データセンターや物流も直撃 ハリケーン「Sandy」の教訓
季節外れの大型ハリケーン「Sandy」がニューヨークを襲い、100人を超える死者を出すなど甚大な被害を与えた。ウォール街の証券取引所は27年ぶりの閉場となり、ホスティング事業者のデータセンターの浸水や停電により一部Webサイトは閉鎖を強いられた。一方で、Twitterは安否と最新情報の確認に活躍。インターネット経済のもろさとネットワークの持つパワーの両方を見せつけた。
■The Huffington PostやGawkerがダウン
「突然、オフラインになった」。The Huffington Postの創業者兼CEOのAriana Huffington氏はNew York Timesにこう語っている。Huffington氏によると、ハリケーンがニューヨークを直撃した10月29日午後7時ごろ、サイトがオフラインになった。6時間後、いったん復旧かと思ったが、再びネットアクセスを失い、最終的に安定稼働となったのは30日の午後8時ごろだったという。Huffington Postは、ほぼまる1日、閉鎖されていたことになる。
Huffington PostはインターネットホスティングのDataGramを利用しており、オフラインはDataGramが半島の南端にあるロウアー・マンハッタンに構えるデータセンターの停電によるものだった。
データセンターではバックアップ用の発電機との送電網がダウンし、浸水により設備が打撃を受けた。同社のWebサイトでは、地下に燃料タンクのポンプやサブのポンプがあったが、地下が浸水したために発電ができなくなり、建物全体が停電になったと説明している。幸い、サーバーなどの機器そのものはダメージを受けなかったようだが、同じくDataGramを利用するGawker、Gizmodo、BuzzFeedなどもアクセスできない状態となった。DataGramのWebサイトによると11月2日に最終的にフル稼働状態に戻り、3日に発電機も復旧したという。
このほかにも、マンハッタンにはInternap、Peer 1 Hostingなどのホスティング事業者の施設があり、停電などに陥った。ブログで顧客に状況を伝えていたPeer 1の事業開発担当上級副社長のRober Miggins氏は、データをすべてバックアップし、他の地域に移行することを検討するよう助言していた。
Network Worldによると、クラウドバックアップサービスを提供するNirvanixは、被災地ニュージャージー州のデータセンターにデータを持つ顧客に対し、同社が他の地域に持つデータセンターにデータを無償で移行するサービスを提供したという。同じマンハッタンでも、Googleが8番街に持つ施設は、9万ガロン(34万リットル)という非常用のディーゼル燃料タンクのおかげでサービス障害を免れたようだ。
Verizonのデータセンター事業者Terremarkも、なんとか切り抜けたうちの1社だ。Sandyが前の週末にフロリダ州に接近した際、マイアミにあるサイトからヴァージニア州のサイトにプロセスを複製していたという。「データセンターを構築する際にこのような天災も考慮しており、(災害対策は)事業の一部だ。データセンターあってのクラウドだということを忘れてはならない」とTerremarkの担当者はGigaomに語っている。
洪水、突風などが引き起こす停電や浸水――データセンターでの災害との戦い、をレポートしたGigaomは「自然災害の際は最後の瞬間まで待つべきではない」という専門家Shannon Snowden氏の助言を引用する。「常に電力の供給を確かめ、ダウンしても発電機に移行できるように発電システムも検証しておくべきだ。燃料の確保も含まれる」とSnowden氏は言う。重要なのは災害復旧対策を講じ、必要なときにリモートサイト(セカンダリサイト)がすぐに起動できるようにしておくことだと強調する。
■ECサイトは実店舗より有利……ではなかった
データセンターや通信障害だけでなく、物流もおおいに影響を受けた。Reutersによると、ニューヨーク州をベースとするファッション系ECサイトFab.comの場合、29日は自宅待機中の人々がネットサーフィンを行ったためか、通常よりも大きなトラフィックがあった。しかし、ニュージャージーにある2カ所の倉庫が停電などの被害に見舞われたため、こん包作業ができず、配達が大幅に遅れたという。ニューヨークのオフィスは停電となり、一部の従業員は創業者兼CEOのJason Goldberg氏の自宅で仕事をしたとも伝えている。
また、高級ファッションを取り扱うECサイトのGilt Groupeなども配達日が通常よりも1日から3日遅れたという。Amazon.comはサードパーティの小売業者に発注や配達が遅れる可能性があることを通告。マーケットプレイスに出店して自社で発送作業を行う小売業者に対しては、購入者に直接連絡をとって遅れの可能性を通知するように指示したという。Ebayも同じように、ハリケーンの影響があると思われる商店からの購入者に電子メールで遅れなどを通知した。
「インターネットでの購入はわかりにくく、顧客は自分が購入した製品がどこからやってくるのか理解していないことが多い」とオンライン出店コンサルMarketplace IgnitionのEric Heller氏はReutersにコメントしている。「インターネットの小売業は、天災に直接さらされる実店舗より有利ではないかという認識が試された」とReutersは総括する。
Forrester ResearchのアナリストJames Staten氏はNew York Timesに、こう述べている。「Webで注文するECサイトの場合、(注文、購入、配送など一連の手続きが完了するのに)17台ものサーバーを利用することがある。これら17台のサーバーがすべて違う場所にあることもありうる。これらが全てをミッションクリティカルなシステムとして取り扱っていない場合、災害発生時に問題が生じることになる」
New York Timesはデータセンターの障害によってダウンしたWebサイト、物流が影響を受けたECサイトなどの状況を報じながら、「生活の多くがオンラインに移行しており、重要なインターネットシステムが受けたダメージが経済に与える影響は大きい」とし、今回のハリケーンは「時としてアドホックな組織のコンピュータネットワークのもろさを露呈した」としている。
■活躍したソーシャルメディア
だが、災害復旧時にインターネット技術でしか実現できないようなパワーを発揮したサービスがある。ソーシャルメディア、特にTwitterだ。先の東日本大震災の際、Twitterが重要なライフラインになったことは記憶に新しいが、今回のハリケーンでも人々を支えた。
ハリケーンが猛威をふるった数日間、最新情報が刻々とTwitter上に現れ、人々はニュース源としてTwitterにアクセスしたようだ。「Twitterはリアルタイムのニュースワイヤーになった」とGigaomは述べている。ひと昔前に人々が最新情報を求めてTVのチャンネルをCNNに合わせた時代は終わり、CNNなどのニュース番組ですらツイートを情報源としていると指摘する。「30分のCNNよりも、5分間、良質のツイートを読んだ方が情報が得られる」というツイートも紹介している。
しかし、誤報やデマもあった。たとえば大げさに加工された写真が出回り、閉場となったニューヨーク証券取引所が浸水したという誤報もとんだ。CNNなどの大手メディアが確認なしにこの情報を報じたのに対し、Twitterではリアルタイムで正確な情報かどうか確認し、修正し合うようなメカニズムが機能しているとGigaomは言う。New YorkerのライターSasha Frere-Jones氏はこれをみて“自動浄化機能のあるオーブン”と形容したと紹介する。
ツイートで誤報を流した既存メディアもあれば、ツイートなどのソーシャルメディアをうまく活用したメディアもある。ソーシャルメディアをまとめられる「Storify」を利用しながら偽造や加工された写真を見分け、それを伝えるよう、The Guardianは呼びかけた。
「TwitterやFacebookなどのソーシャルネットワークが既存のメディアやジャーナリズムを置き換えているということではない。ニュースのエコシステムが拡大し、市民ジャーナリズムを含むさまざまな情報源が入ってきており、賢いニュースメディアではこれらの新しいツールを活用して自分たちの可能性を広げている点が重要なのだ」とGigaomは指摘する。
Sandyによる被害の総額は300億ドルとも500億ドルとも言われる。大規模停電などで米国の社会資本が意外に脆弱なことも露呈した。BCPの重要性を改めて見せつける事件だったと言える。インターネット業界は、この教訓をしっかり生かすべきだ。