買収交渉急展開? MicrosoftとYahoo!の幹部が初会談



 膠着状態となっているMicrosoftのYahoo!買収で、新しい動きが出ているようだ。買収提案から1カ月半、両社の幹部が初めて会合を持ったという。この買収話が一気に進展するのか、それとも決裂して、敵対的買収で真っ向から対決するのか―。


 両社の幹部数人が3月10日、シリコンバレーのYahoo!本社近くで会合を持った。買収交渉ではなく、(この種の話につきものの)投資銀行も参加しなかった。会談ではMicrosoftが合併後のビジョンを説明し、Yahoo!側はもっぱら聞き役にまわっていた。今後の話し合いも白紙状態である―とThe Wall Street Journalは伝えている。

 後追いした他メディアによると、会談では買収提示額の引き上げにも一切触れられなかったという。最も買収に抵抗しているといわれるJerry Yang CEOも、仕掛けた側のSteve Ballmer CEOも出席していたかははっきりしない。会談の内容も不明だ。それでも、「Yahoo!は買収が不可避であると感じている」とコメントするアナリストがいる。

 このところ両社は、買収について沈黙を守っており、激しいバトルを期待していた向きには拍子抜けだった。目立った動きは2月下旬、Microsoftが、委任状獲得専門業者と契約した、と伝えられたあたりが最後である。敵対的買収で株主の委任状(proxy)を集め、議決の支配権を握る「プロクシー(proxy)ファイト」のためである。Microsoftにとって、買収額をつり上げるより、委任状を集めて経営陣の交代を迫る方がはるかに安く済む。


 両社の直接対決は、6月ごろの株主総会がヤマになると考えられていた。Microsoftは株主総会で、任期切れとなる現取締役の後任として自社が推す候補を立て、議決を経て現経営陣を退陣させればよい。候補者の推薦期限は3月14日となっていた。

 しかし、Yahoo!は3月5日に、この推薦期限を延期。時間を作って戦いを先送りする姿勢を示した。両社の間に目立った争いは起こらないまま時間が過ぎ、その一方で、会合が行われたことが今回明らかになったのである。

 買収提案に対し、Yahoo!の取締役会は2月11日に提示額を受け入れないことを表明したが、買収提案そのものを拒否しているわけではない。提示額は自社の「価値を反映しない、不当に低いもの」というだけで、話し合いの余地を持っているということである。

 Yang氏は買収に強く反対しているとされるが、他方、取締役の中で孤立しているという観測も多い。

 そのYang氏は推薦期限を延期した同じ日、従業員あてにメールを送り、「われわれがとりうる選択肢は多いことが明白になってきた」と述べた。だが、その後、有望とみられた選択肢が、次第にしぼんでいることも分かってきた。

 “白馬の騎士”の1人とみられたNews CorpのRupert Murdoch会長は10日、証券会社のカンファレンスで、「われわれより多くの資金を持っているMicrosoftと争う気はない」と述べ、Yahoo!の買収合戦を行う気がないことを明らかにした。

 もうひとつのTime Warner/AOLは13日、欧州のSNS大手Beboを8億5000万ドルで買収すると発表した。会員数4000万の同社の獲得は、Yahoo!を取り込むことの意味を薄れさせ、何より資金的な余裕がなくなっている。


 ところで、今回の件ではしばしば指摘されて興味深いのが、従来、こわもてで鳴らしてきたMicrosoftのソフトな態度だ。

 The Wall Street Journalのブログ「Deal Journal」では、会合に投資銀行が参加しなかったこともその現れだとしている。「Microsoftが、大きな悪いオオカミのようでなく、人間らしいアプローチをとれば、おそらくYahoo!から、より協力を得て、取り引きがやりやすくなるはず」であり、同社のこうしたアプローチの大きな理由は買収額の問題だとしている。Microsoftの株価は昨年12月から20%下落しており、当初の提示額を引き上げることは難しくなっている。

 Forbesの解説は、Microsoftがこうした会合を持ったことについて、「ジュウジュツ」(柔術)のようだと評している。同社の姿勢は「柔よく剛を制す」で、Yang氏が検討したくなるような、慎重で、取り引きを成功裏に導く議論を用意するというのだ。

 Yahoo!は13日、検索サービスのオープン化とセマンティックWebへの対応を発表した。今後目指す「オープン検索」への意欲的な取り組みといえる。買収に揺れながらもYahoo!はなお、将来を見据えている。

 しかし、約1カ月後には、新年度の第1四半期決算の発表時期が来る。その内容次第では、株主の不満がさらに高まり、“将来の約束”では収まらなくなる可能性がある。米国の景気後退も濃厚になってきた。時間はあまりないかもしれない。

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(行宮翔太=Infostand)
2008/3/17 09:06