データセンター標準化の流れになるか ハードのオープンソース化目指す「OCP」


 “ハードウェア版オープンソース”の実現を目指す「Open Compute Project(OCP)」が旗揚げした。データセンターの設計仕様を公開・共有するというもので、Facebookが主導している。ソフトウェアのようなオープンソースアプローチがハードウェアでも実現するのか、ハード業界にどんなインパクトを与えるのかが注目される。

データセンター設計に標準を

 Facebookは、OCPの目的について、省電力データセンター構築のための設計や技術仕様情報を共有することで、インフラ分野でのイノベーションを促進し、コミュニティが効率よくハードウェア周りを整備できるようにすると説明している。

 Facebookが最初に、このコンセプトを発表したのは今年4月、オレゴン州に設置した最新のデータセンターをオープンした時だ。ここでFacebookは、省電力技術を駆使した同データセンターの技術仕様情報を公開し、企業への参加を呼びかけた。そして10月末、2回目の会合を開き、会長と理事会メンバーを発表。プロジェクトとして正式に発足させた。

 まず、オレゴン州のデータセンターはどんなものだろう。Facebookにとってデータセンターの拡張性と省電力は大きな課題だ。オレゴンのデータセンターでは2年がかりでマザーボード、電源供給からサーバーのシャーシ、ストレージと組み立てた。その結果、既存のデータセンターと比べ、電力消費で38%、コストで24%の削減を実現した。PUE(電力使用効率)は1.07で、米環境保護局(EPA)の平均である1.5を下回るという。

 Facebookのように自前でデータセンターを構築するテクノロジー企業は少なくない。規模が大きくなるとデータセンターの運用コスト削減のメリットも大きくなる。そのため、Google、Amazon、Yahooなどの企業が、カスタムシステムを構築している。

 だが、「サーバーのシャーシひとつとっても、標準がないため、相互運用性の問題が生まれている」。Andy Bechtolshiem氏はArs technicaにこうコメントしている。Bechtolshiem氏は理事会メンバーの1人で、Sun Microsystemsの共同創業者、投資家としても知られる。さらに同氏は、データセンターやクラウドコンピューティング環境で使われるシステムの構築にあたって、標準があれば作業はもっと楽になると話す。

 OCPの公式Webサイトは、最初のステップとして「仕様と設計」としてサーバー(IntelとAMDのマザーボード、電源供給、シャーシ)、データセンター(トリプレットラック、バッテリキャビネット、配線、冷却)を公開している。次のステップでは、これをベースとしながら、コミュニティとともに改善していくという。

メンバー企業とFacebookの役割

 では、OCPは離陸、そして成功できるだろうか? ソフトウェアの先例を見ると、オープンソースソフトウェアプロジェクトの成功には、誰が参加しているのか、活発なコミュニティがあるのかが重要だ。OCPの場合はどうだろう?

 Gigaomは、参加企業から政治学を読み解いている。OCPの公式サイトでは参加企業を公開していないが、理事会メンバーはBechtolshiem氏のほか、Goldman-Sachs、RackSpace、Intelの3社の代表者が名を連ねている。プレスリリースでは、Asus Tek、Red Hat、Cloudera、Digita Reality、Huawei Technologies、Netflix、Mozilla、NTTデータ、Baiduなどの名前が挙がっている。一方で、AMD、Hewlett-Packard、IBMなどの主要プレーヤーの名前が入っていない。このため、どの程度の影響力を持つのかは、現時点では予想が難しい。

 Gigaomはまた、OCPのコンセプトが既存のハードウェアメーカーとの間に摩擦を生む点も指摘する。実際、4月当初はOCPと協業すると企業ブログで述べられていたHPの名がなくなっているのだ。

 それだけでなく、OCP発表直後にHPは、低消費電力のARMプロセッサを採用するサーバープロジェクト「Project Moonshot」を発表している。HPは同プロジェクトで、拡張性、省電力などOCPと同様の目標を掲げている。こうしたことからGigaomは、DellがOCPに参加するから、HPは参加しないのではないかと推測している。

 またGigaomは、設立者であり、会長席を持つFacebookの役割についても「オープンソースコミュニティ開発モデルをハードウェアにもたらすためには、1社が主導すべきではない」と述べて懸念を示している。

 一方、CTO Edgeは、省電力を目指す業界団体The Green GridがOCPと協業することなどにスポットを当てながら「プロジェクトは急速に成長しており、重要なメンバー企業を獲得している」と評価する。OCPはすでに、クラウドデータセンター標準化のOpen Data Center Allianceとの協業も発表している。

ハードウェア業界の流れを変える?

 もう一つのOCPのインパクトは、“ホワイトボックス”メーカーに追い風となることだ。

 Gigaomの分析では、摩擦が予想される既存のハードウェアメーカーとは違って、Asusのようなホワイトボックスのメーカーは、OCPの仕様に沿ってシステムを作成できる利点がある。Red Hatから認定を得られれば、企業にとっては非常に安価な選択肢となりうる。

 ReadWriteCloudも、Dellのようなベンダーが提供するかどうかとあわせて、「注目はAsusだ」とする。「EeePC」でネットブック業界に大きな衝撃をもたらしたAsusだが、うまくいけば、パーツを主とするAsusがOCPにより主要なサーバーベンダーとなる可能性があるという。

 こうなると、ハードウェアの流れが大きく変わるかもしれない。それは、あたかもオープンソースソフトウェアが、プロプライエタリ中心だったソフトウェア業界を変えたような変化である。

 ハードウェアにオープンソーススタイルを持ち込もうとするOCPの狙いは受け入れられるのだろうか? IBMなどのハードウェアメーカーはどのように動くのだろうか。

関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2011/11/7 10:32