CEOに就任した当時40歳のJonathan Schwartz氏は、ソフトウェアにフォーカスして、Solaris OSやJavaのオープンソース化を積極的に進めた。2008年には、MySQLを10億ドルで買収している。

 だが、オープンソース界での地位は確立しても、それが数字には結び付かないという悩みが続く。直近の2008年第4四半期決算を見ると、Solaris SPARCやx64サーバーなどのシステム事業の売上が13億3600万ドル、ストレージ事業は5億7000万ドルであるのに対し、JavaやMySQLなどのソフトウェア事業は1億8900万ドルにとどまっている。Sunは今でも、大型システムを販売するハードウェアベンダーなのである。


 一方のIBMは、業界が軒並み沈み込むなかで業績を維持している。同社はこれまで、Javaとオープンソースを活用してソフトウェア事業を拡大しながら、ハードウェアではPC事業を中国Lenovoに、HDDを日立製作所に売却するなど製品ポートフォリオを絞り、収益性にフォーカスしてきた。2008年第4四半期決算では、ソフトウェア部門の売上高が64億ドル、システムズ&テクノロジー部門は54億ドル、グローバルサービス部門は393億ドルとなっている。

 当然、IBMのソフトウェア拡大戦略が再注目となる。Forrester Researchのアナリスト、John Rymer氏は英ITProに対し「買収の狙いはJava」とコメント。IBMにとってJavaは大きな事業となっているが、JavaをコントロールしているのはSunであり、買収することで「有益な資産となる」(Rymer氏)としている。

 Gartnerのアナリスト、David M. Smith氏も同様だ。同氏はThe New York Times紙に対し、「IBMが興味を持っている技術はJavaとSolarisで、ハードウェア技術ではない」と断言している。両社ともソフトウェア戦略では、Microsoft対抗で一致しており、IBMがSunを手にした場合は、重複する技術を取捨選択しながら統合していくと予想される。


 逆に、サーバーの強化こそが狙いとする見方もある。コモディティ化が進み、利ざやが薄くなっているサーバービジネスだが、業界には仮想化とクラウドという2つをキーワードに、次世代データセンターという新しいトレンドが生まれつつある。

 2月にIDCが発表したサーバー市場シェア(工場出荷額ベース)を見ると、IBM(36.3%)、Hewlett-Packard(29%)、Dell(10.6%)、Sun(9.3%)の順となっている。IBMとSunのシェアを単純に合算すると45.6%で半分に迫る。UNIXに限れば、あとは実質HPのみとなる。ノースキャロライナ大学法学部のAndrew Chin教授は、San Francisco Chronicle紙に「(両社が合併して)UNIXのデファクト・プラットフォームが出来上がる。これでHPを市場から追い出し、UNIXがオープンソースである利点さえも無効にするかもしれない」と語っている。なお、この点は、独禁法に抵触する可能性も指摘されている。

 過去には、メインフレームからx86サーバーへと技術トレンドが変革する中で、IBMとSunは、HPやDellと競合しながら生き抜いてきた。だが今度は、仮想化やネットワークと統合したサーバー製品を投入するCisco Systemsも加わった戦いとなる。

 WSJは、ここでIBMがサーバーメーカーとして揺るぎない地位を確保することの重要性を分析している。同紙はCiscoのサーバー進出が取り引きを後押しの要因になったとの見解を示しており、これに類する見方は多い。ただし、この点については、IntelのCEO、Paul Otellini氏は従業員向けのWebキャストで述べたように、「Ciscoの参入が関係あるとは思わない。IBMはアーキテクチャを整理・強化しようとしているのだろう」といった異論もある。

 ライバルのHPとDellをみると、HPは2008年にEDSを139億ドルで買収、サービス部門を強化している。また、業界標準と価格を強みとするDellにとって、Sun買収のうわさは好機でもあるという。CEOのMichael Dell氏は来日中の3月24日に行った会見で「(SPARCからx86への移行の流れのなか)今回のうわさで緊張感が増しており、それがチャンスになるのではないか」と述べている。

 IBMのSun買収は、ソフトウェア、ハードウェアとさまざまな角度からみなければならない。最も大事なのは、IT業界の再編の流れに着目することだ。この再編は、不況が、オープンソースや次世代データセンターなどの技術トレンドを加速させる形で進んでいる。手ごろな価格になったベンダーを体力のある大手が買収するといった動きは、さらに今後も続きそうだ。

 IBMとSunの交渉は依然、進行中と伝えられている。

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(岡田陽子=Infostand)
2009/3/30 09:16