マッシュアップがやってくる 企業分野に拡大
2006年のIT業界の流行語といえば、間違いなく「Web 2.0」だろう。Web 2.0の関連技術としては、すでにAjaxなどにスポットがあたっているが、もうひとつ「マッシュアップ」(mashup)にも注目が集まっている。2007年は、このマッシュアップが、エンタープライズ分野に大きく進出しそうだ。
マッシュアップの関連情報を提供するWebサイト「Programmableweb」によると、マッシュアップを使って作成されたWebサイトは現在、1370を超えるという。
では、マッシュアップとはどのようなテクニックか―。マッシュアップはもともと音楽業界用語で、DJがいくつかの曲を組み合わせて新たな曲を製作する技法のことだ。これをプログラミングの世界に応用し、アプリケーションのAPIを利用して複数のコンテンツを組み合わせ、1つのサービスを作成する構築手法を指す。代表的なものに、Googleの地図サービス「Google Maps」や、Craigslistの不動産情報を組み合わせた「HousingMaps.com」などがある。
Google Mapsで始まったとされるマッシュアップでは、続いて米Amazon、米Yahoo!などの企業が次々とAPIを公開し、先進的な開発者にアピールしている。
Programmablewebによると、現在、公開APIの数は350種類以上という。このうち最も多く利用されているのはGoogle Maps(35%)で、これにAmazon(14%)、Rhapsody(10%)と続いている。分野としては、地図が最も多く、ほかに検索、写真、ショッピングなどのコンテンツがマッシュアップされているようだ。
マッシュアップは、開発者とエンドユーザーのそれぞれにメリットがある。開発者側では、公開されているAPIを用いることで、新しいサービスを低コストで容易に作成できる。こうして作成されたマッシュアップサイトは、エンドユーザー側には利便性をもたらす。先のHousingMaps.comの例では、地図情報と不動産情報を別々に見るよりも、地図の上に不動産情報が載ることで使い勝手が飛躍的に改善する。
だが、マッシュアップにも課題がある。収益モデルと著作権だ。無償でAPIを公開している企業の多くが商用目的に利用しないことを条件としている。次々に生まれたマッシュアップサイトも、収益を生む仕組みを持っていなければ、長期的に存続できないと考えられる。また、マッシュアップされるコンテンツの著作権などの問題もまだ整理されていない。
こんなマッシュアップだが、これまでの個人開発者が興味半分で使う段階から、エンタープライズ開発者が活用する動きが出ている。
たとえば、11月に米IBMが発表したEclipse対応開発プラットフォーム「Lotus Expeditor」では、マッシュアップ機能が大きな特徴となっている。米Microsoftも通信業界向けのマッシュアップ開発支援プログラム「Connected Services Sandbox」を12月に発表した。同社は「Windows Live」のAPIを公開、プラットフォームとして強調することで開発者の取り込みを図っている。
また、米Sun Microsystemsは11月、マッシュアップコミュニティサイト「The Big Mashup」をオープンして、トレンドに乗ろうとしている。エンタープライズ向けのマッシュアップツールが充実していく方向だ。
マッシュアップへの期待には、エンタープライズ開発で求められる統合やソフトウェア再利用という背景がある。この分野ではこれまでにも、Webサービス、SOAなどの技術が登場しているが、ベンダー各社は容易かつ手軽にコンテンツを組み合わせることができるマッシュアップを解決技術の1つとして検討しはじめているようだ。
実際、米CIO Today誌によると、すでに、独Siemens、米JDS Uniphase、米Pfizerなどの企業がマッシュアップを用いてカスタムアプリケーションを構築しているという。
2007年は、マッシュアップが本格的に企業分野に広がるのか、その見極めの年となりそうだ。