「Dell 2.0」への道のり-大改革に取り組むDell



 高成長を誇ってきた米Dellが大きな曲がり角を迎えている。直販モデルの強さを世界に証明し、PC業界の雄を自負してきた同社だが、ここ数年の間に表面化した陰りで、大きな戦略転換を迫られている。Dellは新年早々にCEO更迭、創業者の再登板という“荒療治”を行い、急ピッチで改革に取り組んでいる。


 昨年はDellにとって散々な年だった。顧客サービスへの不満が噴出し、第3四半期には約3年ぶりにPC市場のシェア首位から転落、米Hewlett-Packardに逆転された。Dellはこうした事態に対応するため、サポートの強化や新興市場への進出、AMDプロセッサのPCへの採用などを内容とする「Dell 2.0」構想を9月に発表。Kevin Rollins CEOの下で改革に着手した。Rollins氏は創業者Michael Dell氏の10年来のパートナーで、2004年にDell氏からCEO職を引き継いだあと、2人は「Two-in-a-box」と呼ばれた分業体制を敷いてきた。

 しかし、Dell氏は1月末、Rollins氏のCEO・取締役辞任を発表、自らCEOに復帰して改革を進めることを明らかにした。米Business Week誌によると、今回のDell氏の復職の背景には、軌道修正を人まかせにできないと判断したDell氏の強い意向があるという。


 Dell氏は就任の2日後、従業員に電子メールを送って、大規模な刷新を行っていく決意を表明している。AP通信などが伝えたメールの内容を見ると、当面の改革の柱は、1)外部からの人材起用によるリフレッシュ、2)経営の合理化、の2つとなるようだ。

 新しい経営陣を見てみよう。2月14日、Dellはグローバル・オペレーションの責任者に米SolectronのCEO、Michael Cannon氏が就任することを発表した。16日には米Motorolaの携帯電話事業部トップのRon Garriques氏をグローバル・コンシューマの責任者に招いている。いずれも新設部門で、Dell氏はこのほか、最高マーケティング責任者(CMO)というポストを新設する方針を明らかにしている。

 このメールは、Dell氏が外部からの起用にこだわる理由も明らかにしている。「Dellには優秀な人材がいるが、新しい敵も生まれている。それは、官僚主義だ。この官僚主義はわれわれの資金を浪費し、スピードを鈍化させている」というのだ。Dell氏は、新しい風を吹き込んで、官僚主義を一掃することを狙っているのである。

 合理化では、一連の組織改革により、現在22人いる経営幹部数を12人に減らすなど、経営をスリム化する。Dell氏はメールで従業員のボーナスをカットすることも明言しており、今後はリストラもあるかもしれない。

 事業面では、オペレーションの合理化、コンシューマへのフォーカス、地域の拡大などが改革のキーワードとなりそうだ。製造・調達を統括するグローバル・オペレーションを率いることになるCannon氏は、電子機器の製造受託サービス会社であるSolectronの経験でサプライチェーンを熟知している。Solectronの前には米MaxtorのCEOを務め、両社の経営を好転させた。今回の抜擢は、サプライチェーンの知識と経営手腕を買われてのことだ。

 コンシューマ分野は、Dellにとって大きなチャレンジとなる。Dellは法人分野に強く、現在、コンシューマ分野は売上高の15%程度を占めるに過ぎない。この市場を担当することになったGarriques氏は、Motorolaで薄型携帯電話「RAZR」ラインを送り出し、同社の携帯電話シェアを2位に引き戻した実績がある。

 地域的な拡大は、両者それぞれに与えられた使命となる。Dellは本拠地の北米市場では強いが、PCの需要は新興市場に拡大・移行している。Dell氏が新事業部に「グローバル」の名を冠したことは、北米市場以外の比率を高くしようとする同氏の狙いを表しているといえる。


 このように人事発表を立て続けに行いながら、2月16日には、顧客向けサービスとして「Dell IdeaStorm」と「StudioDell」も発表した。これらのサービスは、ネットを利用して、顧客同士が情報を交換したり、顧客の声を製品設計に反映させるためのもので、以前から課題とされてきたサービス改善の対策である。

 Dellは次々と改革を実行に移しているが、それがすぐに軌道に乗るかどうかは不透明だ。同社は昨年噴出した不正会計疑惑で米証券取引委員会(SEC)の調査を受けており、NASDAQからは上場廃止勧告も受けている。これらの問題はまだ未解決だ。また、Dell 2.0の成功には、合理化、グローバル化以外の決め手も必要となるだろう。

 もちろん、Dell 2.0への道のりが険しいことは、Dell氏自身も承知している。Dell氏は先の電子メールで、「今後数四半期は、楽ではないだろう」と記し、従業員に長期戦の覚悟を呼びかけている。「一夜にしてこうした状況に陥ったのではない。一夜にしてこれを修復することもできない」。この言葉を最も強くかみ締めているのはDell氏自身かもしれない。

関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2007/2/26 09:09