“最高のOffice”はポストPCで勝てるか 「Office 2013」プレビュー公開


 Microsoftの次期オフィススイート「Office 2013」(開発コード名)のカスタマープレビュー版が7月16日公開された。Officeは年間200億ドルの売り上げをもたらす同社のドル箱製品である。プレビューでのOffice 2013に対するメディアの評価は高く“最高”の声も出る。だが、ライバルとの関係では予断はできないようだ。

クラウド、マルチデバイスにフォーカス

 Office 2013は、ユーザーインターフェイス(UI)、クラウド、モバイルとマルチデバイスの3つにフォーカスしているようだ。UIではタッチとスタイラスに対応し、クラウドでは個人ユーザーは「SkyDrive」、企業ユーザーは「SharePoint」に自動でドキュメントを保存する。保存したドキュメントにスマートフォンやタブレット(最大5台まで)からもアクセスできる。先に発表した自社タブレット「Surface」のWindows RTモデルには、Office 2013が搭載されることになっている。

 各アプリレベルでもさまざまな新機能が導入された。例えばZD NetはExcelの「PowerPivot」アドインにより、インメモリの分析が可能となり、ビックデータ仕様になっている点を評価している。

 Microsoftはまだ、正式名称も発売の詳細も明らかにしていないが、既存のオンプレミスライセンスのほか、サブスクリプションベースの「Office 365」、Windows RTで動くエディションなどをそろえるようだ。OSはWindows 7とWindows 8のみをサポート。Windows XP、Windows Vistaには対応せず、ユーザーには移行を促すようである。


製品としての評価は高いが…

 米国でのOffice 2013プレビュー発表イベントに参加したForrester ResearchアナリストのSarah Rotman Epps氏は「Office 2013は過去最高の製品」と太鼓判を押す。さらに販売本数は現行製品「Office 2010」を上回るだろうと予想する。

 PC Advisorは、Windows 8からOffice 2013、IE10、アプリストアWindows StoreなどMicrosoftの戦略全体を分析し、同社の取り組みに高い評価を与えている。Windows Vistaの失敗、AppleやGoogleのリードの中で、「Microsoftはこの現状を認め、対策を講じた。おめでとう」と述べ、最近発表した製品に対し「AppleのOS 9からOS Xアップグレードや、GoogleのAndroidローンチに匹敵する」とまで持ち上げた。

 だが、Epps氏もPC Advisorも、Office 2013やMicrosoftの戦略が、狙い通りの成果を上げられるかには慎重な見方を崩さない。今のMicrosoftが置かれている状況からは、「アップグレードサイクル」と「ポストPC時代の競合」――の2つの課題が浮上しているのだ。

 アップグレードサイクルの分析では、Information Weekが、VistaとXPで動かないならWindowsベースのコンピュータの半分以上がアップグレードしなければならないことになると指摘。企業にアップグレードを迫る思惑が、成功するかは不透明という。Gartnerのアナリスト、Michael Silver氏は、企業はWindows 7/Office 2010の実装作業中であり、Office 2013を考慮に入れるのは「2013年後半から2014年だろう」と見ている。

 ポストPC時代の競合についてはEpps氏が、Office 2013の開発がiPad登場以前にさかのぼることを指摘しながら、「依然としてPCが中心で、タブレットは付け足しに過ぎない」とバッサリ。また「Officeはモバイル戦略を持ってはいるが、発表イベントは明らかに、モバイルにフォーカスしたものではなかった」との印象を述べている。

 Epps氏は、時代がポストPC期に入りつつある中、最初からトレンドに合わせて設計された生産性アプリこそが、Office 2013にとっての脅威になると予想する。例えば、先にGoogleが買収した「Quickoffice」などだ。


Googleとの競合

 Googleは「Google Apps for Business」で、クラウドのパラダイムシフトに乗りながら、Gmail、Google Docsなどの自社Webアプリケーションで少しずつOfficeを浸食してきた。

 これに対するMicrosoft Officeの最初の回答が、2010年に提供を開始した簡易版「Office Web Apps」だった。Word、Excelなど4種類のアプリにWebブラウザ経由でアクセスできるサービスである。

 Microsoftは、Office 2013プレビュー公開後、Office Web Appsについてもカスタマープレビュー版の提供を開始した。タッチ対応、コラボレーションなどの機能強化が図られており、「過去最大のアップデート」(Microsoft)という。

 Office Web Appsは、Office 2013ではOffice 365の一部となるが、Office Web Appsの存在意義に疑問を投げかける声もある。Nucleus ResearchのアナリストRebecca Wettemann氏は、最新のカスタマープレビューに厳しい評価を下し、Web AppsがそもそもOffice戦略とマッチするものかについて疑問がある、とTechWorldに述べている。

 Googleとの競合についても、厳しい見方が多い。ComputerWorldが紹介した複数のアナリストたちは、いずれもGoogle優位と見ているようだ。例えば、Tirias ResearchのアナリストはGoogleの優れた点として、すべてのアプリやサービスを統合し、低価格なソリューションとして提供することとする。そのアプリは成熟しつつあり「Microsoftにとってさらなる脅威になるだろう」と述べている。

 一方、機能面を詳細に比較したTechRepublicのレビューは、Microsoftに軍配を上げた。 MicrosoftウォッチャーのEd Bott氏は、ユーザーとMicrosoftの両方から「Office 365」の利点を調べて見せ、Microsoftが適正な価格を付ければ、双方にとってメリットをもたらす製品になると結論した。その重要な基準の1つがGooge Appsであり、SMB向けなら月額10ドル/年額99ドルがマジックナンバーと計算している。

 ForresterのEpps氏は、あらゆる製品に共通する教訓として「機能やユーザーエクスペリエンスが豊富な自社最高製品が、機能が少なくて安価で消費者に便利なライバル製品には最も弱い製品になることがある」と述べている。“最高のOffice”なのに、惨敗するとなったら、Microsoftにとって悪夢だろう。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/7/30 10:04