Ciscoの勝算-サーバー市場進出の波紋



 ネットワーク機器最大手のCisco Systemsがサーバー製品を発表した。同社のサーバー市場参入のうわさは昨年末ごろから出ていたが、ついに正式発表となった。Ciscoはこれによって、IBMやHewlett-Packard(HP)の長年のテリトリーであるサーバー市場に挑む。これまで提携関係にあったベンダーを敵に回すリスクを背負うことになるが、勝算はどうなのだろう―。


 Ciscoのサーバー製品「Cisco Unified Computing System」(UCS)は、Intelの次世代プロセッサ「Nehalem」をベースとするブレードサーバーを中心に、ネットワーク、仮想化、ストレージアクセスを一体化。リソースを一元的に管理するソフトウェアをセットにしたデータセンターシステムだ。「統合、簡素化、拡大(Unify, Simplify, Amplify)」をキャッチフレーズにしている。

 ハードウェアをパッケージ化し、サーバー仮想化、ネットワークとの密な統合で、ストレージとネットワークのI/Oを強化し、仮想マシンがサーバー間をスムースに移動できる環境を実現する。これには、EMC、VMware、Microsoft、Red Hat、BMC Softwareなどと提携することで、必要な技術をそろえた。

 同社が2月に発表した第2四半期(2008年11月~2009年1月)売上高は前年同期比7.5%減の91億ドル、純利益は同27%減の15億ドル。レイオフも実施しているが、295億ドルの現金準備があり、健全な財務状態を保っている。そんな同社がサーバー市場に拡大を図る背景には、仮想化技術への流れがある。仮想化はここ数年間、急速に導入が進んでいるが、多くの企業はサーバーやストレージと手作業で統合している状態で、メリットを最大限に活用できていないというのだ。

 John Chamebers CEOはThe New York Timesの取材に対し、「仮想化ソフトウェアの台頭は、新しい種類のサーバーコンピュータの需要を生み出している」「サーバー、ストレージ、ネットワークは、その上でのみ動く専用ソフトウェアではなく、流動性のあるアプリケーションに対応しなければならない。これまでの境界線はあいまいになっている」と述べている。

 同社の発表は、おおむね好意的に受け止められたようだ。Forrester Researchのアナリスト、Galen Schrenk氏はComputerWeeklyに対して「一からサーバーを設計すると、Cisco UCSのようなものが論理的な結論になる」と述べ、その方向を評価している。

 また、Interarbor Solutionsの主席アナリスト、Dana Gardner氏もIT-Directorに寄稿した分析記事で「市場を変える可能性があるモダンなデータセンターのパッケージ」と高い評価を与えている。Gardner氏は、データセンターの1ストップショップは「ある1社のベンダーに支配されたくないといった理由などから、なかなか実現しなかった」と指摘。Ciscoは(ある程度の)標準と最新ソフトウェアの利用によってこれにアプローチしている、と分析している。


 ではUCSは、500億ドル市場といわれるサーバー市場にどんな影響を与えるのだろうか?

 「間違いなく市場を変革する動きだ。IBMとHPを正面から攻撃する戦争になる」と述べたのはForrester ResearchのアナリストJames Staten氏(The New York Timesにコメント)だ。また、Computerworldは「ネットワークこそコンピュータ」というSun Microsystemsのキャッチフレーズをもじって、「コンピュータこそネットワーク」という言葉を使っている。ブレードにルーターとスイッチ技術を統合することで、ネットワーク化されたコンピュータ環境を実現すものであると分析。すべてをネットワーク上で統合するという狙いは正しい、とその戦略を評価する。

 一方、Gartnerは技術面で差別化を図るCiscoの戦略に対し、サーバー市場が価格主導であることを指摘。辛口な見方を示した。同社は分析のなかで「既存ベンダーに対抗するには、これらの機能を、競争できる価格で提供し、かつ価値を示す必要がある」と述べている。さらに、アプリケーションインフラの統合ではサードパーティに依存することになるため、顧客は引き続き、Citrix、IBM、Oracleなどのベンダーと関係を保ち、データセンターに進出しようとするCiscoには阻害要因になる可能性があるとしている。


 競合他社はどう迎え撃つのだろう。Burton Groupは、他のブレードベンダーが同じような機能を盛り込んでくると予想する。事実、HPは「ProCurve」ブランドのネットワーク事業でコンピューティング機能との統合を図りつつある。また、The Registerは、Dell、HP、Sunなどライバル企業の幹部に取材し、「Ciscoはエンドツーエンドの仮想化戦略を創り出した。だが、それはまだビジョンだ。われわれはすでに製品を提供している」(HPの幹部)などの声を紹介している。また、もっと大きく、サーバー市場の統合を予想する声もあり、先週、The Wall Street Journalが報じたIBMとSunの買収交渉と呼応するものだといえる。

 Ciscoの参入については、さまざまな見方があるわけだが、関係者たちは皆、サーバー市場の活性化という効果については一致して認めている。CNET Newsに寄稿したEnterprise Strategy Groupの上級アナリスト、Jon Oltsik氏は「UCSの動向がどうなるとしても、サーバー市場に活気をもたらす」と述べて、歴史に残る出来事になるだろうとしている。

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(岡田陽子=Infostand)
2009/3/23 09:02