Infostand海外ITトピックス
本当の戦いが始まる 2013年クラウド大予想
(2012/12/25 09:21)
ハイプから普及期に進み、その影響がはっきりしてきたクラウドだが、2013年はどうなってゆくのだろう。クラウドのプレーヤーの動きや、新たなトレンドを、年の瀬を機に、さまざまなメディアが予想している。IT業界はもちろん、素材、製造から流通、さらには一般ユーザーの生活まで変えていきそうだ。
ベンダー競争は続く
まずはベンダー間の競争だ。Forbesに寄稿したクラウド管理ソフトウェアのScienceLogicのCTO、Antonio Piraino氏は「クラウド戦争は続く」として、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Google、ホスティング事業者らが提供するIaaS、PaaSなどのサービスが今後も増えると予想する。だが、選択にあたってのフォーカスは、ネットワークやストレージインフラからインフラ上のサービスに移り、「本当のバトルは2013年に始まる」と言う。
Infoworldは、2012年後半のクラウドストレージでの価格競争に触れる。資金力のある大規模ベンダーがシェア獲得を狙って値下げを始めたことから、今後、小規模な事業者は収益が出せずに整理されていくと予想する。ただし、いったん市場が統合された後は、生き残った大手ベンダーが再度価格を引き上げるかもしれないという。
クラウドは黎明(れいめい)期、ハイプを抜けて「幻滅期」に入ったというGartnerの主張が先ごろ話題となったが、混沌とした状態からベンダーの支持という点で頭一つリードした感があるのがOpenStack。クラウド分野におけるLinuxを目指すオープンソースのクラウド基盤だ。
GigaOmはOpenStackについて、2013年はパブリッククラウドでAWSに対抗する勢力となるかに注目とする。「クラウドはまだ早期段階にあり、何だって起こりうる。まったく新しい企業でも、レガシーな企業でもAWSと勝負できる」とし、今後さらに競争が激しくなるとの予想を示した。
AWSについては、Forrester Researchのアナリスト、James Staten氏も「10の予想」で取り上げており、現在70%ものシェアを誇るAWSも今後は、ほかのベンダーとシェアを分け合うことになると予想。Microsoft、Googleに混じって、OpenStackベースのクラウドにも可能性があると述べている。
PaaS、ホステッド型プライベートクラウド、業界特化型
技術動向はどうだろう。2012年にはネットワーク側での仮想化として「Software Defined Network(SDN)」が登場。その後、「Software Defined(ソフトウェア定義)」はクラウド、データセンターへと拡大してバズワードとなった。だが、Gigaomはネットワーク仮想化に一定の進展は見られても、ルーターやネットワーク機器に縛られた現状はすぐには変わらないとみる。
Forbesは、IDCのアナリストが指摘する「ホステッド型プライベートクラウド」というトレンドを紹介する。企業が自社で管理するのではなく、ベンダーなど専門事業者が管理するプライベートクラウドで、重要度の高いアプリケーションで利用が進むとみる。企業はアプリに応じてパブリックかクラウドかハイブリッドかで頭を悩ましているところだが、選択肢が増えることで複雑になるのか、シンプルになるのか――。
E-Commerce NewsはSaaSで提供されるBI(ビジネス・インテリジェンス)ソリューションが増え、ビッグデータの分析と共有がさらに容易になると予想する。また、IaaS、SaaSに続いて2013年にはPaaSの受け入れが進むとみる。これに加え、SaaS、PaaS、IaaSのニーズを満たすエンドユーザー向けのクラウドマーケットプレイス(クラウドアプリストア)が社内で提供されるとも予想する。
開発についてはForresterのStaten氏も取り上げた。エンタープライズ開発で利用されている言語、フレームワーク、開発手法のほとんどがクラウドでも利用できるため、クラウドでの開発が進むと予想している。
業界特化型のクラウドが登場するとの予想も出ている。Forbesによると、ヘルスケア、金融、製造、小売りなど特定の業界のニーズに合わせたクラウドで、固有のセキュリティや規制順守を満たすという。ForresterのStaten氏は、業界特化型などの流れからも、コモディティハードウェアだけがクラウドを支えるのではない、とみる。
このようにクラウドは広がり、受け入れも進むが、GigaomはAWSなどのパブリッククラウドに対し、エンタープライズ対応の実証が迫られるとみる。VMwareやMicrosoftについては、クラウドで新規顧客を獲得するだけでなく、レガシー顧客を説得できるよう実証しなければならない、と課題を突きつけた。
また残念ながら、2013年もサービス障害とは無縁ではなさそうだ。ScienceLogicのPiraino氏は、「ITリソースがクラウドに移行するにつれて、大企業のサービス障害が起こる可能性が高くなるだろう」と予想する。
関連してSLA(サービス保証)についてForresterのStaten氏が見解を述べている。2012年にはGartnerのアナリストがAWSやHewlett-PackardのSLAを批判したが、Staten氏は、クラウドアプリの設計段階でアプリそのものにセキュリティや耐久性を取り入れる必要があると言う。これによって、「クラウドプラットフォームが提供する基盤のSLAに関係なく、あらゆるレベルのSLAに到達できる」とStaten氏は言う。
モバイルとクラウドは不可分に
ForresterのStaten氏は、より高位置の視点から、クラウドがモバイル側のトレンドと融合する将来を描く。すでにほとんどのSaaSアプリはモバイルクライアントを持っており、「モバイルアプリがクラウドベースのバックエンドと接続して、モバイルクライアントの需要に応える」という。モバイルとクラウドの組み合わせは、単なる“足し算”以上の大きな相乗効果をもたらすとみる。
モバイルの台頭は、これまで主流なクライアントだったデスクトップ側にも影響を与える。Forbesは、パーソナルクラウドがこれまでのデスクトップPCを置き換えるとし、Piraino氏は「われわれが知っているデスクトップは死を迎える」と言い切る。従業員は自分の好みのモバイル端末でクラウドを利用して作業するようになり、「パワフルなアプリケーション、スマートフォンのメモリ、I/O機能により、仮想デスクトップは、やっと現実のものになる」とする。2013年も、BYODは、よく目にすることになるだろう。
IT部門にも大きな変化が迫っている。クラウドによって、作業が効率化される一方で、各事業部門からのニーズを受けてクラウド専門の知識が必要となる。InfoWorldは、クラウドプロジェクトが多数立ち上がる一方で、専門知識を持つ人材が少ないことのミスマッチを予言する。
必要とされるのは、クラウド設計ができるアーキテクト、クラウド開発者、クラウド専門のセキュリティ知識のある人など。Forbesは「ITチームはシステム管理車、データベース管理者、ネットワーク管理者、アプリ開発者による集団から、サービス配信管理者、契約管理者、関係管理者、ビジネスアナリストの集団になる」とのIDCの見解を引用する。
2013年はクラウドそのものの発展とともに、その波が、さまざまな分野に押し寄せてくる年になりそうだ。