WiFiデータを3年間“誤って”収集
Googleの新たなプライバシー騒動


 プライバシーの問題はどこまでもGoogleについて回るようだ。同社は5月14日、WiFiの通信内容を収集していたことを公式に認めた。3年もの間、通信内容を“誤って”収集していたという。これは各国で大きな騒ぎに発展。ドイツでは政府の調査が始まり、米国では少なくとも7件の集団訴訟が起きている。規模の拡大に管理が追いつかなかったのだろうか。それとも、意図的な行為だったのだろうか――。

Street View撮影を行う作業車がペイロードデータも収集

 Googleの公式ブログによると、「Street View」サービスの撮影と情報収集を行う作業車が、WiFi通信の中のセキュリティで保護されていないデータ(ペイロードデータ)を集めていたという。作業車は、無線LANアクセスポイントのMACアドレスとSSID情報の情報収集をすることについては許可を得ていたが、ペイロードデータは範囲外である。

 ペイロードデータには、電子メールや閲覧していたWebページ情報などが含まれる。これを許可なく収集していたのだからプライバシー侵害で非難を受けるのは当然だ。また、経過もまずかった。ペイロードデータ収集の疑惑は4月に発覚し、同月末に Googleはブログを通じて疑いを完全否定していた。しかし、ドイツ規制当局などの調査要請を受けて調べ直したところ、ペイロードデータ収集を行っていたことがわかったという。前言撤回で、さらなる不信感を呼んでしまったのだ。

 Googleによると、ペイロードデータの収集は2007年から3年間、30カ国で行われ、データは合計で600GB、ハードディスク3台分だったという。同社の開発・研究担当上級副社長のAlan Eustace氏は「どうやって起こったのか?……単なるミスだった」とブログで述べている。

 Eustace氏は、Googleが直ちにWiFiデータ収集そのものを止め、(1)問題のソフトウェアなど全体のレビューを外部コンサルタントに求める(2)再発防止のため社内プロセスを見直す――などを対策として挙げている。

 この「単なるミス」という弁明を受けて、データを削除するよう命じるだけで済ませた国もある。しかし、見過ごせないこととして、さらにGoogleの責任を追及している規制当局やプライバシー保護団体も多い。

ドイツでは当局が調査を開始、米国では集団訴訟も

 WiFiデータの収集を法律で禁じているドイツでは、当局が調査を開始し、収集したペイロードデータの提出を求めた。スペイン、イタリア、オーストラリア、カナダなども調査を開始した模様で、ニュージーランドや英国では調査するか検討中。米国では、すでに少なくとも7件の集団訴訟が起きており、連邦取引委員会(FTC)も綿密に調べるという姿勢を示している。

 Googleは6月9日、約束どおり外部コンサルティング会社によるレビューを公開。“gslite”と呼ばれるコードがパケットスニファーシステム「Kismet」と連動してデータを収集していたことが改めて明らかになった。過失であったことの裏付けになるとしている。

 それでも不信感はぬぐえない。英国のプライバシー保護団体Privacy International(PI)は、逆に、このレビューはデータ収集が「意図的なものだったことを示したもの」と主張している。

 「WiFi(データ)収集に使われていたシステムはペイロードデータを意図的に分離し、機械的にデータをハードディスクに書き込むようになっている。これは、同意なしに電話の横に盗聴器と録音機を並べるのと同じことだ」と声明文で糾弾している。英国の規制当局は調査を開始していないが、PIは、この件を告発する構えだ。

Barton議員「Googleのビジネスは、消費者から収集したデータを基盤とするものでこれは大きな問題」

 The Registerは、5月14日付のEustace氏のブログの文面そのものを「カメレオンのよう」と非難する。 Eustace氏の文面とは、「2006年、実験的なWiFiプロジェクトに関わっていたあるエンジニアがコードを書いた。2007年、モバイルチームがStreet View撮影車でのWiFiデータ収集プロジェクトを開始したとき、このコードを入れた。プロジェクトリーダーはそれを望んでおらず、このデータを利用する意図もなかった」というものだ。

 これに対しThe Registerは「一読すると、単なるアクシデントのように見える。プロジェクトリーダーらも、ソフトウェアがどうなっているのか知らなかったようだ」「だが、『望まなかったし、利用する意図もなかった』プロジェクトリーダーは、どこかで気付かなかったのだろうか」と疑問を突きつける。

 確かに、「単なるミス」とアクシデントを強調するEustace氏の文面からは、実際の撮影車で使われるまでの経緯がわかりにくいし、その後3年もの間、600GBものデータができあがってゆくのに気付かないのは不思議に思える。社内の管理体制に問題があるのだろうか? Street Viewそのものが少なくとも一部の国で論議を呼んでいるだけに、その撮影車が何をしているのか知らなかった、とは考えにくいだろう。

 下院米エネルギー・商業委員会は6月11日、同委員会の質問に対するGoogleからの回答を公開した。6月9日付の回答だ。同社のパブリックポリシー担当のPablo Chavez氏は、ペイロードデータの収集はミスであり、実際に使ったことはないので中身もわからない、とするこれまでの発言を繰り返しながらも、「オープンに設定されたネットワークからのペイロードデータの収集は、米国法に違反するものではない」と主張。その一方で「“合法”と“正しい行い”とは同じではなく、データ収集は間違いだった」と誤りを認めている。

 質問状の執筆者の1人であるJoe Barton議員は「Googleは、数年もの間データを収集していた、だが『何を収集していたのかはわからないし、誰が危険にさらされているのかもわからない』と言う。Googleのビジネスモデルは、消費者から収集したデータを基盤とするものであり、これは大変問題である」と激しく非難する。Googleの回答を受けて、同委員会は FTCに再度調査を要請すると発表している。

Schmidt氏「自分の失敗に正直であれば、それが再発を防ぐ力になる」

 GoogleのCEO、Eric Schmidt氏はFinancial Times紙のインタビューに応じ、「大きな失敗だった」としたうえで、「自分の失敗に正直であれば、それが再発を防ぐ力になる」と弁明した。一方で、「Googleのビジネスは情報であり、情報に対してはみんなが意見を持っている。だが法律は一貫性を欠いている」とも述べた。

 Schmidt氏は、今回の行為は社内のルールにも反するものとしている。だが、Googleの自由な社風が今回の事故につながったと見られていることについては、“20%ルール”(勤務時間の20%は業務以外のことに自由に使える)をはじめ、クリエイティビティ奨励のための社内のルールを変えるつもりはない、と言明した。

 “邪悪(evil)になるな”を社是とするGoogleが、このところ立て続けに騒動を起こしている。情報の収集と体系化を最大のミッションとするGoogleにプライバシー問題はつきものだが、2月にも「Google Buzz」で騒動を引き起こし、謝罪したばかりだ。

 Schmidt氏は「傲慢(arrogance)」という非難については、「組織化された反対派に対抗してエンドユーザーのためにやろうとしているから(傲慢といわれる)」「成功している企業は、ある程度の傲慢さがある」と自社を正当化するようなコメントをしている。

 企業の責任は、規模が拡大するほど大きくなる。ベンチャー精神、エンジニア精神が、数々の革新的なアイデアを生み、Googleを支えてきたことは間違いない。が、Googleほどの影響力を持つ企業が「あるエンジニアがコードを開発し、知らない間に運用システムに入っていた。そんなつもりはなかったのだが」というのは、通用しないだろう。

 自由な社風と社内統制とのバランスという難題を、Googleはどう解決してゆくのだろうか。

関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2010/6/14 09:38