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Apple vs FBI iPhoneの暗号技術をめぐり、ついに法廷対決へ

Appleの“最後の砦”

 Appleは2月25日、裁判所命令の取り消しを正式に申し立てた。同社は、本件が単に1台のiPhoneの問題ではなく、司法省とFBIが裁判所を通じて危険な力を振るおうとしているものであり、命令は合衆国憲法修正1条(信教・言論・出版・集会の自由)、および5条(適正な法の過程、財産権の保障)に違反。命令の根拠法となった「All Writs Act」(全令状法)も、裁判所にそのような無制限の権限を与えていないため無効だと主張している。

 申立書は、こう述べている。「(バックドアとして使えるOSが)いったん作成されるプロセスに入ったら、それは犯罪者や外国のスパイが数百万のiPhoneにアクセスするための手段を与える」。また「政府は“一度だけ”“このiPhoneだけ”と言うが、政府自身、それが嘘であることを知っている」。

 Appleが一度きりで済まないと断言するには背景がある。Appleは過去にも、FBIの要求に応じてiPhoneのロック解除をしてきた。San Jose Mercuryによると、カリフォルニア、イリノイ、マサチューセッツ、オハイオ、ニューヨークで犯罪の証拠としてiPhone 3sからiPhone 6 Plusまでの解除をしたことが判明しており、少なくとも十数回のロック解除の実績があるという。

 同社の主張のもう一つの柱は、こうした命令がAppleにできるなら、誰に対しても命令可能となり、あらゆる企業や市民までが裁判所命令で捜査機関の一部として動くことを要求され、そうなると抑止がきかないということだ。訴えでは、次のように例えている。

 「政府の主張だと、法の執行のために“必要な”支援をあらゆる方法で市民に強要することを許しうる。例えば、死刑執行を促進するために、製薬会社に意に反する致命的な注射薬をつくらせることや、逃亡犯を誘い出すために、ジャーナリストにニセの記事を仕掛けさせること、さらに裁判所が命じた監視のために、ソフトウェア会社にアップデート時に悪意あるコードを送り込ませる、といったようなことだ」

 全体として見て、Appleは、この戦いを「危険な前例を作らないための崖っぷちの戦い」と位置づけている。一方、これまでメディアの多くは、「プライバシー vs 市民の安全」の線引きを問うものと見立てている。このためか、世論はFBI側を支持する意見が強い。

 2月18日から21日にかけて、Pew Research Centerが実施した緊急世論調査では、51%が「Appleは政府に協力してiPhoneのロックを解除すべき」と回答。38%が「他のユーザーの情報が確保されるまでAppleは解除すべきでない」。11%が「分からない」だった。Morning Consultが24、25の2日間に実施した新しい調査でも、「Appleがロック解除すべき」とした人が51%。「すべきでない」が33%で、大きく変わらなかった。

 New York Timesなどによると、Microsoft、Google、Twitter、Facebook、Yahooの各社は現在、法廷でApple側を支援する準備を進めているという。この裁判は長期化するとの見方がメディアの間でも強まっている。

行宮翔太=Infostand