「IT部門を持つ政府」から「デジタル政府」へ 英政府のアプリストア


 英国政府がアプリケーションストア「CloudStore」を2月20日オープンした。政府によるアプリストアとしてはおそらく世界初で、クラウドの活用事例としても注目される。同政府は、この取り組みに、コストや効率などのクラウドのメリットに加え、国内ベンダーの活用という点でも期待を寄せている。

政府のIT調達を根本から変えるクラウドとアプリストア

 CloudStoreは政府機関向けのITサービスカタログだ。IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)、専門クラウド・サービス(設定、管理、モニタリングなど)の4カテゴリがあり、電子メールやコラボレーションなどの汎用的なアプリから電子カルテのような業界特化型のものまでさまざまなサービスが並ぶ。現在、ベータ版ながら、その数は約1700種にのぼり、ベンダー数は250社以上という。

 登録されているのは全て政府の承認済みのアプリで、クリックすると製品、サプライヤーなどの情報が並び、比較のための項目が表示される。カテゴリ別のブラウズも可能で、Appleの「App Store」やGoogleの「Android Market」ともよく似ている。

 CloudStoreは、英政府が推進するクラウド活用の重要な一歩となる。政府は2009年のICT政策報告書「Digital Britain」でクラウドモデルの積極利用を提唱。以来「G-Cloud」プログラムを国務大臣Francis Maude氏の下で、6000万ポンド(約77億円)を投じて進めてきた。

 英政府はG-Cloudの目的について、政府組織間をまたぐサービスの利用による「規模の経済」の実現、戦略やポリシーに柔軟に応じるICTシステムの提供、コスト削減、中小規模企業(SMB)を含むサプライヤーの支援、透明性のある調達――などを挙げている。

 Maude大臣はローンチにあたり、「21世紀にふさわしいITシステムとコスト削減を目的とした政府のICT戦略において、重要なマイルストーンとなる」とコメントしている。

 英政府のICT関連のもう1つの話題が、1月31日の新ポータル「Gov.uk」のベータ公開だ。これまで英政府は「Directgov」というポータルを提供してきたが、Gov.ukでは単一のドメインにして新しい時代のユーザーエクスペリエンスを提供することを目指している。


コスト削減と地元SMBの活用

 これらの取り組みでは、共通してコスト削減を追求している。CloudStoreでは2015年までに1億8000万ポンド(約230億円)の削減が目標。新ポータルもインフラ関連で年間5000万ポンド(約64億円)のカットを見込んでいる。

 さらに、CloudStoreでは税収の効果的な利用だけでなく、国内のSMBへの経済効果にもつなげたいようだ。サプライヤーにはSAP、Microsoft、IBM、RackSpaceなどの大手ベンダーが名を連ねる中、Ancoris、Claranetといった地元ベンダーの名前も目立つ。公開されたアプリのうち半数がこうしたSMBのものだという。

 CloudStoreの構築自体も、地元のMicrosoft認定パートナー、SolidSoftが手がけており、「Windows Azure」をベースとしている。政府は契約に占めるSMBの比率を25%にするという目標を掲げており、「(アプリストアにより)ニッチな製品を開発するSMBが、大手と同じ土俵で勝負できる」(Maude大臣)という。

 その1社である地元ITベンダー、JaduでCEOを務めるSuraj Kika氏はBBCに対し「オンラインサービスデリバリーにおいて、英国が世界のリーダーとなる可能性を示すもの」と期待を語っている。


デジタル政府への模索

 CloudStore/G-Cloud、そしてGov.ukからは、英政府がICTを活用しようとする姿勢が強く感じられる。

 たとえばGov.ukは、内閣内に新設されたGovernment Digital Services(GDS)のプロジェクトで、行政に関する情報の取得やサービス利用に着目して一から作り直した。Directgovは毎月3000万人以上が訪問する人気サイトだが、GDSで副ディレクターを務めるTom Loosemore氏はGuardianに対し、「Directgovが始まって8年。これはWebの時間では非常に長い」と述べている。

 そうして開発したGov.ukでは、まずトップページにアクセスすると大きな検索ボックスが目に付く。政府のWebサイトとは思えないすっきりとしたデザインだ。それもそのはず、GDSを支えるのは“ギーク”を自称する若い開発者で、アジャイル開発手法を導入し、オープンソースモデルを取り入れている。

 Financial Timesによると、GDSを統括するMike Bracken氏は、このプロジェクトで意識的にハイテクベンチャーのカルチャーを吹き込んだという。そのために、Bracken氏はMaude大臣とともに、Google、MongoDB、Grouponといった米国のハイテク企業を視察に入ったという。

 GDSの立ち上げの報告書を作成したのも30代の女性起業家、Martha Lane Fox氏だ。報告書では「進化(Evolution)ではなく、革命(Revolution)を」とアドバイスした。App Storeがモバイルアプリを、そしてデスクトップを含むアプリケーションの世界全体を変えつつあるように、CloudStoreも政府のIT利用を大きく変える可能性がある。

 Maude大臣はFinancial Timesに対して、「ICT部門を持つ政府、ではなくデジタル政府になる必要がある」と語っている。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/2/27 10:53