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クラウドサービスでIT部門の役割を変える〜Amazon Web Services セリプスキー副社長


 今回は、来日中だったAmazon Web Services(AWS)のマーケティング、営業およびサポート担当のアダム・セリプスキー副社長に日本でのAmazon Web Servicesの状況、今後の方向性などに関して話を伺った。

 

日本はHPCやビッグデータの活用に関心が高い

――3月2日に東京データセンターを開始して、日本のお客さまのAWSの利用状況はどのようになりましたか?

Amazon Web Servicesのマーケティング、営業およびサポート担当のアダム・セリプスキー副社長

 セリプスキー氏:携帯電話でのソーシャル・アプリケーション・プロバイダのGumi(グミ)、料理レシピを掲載しているクックパッド、食品関連では製パン業大手のアンデルセングループ、インターネットプロバイダのSo-net、三井物産などでもAWSが使われています。特に、東京データセンターができたことで、今後、飛躍的に日本のお客さまが増えていくと思っています。

――欧米に比べると、AWSを利用する日本のお客さまに特徴はありますか?

セリプスキー氏:日本のお客さまは、さまざまな用途でAWSをお使いになっています。あまり、欧米との差はありません。やはり、必要とされているコンピュートパワー、クラウドストレージといった部分では、各国で違いはありません。AWSとしては、必要とされる情報インフラを届けているのです。

 例えば、日本のGumiでは、携帯電話でのソーシャル アプリケーションのプラットフォームとしてAWSを利用されています。三井物産などは、ERPの開発や検証環境としてAWSを使われています。

 ただ事例を見ていると、日本的と思われる部分もありますね。世界的にもHPCや“ビッグデータ”解析のニーズが現れていますが、日本ではそれが顕著です。

 最近注目されるのは、ビッグデータを扱うAmazon Elastic MapReduceを使って、高速にデータ解析をされているお客さまです。AWSのElastic MapReduceは、最近注目されているHadoopをAmazon EC2とAmazon S3で動かしています。このため、必要に応じて、Hadoopクラスタの拡張/縮小が行えます。

 もちろん、AWSは利用分だけを支払うという従量課金モデルなので、社内にHadoopシステムを構築する時に必要な高額な初期投資(ハードウェアコスト)は、必要ありません。こういったことは、クラウド・コンピューティングのAWSのメリットといえるでしょう。

 クックパッドやリクルートの住宅情報サービスSUUMO、So-netなどで、大規模なデータ解析に利用されています。So-netは、広告事業でElastic MapReduceをお使いになっています。So-netでは、ユーザーのログを分析することで、効果的な広告などの分析を行っていらっしゃいます。AWSを採用することで、以前にかかっていたシステムのコストに比べて、コストを50%カットできるようになりました。またElastic MapReduceではないのですが、アンデルセングループでは、生産管理システムの原価計算処理において、AWS上でHadoopを使われています。


現在、AWSが提供しているサービスの一覧。AWSは、ComputeのEC2やストレージのS3以外に、上位層でもサービス化が進んでいる S3に格納されているオブジェクト数の伸び。毎年、倍々ゲームを続けている。これほど、クラウドを利用しているユーザーも増えているし、1社が利用するオブジェクトも増えている

 

ディザスタリカバリへの関心も高まる

 もう一つ日本のお客さまに顕著に見られる使い方として、ディザスタリカバリ(DR:災害対策)などのデータのバックアップとして、AWSを利用されています。

 AWSは、アーキテクチャとして、信頼性を高めるためアベーラビリティゾーンというコンセプトを持っています。各リージョンのデータセンター内部が分散化されており、データセンター内部の複数のノードが、同じ原因でシステムダウンしないように、データセンターの設計を行っています。こういった高い信頼性があるからこそ、Amazon.comなどの超大規模なECサイトでも、AWSを採用しているのです。

 先日、AWSのお客さまになった日本の大手企業の方とお話ししたのですが、そのお客さまは自社でデータセンターを1つだけ所有されています。もし、そこが3月11日の東日本大地震で被災したら、完全に復旧するまでには3カ月かかるでしょう。そのために、そのお客さまは災害復旧の観点から、AWSに関心を持っていただけたのです。

――ディザスターリカバリやデータバックアップというニーズは、3月11日の東日本大地震後に出てきたのでしょうか?

セリプスキー氏:3月11日の大地震は非常に悲しい出来事でした。これ以降、データセンターなどの戦略を立て直す企業が多くなってきたのは確かです。

 東京のデータセンターは、大地震の8日前にオープンしたのですが、大地震に遭ってもまったくダウンタイムはありませんでした。これは、データセンターを設置する前から、地震や災害を考えて、データセンターを設計したり、アベーラビリティゾーンというコンセプトを入れたりることで、信頼性を高めたりしていた結果だと考えています。

 大地震以降、日本赤十字社のWebサイトをAWSでホスティングしたり、さまざまな自治体やNPOに対してサーバーのホスティングを提供したり、災害支援システムのサーバーとして利用したりしていただきました。こういったことからも、AWSの高い信頼性が評価されて、多くの企業からディザスタリカバリやバックアップなどのご相談を受けています。

AWSは、全世界に5カ所、大規模なリージョンを用意している。エッジサーバーに関しては、さまざまな場所に設置されている

 また、東京データセンターができて、多くのお客さまは、選択肢が広がったとおっしゃっていただけます。AWSは、米国(東/西海岸)、欧州、アジア(シンガポール)、日本と5つのリージョンが用意されています。お客さまは、必要に応じて、世界中のデータセンターを利用することができます。日本のお客さまは、東京のデータセンターだけに縛られているわけではなりません。

 東京データセンターを設立してからは、日本国内にデータが保持されるということで、海外のデータセンターにデータが置かれることに違和感を抱かれていたお客さまにとっては安心感が出てきました。

 加えて、ネットワークのレイテンシでメリットがありますね。サーバーの反応などを重視してサービスを運用されているお客さまにとっては、数ms単位まで速くなっていることを重視されています。

 

お客さまのニーズに合ったサービスを拡充している

――先ほど、日本ではHPCやビッグデータなどでAWSを利用される事例が多く見られるとお話になりましたが、将来的にAWSにビジネスインテリジェンス(BI)ツールなどミドルウェア領域に手を広げて、PaaSレイヤをAWSに搭載していく予定はあるのでしょうか?

AWSを使ったサービスの主要例。エンタープライズでは、Oracleのデータベース、SAP、マイクロソフト、DassaultなどのアプリケーションがAWS上で構築されている

セリプスキー氏:最初にお断りしておきたいのですが、現在多くのメディアなどで言われているIaaS、PaaSといったバズワードは無意味だと思います。AWSは、お客さまにとって必要とされているサービスを提供しているのです。だから、IaaSやPaaSといった分類には当てはまらないんです。

 Elastic MapReduceは、多くのお客さまがHadoopを利用し始めて、より構築を簡単にしたいというニーズを受けて、サービスメニュー化していったんです。また、アプリケーション層では、Elastic Beanstalkというサービスを提供しています。

 このサービスを使えば、AWSのアプリケーションを迅速にデプロイし管理できます。お客さまは単にそのアプリケーションをアップロードするだけで、Elastic Beanstalkが自動的に容量のプロビジョニング、ロードバランシング、自動スケーリング、およびアプリケーション・ヘルスモニタリングといったデプロイの詳細を処理します。同時にElastic Beanstalkでは、お客さまのアプリケーションを稼働しているAWSリソースの完全なコントロールを維持でき、いつでも基本的なリソースにアクセスすることができます。

 われわれは、歴史的にお客さまに使っていただけるサービスを提供するというのを基本にしています。また、いいサービスであっても使いづらいものではダメです。できるだけ簡単に利用できるということをモットーにしています。

 日本のユーザーからのリクエストとしては、(隔離した顧客専用領域と顧客のデータセンターとをVPNで接続する)Virtual Private Cloud(VPC)を、東京リージョンでも提供してほしい、というものがありました。VPCでは、企業のオンプレミスのインフラとAWSのクラウドを安全に接続することで、AWSのクラウドを、自社データセンターの延長として使っていただけるようになります。日本企業が求めるセキュリティ、プライバシー、管理を提供できる、重要なサービスです(編集部注:日本でも8月よりサービスが開始された)。

――日本でビジネスを進めていく上では、代理店やシステムインテグレータとの連携が重要になってきます。そういった上で、日本のAmazon Web Servicesという組織どのようにしていくのですか?

セリプスキー氏 東京データセンターを設ける時に、幅広い人材を採用しています。日本語のテクニカルサポートを開始したり、テクニカルエバンジェリスト、ソリューションアーキテクト、エンタープライズアカウントなどの人員を採用しています。また、日本国内のシステムインテグレータとは、強力なパートナーシップがあります。CSKやアクセンチュアジャパン、NRI、日立、ISIDなどのパートナーがしっかりとAWSを使ったサービスをお客さまに提供されています。今後は、着実にこういったパートナーとの協業を進めていきたいと思っています。

 

クラウドはIT部門の役割を変える

――最後に、クラウド・コンピューティングはITをどのように変えていくのでしょうか?

セリプスキー氏:クラウド・コンピューティングが出現する以前は、30〜40年間、まったく同じ手法でコンピューティング環境を構築していました。データセンターを設置するには、各種サーバーやストレージを設置するという巨額な初期投資が必要でした。また、データセンターを運用するためには、専門の人員が数多く必要とされていました。

 クラウド・コンピューティングという概念は、根本からITシステムを作り替えることになりました。クラウド・コンピューティングにより、膨大なハードウェアに関する初期投資なしに、ITシステムを使用することができるようになりました。それも、長期の契約に縛られることもなしに、月々使ったリソース分を支払えばいいのです。もちろん、リソースが必要になれば追加したり、不要になれば削減したりすることが容易になっています。

 今後、多くの企業は自社ではデータセンターを設置せずクラウドへと移行していくでしょう。自社で運用する場合でも、ある特定目的のデータ運用に変わってくるでしょう。

 こういうことを考えれば、IT部門の役割は、システムの運用や保守という部分ではなく、もっと戦略的なITを推進していくことになるのではないでしょうか。社内でITシステムを利用するユーザーのニーズを満たしたり、今後の新しいビジネス形態に対応するためのベースとしてITシステムを構築したりすることが役割になるでしょう。

 多くのクラウドサービスを提供する企業が出てきていますが、AWSはこの分野でのトップランナーとしてのアドバンテージを生かして、高い信頼性、低コスト、利用者に必要なサービスをタイムリーに提供していきます。

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