Infostand海外ITトピックス

Apple vs FBI iPhoneの暗号技術をめぐり、ついに法廷対決へ

 犯罪者が使っていたiPhone内のデータをめぐって、AppleとFBI(米連邦捜査局)が激しい戦いを繰り広げている。暗号化されたデータへのアクセスに協力を求める連邦地裁の命令に対しAppleは「危険な前例」になるとして拒否し、異議申し立ての手続きをとった。両者の主張には大きな隔たりがあり、暗号技術をめぐる司法機関とテクノロジー企業のそれぞれの信念が激突することとなった。

「ブルートフォースアタック」の支援命令

 カリフォルニア州中部連邦地裁の命令はFBIの求めで2月16日に下された。同州サン・バーナディーの福祉施設で昨年12月、14人の市民が殺害された銃乱射テロの捜査についてで、犯人の「iPhone 5c」の「データにアクセスできるよう、Appleの適切な支援」を命じたものだ。FBIは、iPhoneからテロの協力者への手がかりを得られると考えている。

 iPhone内には暗号化したデータが保存されているが、パスコードでロックされている。データは10回連続で間違ったパスコードを入れると自動消去される。また、間違えると、一定時間入力を受け付けなくなる遅延機能がある。

 命令のポイントは3点。(1)データ自動消去機能の解除、(2)キー入力でなくプログラムによってパスコード入力できるようにする、(3)遅延機能の解除――だ。つまり、Appleがパスコードを割り出す、あるいはロックを解除するのではなく、FBIが「ブルートフォースアタック(総当たり攻撃)」で、データをこじ開けるための環境整備を求めたものだ。

 これに対しAppleは即日、CEOのTim Cook氏の名でユーザー向けの公開書簡を発表。「政府は、Appleの顧客の安全を脅かす前例のないことを要求している」として拒否を表明した。次のように述べている。

 「特に、FBIは私たちにiPhoneのOSの新バージョンを作るよう求めている。捜査の過程で復元したiPhoneにインストールすると、いくつかの重要なセキュリティ機能を迂回(うかい)できるというものだ。こうしたソフトウェアは現在、存在せず、もし悪用されると、誰のものであれ、あらゆるiPhoneのロックの解除ができる可能性がある」

 Appleの主張は、“新しいOS”(ファームウェアと呼んでいるメディアもある)は、暗号化とセキュリティ機能を弱めるツールになる。セキュリティ機能を迂回して、内部データにアクセスできる「バックドア」であり、万能の“マスターキー”にもなる。こうしたものが、いったん作られると、ほかのユーザーに害が及ぶことになるということだ。

 一方、FBIのJames Comey長官は2月21日のブログで、重大な事件の捜査でデータへのアクセスが必須であり、「実際のところ、極めて限定的なものだ」と反論。バックドアにはならないと主張した。

(行宮翔太=Infostand)