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非米国のクラウド動向 欧州と中国の挑戦

 クラウドコンピューティング分野には米国発の話題が多いが、他地域でも動きが活発化している。2013年、たとえば欧州連合(EU)は昨年発表したクラウドイニシアティブの下、行動計画に基づく取り組みが進むと考えられる。中国も、インターネット利用者を増やして電子商取引をはじめとするネット経済の促進を進める政策を打ち出している。両地域の動向をみてみよう。

クラウドで年1600億ユーロの経済効果を目指す

 EUが2012年9月末に発表した新戦略「Unleashing the potential of cloud computing in Europe」(欧州においてクラウド・コンピューティングの潜在能力を最大限に引き出すために)は、クラウドコンピューティングを活用して経済活性化と雇用の創出につなげようという戦略的イニシアティブだ。クラウドのメリットであるコストの削減と生産性改善などにより、EU域のクラウドコンピューティング市場規模は2020年に8000億ユーロ(約95兆円)に到達可能とEUは見積もる。これは現在の2倍以上にあたるという。

 このほかの数字として、2015年から2020年までの経済効果は年平均1600億ドル(14兆円、1人当たり年300ユーロ)、これはGDPの10%に相当する金額で「戦略的に新しい産業をつくり、米国などの競合と戦う」としている。雇用では、250万~380万の新規雇用が生まれるという予想もあり、全体的に大胆かつ楽観的な展望となっている。

EUはイニシアティブの中で、大きく4つの計画を挙げている。

 1)2013年までにサービスの相互運用、データ移植性など必要な技術標準を割り出す
 2)信頼性のあるクラウドのため、欧州全体の認定スキームをサポートする
 3)サービス品質保証を含むクラウドサービス契約で、安全で公正な条項を開発する
 4)公共機関によるクラウドサービス調達を支援するEuropean Cloud Partnership(ECP)の立ち上げ

 EUではオンライン時代のデータ保護規制も進行中で、2012年1月にData Protection Regulation(データ保護規制)の提案を発表している。今回、このデータ保護規制についても、クラウドコンピューティング利用にあたって、データに関するユーザーの懸念をくみ取っていくとした。

米国優位への焦り

 EUがクラウドを急ぐ背景には、欧州でのクラウド利用の遅れがある。Business Software Alliance(BSA)が同時期に発表した資料によると、欧州市民のうちクラウドを利用している人は24%で、世界平均の34%を大きく下回った。Gartnerが2012年3月に発表した調査でも、欧州の企業はクラウドの受け入れで「米国企業より2年遅れている」と指摘している。

 EUに対するメディアの反応では、評価もある一方で、懸念も渦巻いている。フランスのベンチャー情報サイトThe Rude Baquetteは「急成長するクラウド市場における欧州の立場(遅れ)を改善するため、欧州がやっと重い腰をあげた」と評価しながらも、「なぜ技術標準について、EUが決め(て押し付け)る必要があるのか?」「ECPはベンチャーや中小規模企業を考慮したものになるのだろうか? 結局は大企業が主導するのではないか?」と疑問点を洗い出している。「ビジネスが有機的に育つ環境こそ大切」という意見だ。

 英国版CIO Magazineも同じようなトーンだ。Gartnerの調査も指摘したように、欧州でクラウドが進まない阻害要因の1つにデータ保護規制がある。米国ベースのクラウドサービスは米国の愛国者法(USA Patriot Act)の下で管理されているが、愛国者法では要求に応じてデータ開示が可能になるため、米国ベースのクラウドを利用することは欧州企業にとって違法になるリスクがあるのだ。

 CIO Magazineは「EUはこれまでクラウドを促進するというより、遠ざける存在だったが、“クラウドの潜在性を解き放つ”という態度を明確に示した」と、EUの態度を評価する。だが、「規制することが奨励ではない」と記し、技術標準などについての介入を批判している。データ保護法については、「(データが保管されている)場所を問わないクラウドサービスの離陸に向けて、規制を変更する計画は今回の発表の中には含まれていない」とイニシアティブの欠陥を指摘している。

日本も追い越す? 中国のIT市場

 市場規模で米国、欧州をも圧倒するのが中国だ。そのネット人口は2015年に8億人に達すると予想されている。中国工業情報化部(MIIT)は「Broadband China」構想の下でブロードバンドインターネットの普及を促進中。2012年第3四半期のネット人口は5億5000万人、年間11%増で増えてきたことから、「2015年に8億人」はありうる数字だ。

 MIITはインターネットの普及とともにネット経済の拡大も掲げており、分野としてはクラウドコンピューティング、電子商取引、モバイル、マシン間通信などを重点分野としている。第12次5カ年計画期間(2011-2015年)で、電子商取引のトランザクション18兆人民元(258兆円、2兆9000億ドル)、ソフトウェアや情報サービス売り上げで4兆人民元(57兆円、6400億ドル)などの目標を挙げている。

 そのけん引力となるクラウドでは、MIITがデータセンター構築計画の草案を作成していることをChina Dailyが12月末に報じた。現在、中国には43万のデータセンターがあり、計500万台以上のサーバーが実装されているという。

 また、インターネットアクセスの普及にあわせて、中国のWebベンチャーの業績も好調に推移している。“中国のGoogle”ことBaiduは2012年第3四半期に、前年同期比60%増の純利益を記録した。

 コンシューマー向けだけではない。中国の法人向けのクラウドベンチャーとしてGigaomは、PaaSのEEPlat、Hadoop技術に強いサーバーベンダーを標榜するSuperCloud、Apache CloudStackベースのクラウドベンダーTCloud(TrendMicro子会社)など7社を紹介している。中国のクラウドコンピューティングでは、端末側の主役はモバイルとなる。ここでも、ZTE、Lenovo、Huawei Technologiesなどのベンダーがおり、市場を盛り上げそうだ。

 中国当局の発表する数字は、誇張されていることもあるので少々注意が必要だが、国外の調査会社が出した数字でもその拡大ぶりは間違いない。IDCは昨年5月、中国によるクラウドコンピューティングインフラへの支出が2億8600万ドルとなり、2016年には10億ドルに達するとの予想を出している。

 また、中国のIT市場規模が2013年に1730億ドル規模となり、日本を上回るとも予測している。

(岡田陽子=Infostand)