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だからクラウドは信用できない? Google Reader終了が示した課題

 Googleが、RSSリーダーサービス「Google Reader」のサービスを打ち切ると発表した。「Google Wave」などGoogleが運用中のサービスを打ち切ることは珍しくないが、今回はGoogle Readerを愛用していたユーザーが電子陳情に訴えるなどの“騒動”に発展している。Google、さらにはクラウドサービスそのものに対する信頼性を問いただすメディアもある。

死を迎えたGoogle Reader

 「Google Readerの死」は突然告げられた。3月18日、Googleは恒例となった“春の大掃除”を発表、MS Officeとの連携プラグイン「Google Cloud Connect」など、終了を決めた8つのサービスの中にGoogle Readerの名前があった。春の大掃除とはGoogleが定期的に行っているサービスの整理で、いわば死刑宣告リストのようなものだ。

 Google ReaderはGoogleが2005年に開始、2007年に正式版となった。ブログやニュースサイトなど登録したRSS/Atomフィードを一元的に収集・表示するもので、情報収集が効率よくできるだけではなく、共有機能などもある。Googleは同サービスを停止する理由として、(1)ユーザー数が減っている、(2)企業として注力する製品を絞ってゆく必要がある――の2つを挙げている。既存ユーザーは、自分のデータをダウンロードできる「Google Takeout」を利用してデータをエクスポートできると説明した。

 この発表はユーザーに衝撃を与えた。Googleに「減っている」と言われたユーザーたちは発表に困惑し、その中のかなりな人がサービス継続を求めてChange.orgなどの電子陳情サイトに向かった。ソーシャル・キャンペーンサイトのChange.orgには、10種類ものキャンペーンが立ち上がっており、多いもので14万を上回る署名を集めている。単にGoogle Reader打ち切り見直しを求めるキャンペーンだけでなく、オープンソース化を求める者もあれば、有償でもよいから継続してもらいたいというキャンペーンもある。

 一方で、Google Reader終了の知らせを受け、同等のサービスを提供する他のオンライン企業もチャンスとみて早速、手を打ってきた。RSSフィードアプリのFeedlyは、すぐに50万人以上のユーザーを獲得したと報告。前々からリーダーを開発する計画があったというDiggは、Googleの発表を受けてリーダー開発を最優先すると代替サービス候補に名乗りを上げた。同社のサイトでは、Google Reader終了まであと何日とカウントダウンまで行っている。

RSSはソーシャルに取って代わるのか?

 Google Reader打ち切りの背景には、ソーシャルネットワークの普及がある。情報収集の方法が、個々のブログやWebサイトから情報を集めるというこれまでの方法に代わって、TwitterやFacebookのフィードで情報を得る人が増えつつあり、発信する側もRSSフィードに並行してソーシャルネットワーク対応を進めている。Google特有の事情としては、自社のソーシャルサービス「Google +」への集中があるだろう。Googleは2011年、ReaderにGoogle+統合機能を組み込み、ネイティブの共有サービスを削除していた。また、このところ、Readerの機能強化をほとんど行っていないことから、ユーザーをGoogle+に移行させようという狙いがあったことも見え隠れする。

 RSSフィードの代表的存在であるGoogle Readerの終了によって、RSSリーダーの存在意義も危うくなると見る向きもある。例えばThe Vergeは「Google Readerは人気の高いRSSアグリゲーターであり、その死によって、RSSプロトコルそのものの終焉につながる可能性がある」と記した。

 一方、「RSSは死なない」とするのが、BetanewsのWayne Williams氏だ。まず「ユーザー数が減っている」というGoogleの主張に対しては、GoogleがReaderの開発や機能強化を進めないことで仕向けた結果と反論。実際に打ち切り発表後にフィードリーダーが再びスポットを浴びていると指摘する。Williams氏はGoogle Readerを、「Firefox」登場前の「Internet Explorer」になぞらえる。IEが機能開発をしなくなったところに登場したFirefoxによって、終わったとみられていたブラウザ分野が再度活性化した。同じことがRSSフィードリーダーでも言える、というのだ。

 代替サービスを開発中のDiggも、RSSは過去のものと言われているかもしれない、としながら、まだニーズはあるとの考えを示している。

 すべてがソーシャルに移行する移行期にあるのか、RSSも共存してゆくことになるのか、は今後分かっていくだろう。

「クラウドサービスは信用できない」

 メディアの中には、Google Readerの終了を違った角度から分析するものもある。まずGoogleに対する不信感だ。GigaomのOm Malik氏は、Googleが2日後に発表したEvernote対抗サービス「Google Keep」に合わせて、「Keepを使うつもりはない。なぜかって? Google Readerだよ」と記した。

 7年間Google Readerを愛用してきたというMalik氏は「肉屋がニワトリを屠殺するように」あっけなくReader終了を発表した、とGoogleの姿勢を批判。「Googleがアプリを存続してくれると信頼するのは難しい」と不信感を示した。InformationWeekも「Google Keep発表、だがいつまで続く?」というタイトルで皮肉った。

 The Washington PostのEzra Klein氏も、「Google Health」「Google Buzz」「Google Wave」など、これまでGoogleの手によって作られ、葬られたサービスを挙げながら、「信用できない」と続ける。それだけではなく、「Gmail」で容量を超過すると容量購入ができず、メールを削除するしかなかったという自身の体験を例に挙げ、「問題は、自分が依存しているGoogleサービス(GmailやGoogle Readerなど)はGoogleにとっては中核事業ではないことだ」とユーザーの期待との食い違いを指摘する。

 リベラル派ニュースサイトMotherJonesのブロガーでコラムニストのKevin Drum氏は、これをさらに拡大して、Web経由でサービスを提供するクラウドベンダーそのものに「要注意」と呼びかけた。PC誕生以来、新しいサービスは次々と生まれ、成功しないものは消えていく。その際、オンプレミスの場合は、ローカルにある製品を使い続けることができるが、クラウドではそうはいかない。

 サービス側がアップデートをすると決めるとアップデートされ、クラウドに保存されているデータのプライバシーは確約されていない――。「Googleが飽きたら、もう、そのソフトウェアが使えなくなるという状態は好きではない」とクラウドサービスのあり方に不満を述べ、過度の依存を次のように戒める。

 「クラウドはあなたの友ではない。いや、友かもしれないが、都合のいいときだけの友だ。われわれは、無料であることに引かれてクラウドを利用してきた。いま、瀬戸際から戻るべきだろう。」

(岡田陽子=Infostand)